003 旧友との再開
アルスの言葉は、少しばかりウィットを救ってくれた。ウィットの父はクソ野郎だったが、ウィット自身はある程度子どもたちの親をやれている、と言ってくれたからだ。
「そー。父さんは最低だけど、論外じゃないからね。母さんがいたときは、ちゃんと父さんしてくれてたし」
ルカスの言葉は、偽りない本音に聞こえる。
思えば、妻が亡くなった頃からすべてがおかしくなり始めた。自分のやってきたことを、心底悔やんだ。だけど、もしかしたらやり直せるかもしれない。やり直せるチャンスが、目前に迫ってきているかもしれない。
ルカスは笑みを浮かべる。「んじゃ、後期入学に向けて魔術の練習しよっか」
「あぁ。大分なまっていると思うがな」
「パパなら大丈夫だよ。私たちに魔法のイロハを教えてくれたのは、パパだからね」
そういえば、妻が亡くなる前、そしてふたりがメイド・イン・ヘブン学園の小学部に入る前、魔術の基本を教えたのはウィットだった。ウィットは優れた魔術師で、それが故無法者としても秀でていたのだ。
「第二の人生、だな」
ウィットは、腹積もりを決めるのだった。
*
『よう。どうした? 伝説の大強盗さんよ』
「ポール、頼みがあるんだが──」
『あァ? オマエ、誰だよ』
ウィットは、旧友のポールモールに電話をかけた。ポールモールは昔、手を組んで様々な犯罪に挑んだ男だ。しかし、少女になって声が高くなったウィットに、ポールモールは他人だと思っているようだ。
「色々あったんだ。簡潔に言うと、息子にTS薬? を盛られた」
『どういうこった。息子のルカスくんにTS薬を盛られた? 良く分からんが、直接会えば分かるか。マグナム・ストリートに来い。魔力で判別する』
「あぁ、恩に着る」
電話を切り、ウィットは着る服がないことを知る。幸いなことに、娘アルスと身長・体型があまり変わらないので、彼女から借りれば良いだろう。ウィットは、アルスの部屋へ向かっていく。
「このクソ野郎が!! あたしに死体撃ちなんて、数百年早いわ!! おらおら! 屈伸された気分はどうだ!? この淫売の息子の狗野郎がぁ!!」
……アルスは、暴言を吐き散らしていた。ヘッドホンをつけているので、ウィットの存在に気がついていない。仕方ないので、ウィットはアルスの肩を叩く。
「あ、パパ……」
「あまり汚い言葉を言うもんじゃないぞ……。服を貸してくれないか? ベルトで無理やりデニムを締めているんだが、さすがに丈があわないんだ」
「あ、うん。分かった。そこのクローゼットから、適当な服持ってって」
少し気まずそうだが、すぐヘッドホンをつけてコントローラーを握る辺り、ゲーム依存症なのは間違いない。イマドキの若者の気持ちは分からん、と思いつつ、ウィットは適当なデニムとパーカーを持っていく。
「ブラジャーはいらないか。かなりの貧乳だしな」
白いパーカーと黒いデニムに着替え、ウィットはトランクスパンツのまま外へ出る。いつも通り車に乗ろうとしたが、この姿では運転するのもまずい。流しのタクシーを拾って、ウィットは〝マグナム・ストリート〟へと向かうのだった。
*
「あの子、可愛くね?」
「な。おれらと同い年くらいだぜ」
「おれ、ナンパしようかな……」
10代後半くらいの子どもの声を聞き、いよいよ自分が美少女になったことを痛感する。中身45歳のおっさんをナンパなんて、正気の沙汰でないが、美少女がいたらナンパしたくなるのが男の性だ。
そんなウィットの元に、巨漢がやってきた。黒髪をオールバックにしていて、顔立ちの整った30代後半の男。ポールモールだ。
「あれ、お父さんかね」
「おれ、ナンパやめておくわ……。あのヒト怖すぎ」




