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第9話.見つかる音

 防波堤の陰。

 足音が遠ざかったのを確認してから、どれくらい経っただろう。

 春川 悠真は、ゆっくりと体を動かした。

 今なら行ける。

 今しかない。

 立ち上がろうとして――

 足元の小石を踏んだ。

 コツン。

 乾いた音。

 静まり返った海辺に、不自然なほど大きく響いた。

 しまった、と思った時には遅かった。

「……今の音」

 玲奈の声。

 近い。

 振り向く。

 二人の影が、こちらへ向かってくる。

 目が合った。

 凍りつく。

「いた」

 玲奈の瞳が見開かれる。

「悠真くん!!」

 叫び声。

 反射的に走り出す。

 砂浜は足を取られる。

 うまく進めない。

 それでも止まらない。

「待って!!」

 玲奈の泣き声。

「逃げないで!!」

 依月の声も追ってくる。

「先輩、止まってください」

 振り返らない。

 振り返ったら、終わる。

 街に入る。

 細い路地を曲がる。

 また曲がる。

 どこを走っているのか分からない。

 肺が焼ける。

 足がもつれそうになる。

 それでも――

 やっと見覚えのある景色が見えた。

 自分の家。

 鍵は――開いていた。

 転がり込むように中へ入る。

 靴も脱がず、奥へ。

 階段を駆け上がる。

 自分の部屋。

 扉を閉める。

 息を殺す。

 どうする。

 隠れる場所。

 クローゼット。

 いや、見つかる。

 ベッドの下。

 すぐ探される。

 視線が止まる。

 タンス。

 大きな衣装タンス。

 中を開ける。

 服をかき分け、無理やり体を押し込む。

 扉を閉める。

 暗闇。

 自分の呼吸音だけが響く。

 数分後。

 玄関の開く音。

 血の気が引く。

 足音。

 階段を上がる音。

 止まる。

 ドアノブが回る。

 部屋に入ってくる気配。

「……いるよね?」

 玲奈の声。

 涙混じり。

「悠真くん」

 依月も入ってくる。

「家に戻ると予測しました」

 足音が近づく。

 心臓が壊れそうになる。

 タンスのすぐ前で止まる気配。

 扉越しに、二人の存在を感じる。

「どうして逃げるの」

 玲奈の声が、すぐ近くで震える。

「私たち、そんなに怖い?」

 依月が静かに言う。

「怖くありません」

 断言。

「先輩は、私たちを必要としています」

 玲奈が囁く。

「ねぇ」

 優しく。

 狂気を含んだ声。

「出てきて」

 扉に手が触れる音。

「もう逃げなくていいから」

 悠真は、動けなかった。

 暗闇の中で。

 呼吸を押し殺しながら。

 願う。

 どうか気づかないでくれと。

 でも同時に。

 このまま見つからなかったら、

 ずっとここに閉じ込められる気もしていた。

 愛から逃げるために。

 また別の檻に入るみたいに。

 タンスの向こうで。

 二人の気配が、消えない。


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