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第7話.開いてしまった出口

 深夜。

 時計の止まった部屋は、音がない。

 寝息だけが、左右から微かに聞こえる。

 白雪 玲奈は、悠真の腕にしがみつくように眠っていた。

 黒崎 依月は、反対側で彼の服の裾を握ったまま。

 二人とも、安心しきった顔。

 ――その時。

 カチ、と小さな音がした。

 手首の拘束具。

 留め具が外れた。

 最初は理解できなかった。

 ゆっくりと手を動かす。

 外れている。

 完全に。

 心臓が、暴れる。

 動いたら起きるかもしれない。

 でも。

 今を逃したら、もう二度とない。

 玲奈の手をそっと外す。

 依月の指を一本ずつほどく。

 呼吸が止まりそうになる。

 けれど――起きない。

 ベッドから降りる。

 足が震える。

 床がきしむ。

 止まる。

 静寂。

 まだ眠っている。

 窓を見る。

 カーテンがわずかに揺れている。

 隙間から夜の風。

 近づく。

 開いている。

 数センチじゃない。

 人が通れるほど。

 どうして。

 なぜ

 考える余裕はない。

 窓枠に手をかける。

 外は闇。

 でも確かに、外だ。

 振り返る。

 二人はまだ眠っている。

 穏やかな顔で。

 まるで普通の恋人みたいに。

 胸が痛む。

 それでも――

 悠真は窓を越えた。

 冷たい夜風が全身を包む。

 地面に降りる。

 足に衝撃。

 それでも立つ。

 走る。

 振り返らない。

 絶対に振り返らない。

 部屋の中。

 数分後。

 玲奈の目が開いた。

 腕の中の温もりがない。

「……あれ?」

 ゆっくり起き上がる。

 隣を見る。

 いない。

 依月も目を覚ます。

 状況を理解するのに、時間はかからなかった。

 窓。

 揺れるカーテン。

 開いたままの夜。

 玲奈の顔から血の気が引く。

「……うそ」

 震える声。

「また……?」

 依月の瞳が細くなる。

「今度は」

 静かな怒り。

「事故です」

 玲奈が崩れ落ちる。

「やだ……やだやだやだ……」

 頭を抱える。

「今度こそいなくなる……」

 依月が窓の外を見る。

 暗闇の向こう。

「追います」

 短い一言。

 玲奈が顔を上げる。

 涙でぐちゃぐちゃのまま。

「絶対……連れて帰る」

 その目は、今までで一番壊れていた。

 夜の街を走りながら。

 悠真は初めて思う。

 今度こそ、本当に逃げられるかもしれないと。

 でも同時に。

 背中に視線を感じる。

 振り向いてはいけない。

 振り向いたら。

 きっと――

 戻ってしまう。

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