第3話.閉じた世界で、愛を選べ
目が覚めたとき、最初に感じたのは――静けさだった。
春川 悠真は、ゆっくりとまぶたを開ける。
知らない天井。
白い。
やけに白い。
「……ここ、どこ……」
身体を起こそうとして、気づいた。
手首に柔らかい感触。
見ると、ベッドの柵に布のベルトで固定されていた。
きつくはない。
けれど外れない。
心臓が跳ね上がる。
「起きたんだ」
声。
部屋の隅。
白雪 玲奈が椅子に座っていた。
目の下に薄い隈。
けれど、微笑んでいる。
「よかった……本当に、よかった」
安堵したように胸に手を当てる。
「もう会えないかと思った」
「先輩……?」
声が震える。
「ここ、どこですか」
玲奈は答えなかった。
代わりに、立ち上がって近づいてくる。
そして、そっと頬に触れた。
「大丈夫だよ」
優しい声。
「ここなら、誰にも邪魔されないから」
その言葉の意味を理解する前に――
カチャ、とドアが開いた。
黒崎 依月。
無表情のまま入ってくる。
「……起きましたか」
手にはトレー。
水と、簡単な食事。
状況が、繋がる。
「……なんで」
喉が乾く。
「なんで二人が……」
依月は当然のように答えた。
「協力しました」
思考が止まる。
「先輩を守るためには、先輩を隔離する必要がありました」
「違うよ」
玲奈が小さく笑う。
「私たちを守るため、だよ」
背筋が凍る。
「だって外にいたら」
玲奈の声が壊れていく。
「誰かに取られちゃうかもしれないじゃん」
依月がベッドの反対側に立つ。
「ここなら安全です」
窓には、分厚いカーテン。
外の様子は見えない。
「学校は?」
「心配いりません」
「家族は?」
「連絡済みです」
何を、どうやって。
考えるほど恐ろしくなる。
玲奈がベッドに腰掛ける。
「ねぇ悠真くん」
手を握る。
「これでずっと一緒だよ」
依月も反対の手を握った。
「安心してください」
逃げ道が、完全に塞がる。
「二人で大事にしますから」
玲奈が微笑む。
「ね?」
依月も静かに言う。
「選ばなくていいです」
「私たちが分け合うから」
理解してしまった。
この二人は争うのをやめたわけじゃない。
――所有を共有することにしただけだ。
「ねぇ」
玲奈が耳元で囁く。
「嫌いにならないでね」
依月が反対側で言う。
「嫌いになったら」
二人同時に。
「「壊れちゃうから」」
部屋の時計は止まっていた。
時間のない世界。
閉じた愛。
逃げ場のない、三人だけの空間。
悠真は悟る。
ここから先は、もう普通の恋じゃない。
――これは、愛という名の檻だ。




