第5話.愛してる、だから出して
朝。
目が覚めたとき、悠真は動かなかった。
抵抗もしない。
逃げようともしない。
ただ天井を見ていた。
「……先輩?」
依月が不安そうに覗き込む。
玲奈も顔色を変える。
「どうしたの……?」
悠真はゆっくりと視線を向けた。
「もう逃げない」
静かな声。
二人の呼吸が止まる。
「ここにいるよ」
玲奈の目に涙が浮かぶ。
「本当に……?」
「うん」
小さく笑った。
初めて、自分から。
「だって二人とも、俺のこと好きなんでしょ」
その言葉は、毒のように甘かった。
玲奈が崩れ落ちる。
「好き……好き……大好き……!」
依月の手も震えている。
「信じて、いいんですね」
「信じて」
悠真は、玲奈の手を握った。
そして反対の手で、依月の指を絡める。
「俺も、必要だから」
その瞬間。
二人の中で何かが壊れた。
安心と、喜びと、狂気が混ざる。
「ねぇ」
悠真が言う。
「外、少し見たい」
玲奈がびくっとする。
「外……?」
「すぐ戻る」
優しく笑う。
「二人がいないと無理だから」
依月が玲奈を見る。
玲奈が依月を見る。
迷い。
そして――
「……私も一緒に行くなら」
玲奈。
「監視下なら問題ありません」
依月。
ドアの鍵が開く音。
久しぶりに見る廊下。
息が苦しくなるほどの解放感。
玄関の扉が開く。
光。
外の空気。
風。
その瞬間。
悠真は振り返った。
「ありがとう」
心から嬉しそうに笑う。
二人はその笑顔に見惚れた。
――一瞬だけ。
その隙に。
悠真は外へ駆け出した。
「待って!!」
「先輩!!」
叫び声が背後から追いかけてくる。
でも止まらない。
止まったら終わる。
角を曲がる。
さらに走る。
胸が痛い。
息が切れる。
それでも――
止まらない。
やっと。
やっと外に出られた。
普通の世界。
人の声。
車の音。
空。
涙が出た。
その時。
ポケットの中で、何かが震えた。
知らない携帯。
画面に表示された名前。
玲奈
震える指で開く。
『大丈夫』
メッセージ。
『逃げてもいいよ』
次の瞬間。
依月からも。
『先輩は必ず戻ってきます』
心臓が凍る。
『だって』
『私たちしかいないから』
背後から足音が近づく気がした。
振り向けない。
悠真は悟る。
外に出られたのに。
まだ終わっていない。
この愛は――追ってくる。




