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第4話.部屋から逃げた罰

夜だった。

 部屋の明かりは消され、窓の隙間からわずかな月光だけが差し込んでいる。

 寝息。

 左右から。

 白雪 玲奈と黒崎 依月は、ベッドの両側に寄り添うようにして眠っていた。

 ――今しかない。

 春川 悠真は、ゆっくりと手首を動かす。

 布のベルトは昼間より緩くなっていた。

 玲奈が「痛そうだから」と言って緩めたのだ。

 少しずつ。

 音を立てないように。

 外れた。

 心臓がうるさい。

 ベッドから降り、そっとドアへ向かう。

 鍵は――かかっていない。

 冷たいノブを回す。

 開いた。

 廊下は暗く、静まり返っている。

 行ける。

 そう思った瞬間。

「どこ行くの?」

 背後。

 凍りついた。

 振り返る。

 玲奈が立っていた。

 笑っていない。

「……悠真くん」

 声が震えている。

「なんで」

 一歩、近づく。

「なんで逃げるの?」

 涙が溢れる。

「ここ嫌だった?」

 言葉が出ない。

「私、いっぱい考えたんだよ?」

 胸を押さえる。

「どうすれば悠真くんが安心できるか」

 その顔が崩れる。

「なのに……逃げるの?」

 ――違う。

 そう言おうとした瞬間。

 後ろから腕を掴まれた。

 依月。

「予測していました」

 静かな声。

「先輩は逃げようとする人です」

 逃げ場が完全に塞がる。

「戻ります」

 有無を言わせない力で部屋へ引き戻される。

 ベッドに座らされる。

 玲奈が目の前にしゃがみ込む。

「怖かった……」

 両手で頬を包まれる。

「いなくなるかと思った」

 指が震えている。

「ねぇ、どうして?」

 責める声じゃない。

 壊れそうな声。

 依月が後ろから肩に手を置く。

「罰が必要です」

 冷たい宣告。

「逃げようとした代償を理解してもらいます」

「やめて」

 玲奈が遮る。

「怖がらせたら嫌われちゃう」

 そして、微笑んだ。

「優しくする」

 背筋が寒くなる。

「逃げたくならないくらい、優しくする」

 依月も頷く。

「徹底的に依存させます」

 二人の手が重なる。

 逃がさないように。

「悠真くん」

「先輩」

 同時に囁く。

「私たちだけ見て」

「外なんて必要ないです」

 玲奈が胸に抱き寄せる。

「ね?」

 依月が耳元で言う。

「もう逃げないで」

 理解してしまった。

 逃げようとすればするほど、

 この愛は濃くなる

 ――出口はない。

 外に出ることも、

 二人から離れることも。

 悠真の心に、初めて恐ろしい考えがよぎる。

 もし――

 最初から諦めていたら、

 こんなに苦しくなかったんじゃないか。

 その瞬間。

 玲奈が嬉しそうに笑った。

「大丈夫」

 まるで心を読んだみたいに。

「すぐ慣れるよ」

 依月も言う。

「ここが、先輩の居場所になります」

 時計の針は、やはり動いていない。

 止まった世界の中で。

 愛だけが、静かに狂っていく。

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