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第29話.最初で最後の願い

床に倒れたままの先輩。

誰も近づけない空気の中で。

微かに——

指が動いた。

「……っ」

主人公が息を呑む。

見間違いじゃない。

まだ、意識がある。

後輩が叫ぶ。

「先輩!!」

幼馴染も動揺する。

少女だけが首を傾げる。

「まだ壊れてないの?」

先輩の唇が震える。

声にならない息が漏れる。

それでも。

必死に、言葉を作ろうとしている。

主人公は拘束されたまま、叫ぶ。

「喋るな!!」

「もういいから!!」

でも。

先輩は、笑った。

あの頃と同じ。

少し困ったような、優しい笑顔。

「……ねえ」

掠れた声。

かすかすで、今にも消えそうなのに。

はっきりと届いた。

「覚えてる?」

主人公の視界が滲む。

先輩との日々がよぎる。

放課後。

屋上。

何でもない会話。

「最初に……」

息が途切れそうになる。

それでも続ける。

「好きって言ったの……私だよ」

後輩が泣き崩れる。

幼馴染が歯を食いしばる。

少女は黙って見ている。

理解できないという顔で。

先輩は主人公だけを見ていた。

最後まで。

他は何も見えていない。

「ねえ……」

涙が一筋流れる。

「一回でいいから」

震える声。

「私を選んでほしかったな」

時間が止まる。

誰も動けない。

音も消える。

先輩は満足そうに目を細める。

「でも……」

最後の力で、微笑む。

「好きになってよかった」

手が床から滑り落ちる。

完全に。

動かなくなる。

静寂。

誰も言葉を発せない。

主人公の頬を涙が伝う。

止められない。

止める資格もない。

少女が不思議そうに聞く。

「なんで泣いてるの?」

悪意のない声。

本気で分からないという顔。

後輩の目が壊れる。

幼馴染の拳が震える。

二人の中で何かが決定的に変わる。

先輩はもういない。

でも。

残した言葉は消えない。

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