004 煙幕術式
若い子たちが、ポールモールを怖がったのを見て、ウィットは鼻を鳴らす。
「さすがはポール。若い子たちが、みんな逃げちまったよ」
ポールモールは、変わり果てたウィットを見て、しばし顔を凝視する。
「……まぁ、魔力はウィットだな。しかし、なんでこんな姿に?」
魔力は、個体識別もできる。ポールモールは、確かにウィットの魔力を感じ取った。
「息子が実験に付き合ってくれ、と言ってきたんだよ。おれもあまり子どもたちにかまってやれなかったから、いっそこの姿を受け入れようと思ってさ」
「ルカスくんも、変な実験したがるな」
「そして、おれはメイド・イン・ヘブン学園に入らなきゃいけないらしい」
「は? MIH学園に? なんで?」
「子どもたちがせがんでくるんだ。あそこは危険なところだから、おれに着いてきてほしいって」
「だからおれを呼んで、魔術がどれくらい通用するか知りたかったのか」
「そういうこった」
ウィットは苦笑いを浮かべる。
「そうかい。なら、場所を変えるぞ。手、握れ」
「あぁ」
ウィットは、その小さな手でポールモールのゴツゴツした手を握る。
その刹那、
ウィットとポールモールは、アンゲルス連邦共和国の領内の無人島にワープしていた。
「相変わらず、空間移動術式は健在だな」
「オマエと違って引退してねェからな。オマエが結婚してガキ作る、って聞いたときは驚いたもんだ」
「おれみてェなクソ野郎が、ここまで子どもとの関係を維持できるとは思ってもなかったよ」
「だけど、メイベルさんはもう亡くなったんだろ?」
メイベルとは、ウィットの妻である。彼女は裏社会と直接関係がないものの、たまたまクラブで知り合い、そのまま結婚まで行った。
「……あぁ。全部おれが悪い。メイベルが殺されたのも、おれが裏稼業で小汚ねェカネを稼いでたからだしな」
「その通りだな。だから無法者ってヤツらは、結婚もガキも作っちゃいけねェんだ」
「今更遅せぇけどな」
「それでも、アルスちゃんとルカスくんは生きてるんだろ? 死んだヒトのことよりも、生きてる子のことを思いやってやれ」
「独身貴族にそう言われるとはねぇ」
「一般論だ。さて……」
ポールモールは、軽くストレッチし始めた。ウィットもそれに続き、身体を動かす。
「はっきり言うが、もう引退してるオマエとおれとじゃ、勝負にもならねェと思うぞ。しかも今のオマエ、女児だからな?」
「別にそれで構わないさ。大事なのは、MIH学園に耐えられるくらい、腕が鈍ってないか確認することだしな」
「そうかよ。なら、手加減しておくぞ」
「あぁ、頼む」
準備運動が終わり、ウィットとポールモールは森林広がる無人島で、対決する。
ポールモールは空間移動術式の他にも、大量の手札を持っている。それでも全盛期のウィットなら勝てたかもしれないが、酒浸りでろくに魔術も使っていない今のウィットだと、正直勝てる勝負だとも思えない。
だからこそ、色々試したい。ウィットは小さく息を吐いて、拳をあわせる。
「さぁ……行こうかッ!!」
ウィットがそう言うと、金髪の少女は姿を消し去った。まるで煙のように。
ポールモールは冷静に、魔力の流れを追う。背後からか、それとも前からか。
いや、斜め後ろからだ。ポールモールはワープし、ウィットの蹴りを避ける。その蹴りの風圧で、森林がにわかに揺れた。
「なんだよ、あまり衰えていねェな」
ポールモールはそう呟き、再び煙のごとく消え去ったウィットを捉えるべく、ワープを繰り返す。
しかし、ウィットはそうなることを折り込み済みだった。
「……ッ」
巨大な煙になったウィットは、その煙幕でポールモールの首根っこを掴む。
そして、
彼を地面に叩きつけた。
「オマエらしくねぇな、ポール。おれの〝煙幕術式〟の本質は、掴める範囲を広げられることだぞ」




