002 最低だけど論外じゃない
かなり支離滅裂なことを言われ、ウィットとアルスは顔を合わせ合う。
「……ルカス、さすがに良くないぞ。おれはそんな教育をしたつもりはない」
「父さん、おれや姉ちゃんになにか教えてくれたっけ?」
ルカスはニヤニヤした顔から、真剣な表情になった。彼は続ける。
「母さんが死んで以来、おれらはなーンも教えられてないもん。どこかへ連れて行ってくれた記憶もない。はっきり言って、父さんは父親として最低だからね?」
ウィットは、なにも言い返せなかった。妻が死んでから、抜け殻のようになったウィットは、正直子どもたちに構うことすらも放棄していた。その不満は、娘アルスにもあるはずだ。
「そんな言い方ないでしょ、ルカス。パパだってパパなりに考えて──」
「考えてるだろうね。きょうはどんな酒で自分を壊すか」
「……!!」
「そういうことだよ。ならせめて、おれの実験に付き合ってくれないと、割にあわない」
ルカスの不満はもっともだ。むしろアルスが擁護してくれるだけ、ありがたいと感じるべきだとも思う。
「……分かったよ、ルカス。オマエの実験とやらに付き合ってやる」
「おー、さすが父さん」
「その代わり、いい加減学校へ行け。アルスも、だ。せっかく名門の〝メイド・イン・ヘブン学園〟に入れたのに、不登校になるなんてもったいないぞ」
「お安い御用だよ、父さん☆」
「……分かった」
あっさり、アルスとルカスは納得してくれた。これなら、最初から話し合うべきだったかもしれない。
「でもさー。おれらだけで学校行くの、不安なんだよね」ルカスは軽い態度で続ける。「なんせ、メイド・イン・ヘブン学園は実力至上主義だからね。しかも余計なしがらみが多い。おれも姉ちゃんもそれなりに位高けェけど、あそこは本当にダリィ場所なんだよ」
「……なにが言いたい」
「分かってる癖に」ルカスはウィットの目をしっかり見据える。「父さん、中学もろくに出てないんでしょ? その頃には強盗で捕まってたもんね。だったらさ、学校へ行ってみるのも良いんじゃない? というか、行くべきじゃね?」
ウィットは、ガクッとうなだれる。ことし45歳になるおっさんが、高校に行けだと? 冗談にしても面白くない。
「悪いが、おれは学校なんかに馴染めねェぞ。こんなこと子どもに言いたくないが、本質的に悪党だからな」
「大丈夫。あの学校にも悪いヤツらはたくさんいるから」
「悪さの次元が違うだろう」
「そうかな。学校に属しながら、強盗やら麻薬取引やらに手を染めてるヤツがいるって話だよ」
「凄まじい時代だな……。アルス、本当なのか?」
「う、うん。メイド・イン・ヘブン学園は、本質的に魔術師を養成する学校だからね。魔術犯罪は頻繁に起きるし、先生たちも対処し切れていない。しかも悪いヤツらは、マフィアやギャングとつながりがあるから、なかなか逮捕もされないんだ」
世も末だ、とウィットは思う。世界で唯一魔術を国是とする、〝アンゲルス連邦共和国〟だからこそ抱える問題。そして、悪党の悪事を解決できるのは、案外同じ悪党だったりする。
「そうか……。分かったよ。そんな危険な場所だと知らなかった、おれのミスだ。懺悔じゃないが、入学試験を受けてみるよ」
「おー、やったね。父さんがいれば、あのクソどもも震え上がるさ」
「でもな。アルス、ルカス」
「「なに?」」
「本当に父親と学校へ行きたいか? おれの父……オマエらにとっての祖父はクソ野郎だった。暇さえあれば、母やおれを殴って、酒に浸っていた。だからその……おれはどうしても父親という存在が嫌いでな。オマエらの父親が言うのも変だが」
アルスが微笑みかける。「パパは私たちに手をあげたりしないじゃん。酒浸りなのはそうだけど、別に危害を加えてくるわけじゃない。だから、別にパパが父親失格だとは思ってないよ」




