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最終話.復讐者

先輩の言葉が消えたあと。

部屋の空気が変わった。

静かに。

決定的に。

後輩が立ち上がる。

俯いたまま。

表情が見えない。

「……ねえ」

小さな声。

壊れた子どものような。


「殺していい?」


誰に向けた言葉か分からない。

自分にか。

幼馴染にか。

それとも。

主人公にか。

顔を上げる。

涙でぐちゃぐちゃなのに。

笑っていた。

完全に壊れた笑顔。

「もういいよね?」

幼馴染が前に出る。

静かに。

冷たく。

感情を全部凍らせた顔で。

「対象変更」

低い声。

「奪還から——殲滅へ」

主人公の背筋が凍る。

この二人は。

もう止まらない。

少女は首を傾げる。

「どうしたの?」

本気で分かっていない。

「邪魔だったからどかしただけだよ?」

次の瞬間。

後輩が叫ぶ。

「それが許せないんだよ!!!!」

床を蹴って突進する。

さっきまでとは別人の速度。

恐怖も痛みも消えている。

ただ復讐だけで動いている。

幼馴染も同時に動く。

逃げ道を完全に封鎖する動き。

プロ級の脚力。

獲物を仕留める狩人の動き。

少女の目が細くなる。

初めて。

ほんの少しだけ。

警戒の色。

「……怖い顔」

静かな声。

「そんな顔しなくてもいいのに」

主人公の手を引く。

「大丈夫、守るから」

その言葉が。

二人の怒りに油を注ぐ。

後輩の刃が振り下ろされる。

幼馴染の蹴りが空気を裂く。

同時。

完璧な挟撃。

爆発のような衝突。

部屋が揺れる。

窓が割れる。

警報がさらに激しく鳴る。

主人公は叫ぶ。

「やめろ!!!!」

でも届かない。

誰にも。

後輩の声が響く。

「返して」

涙と狂気の混ざった声。

「私の大事なもの、全部返して」

幼馴染の声は低い。

「代償は払わせる」

完全な復讐者の声。

少女は二人を見て、初めて少しだけ悲しそうな顔をした。

「そっか」

小さく呟く。

「あなた達も、本気なんだ」

次の瞬間。

空気が変わる。

今までとは比べ物にならない圧。

少女の“本気”。

主人公だけが理解する。

ここで止めないと。

本当に誰かが消える。

もう戻れないところまで行く。

復讐は止まらない。

愛も止まらない。

物語は、破滅に向かって一直線。

衝突の中心で。

誰も引かなかった。

誰も止まらなかった。

後輩の刃。

幼馴染の一撃。

少女の腕。

三つの狂気が、同時にぶつかる。

次の瞬間。

静寂が落ちた。

誰も動かない。

何が起きたのか理解できないほどの、一瞬。

床に落ちたのは。

ナイフだった。

乾いた音がやけに大きく響く。

その隣に。

後輩が倒れていた。

目を見開いたまま。

信じられないという顔で。

「……え?」

主人公の喉から、かすれた声が漏れる。

理解が追いつかない。

少女の手が、わずかに震えていた。

何かを庇うように。

何かを止めるように。

その結果。

後輩だけが、直撃を受けた。

幼馴染が叫ぶ。

声にならない声。

崩れ落ちる。

「……嘘」

後輩の唇が微かに動く。

最後の力。

主人公の方を見る。

涙が溢れていた。

「……先輩のとこ」

小さな声。

ほとんど聞こえない。

「行かなきゃ」

そのまま。

動かなくなる。

部屋の中から、何かが消えた。

確かに存在していたはずの温度。


声。

執着。

狂気。

全部。


主人公の視界が歪む。

膝が崩れる。

もう立てない。

幼馴染が、ゆっくり顔を上げる。

表情がない。

完全な空白。

「……二人」

呟く。

壊れた機械のように。

「奪われた」

少女は立ち尽くしている。

初めて。

何も分からないという顔で。


「どうして?」

小さな声。

「守ったのに」

誰も答えない。

答えられない。

主人公だけが理解してしまう。

この物語は。

もう戻れない。

誰も幸せにならない。

遠くでサイレンの音が近づいてくる。

赤い光が窓から差し込む。

すべてが終わる音。

幼馴染が主人公を見る。

静かに。

深く。

底のない目で。

「次は、誰も奪わせない」

少女が主人公の手を握る。

強く。

逃げ場がないほどに。

主人公は動けない。

逃げられない。

泣くこともできない。

愛された証は。

消えない傷として残る。


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