第26話.壊れる音
誰が最初に動いたのか分からない。
ただ——
次の瞬間。
鈍い音が部屋に響いた。
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先輩の体が宙を舞った。
壁に叩きつけられる。
床に崩れ落ちる。
動かない。
「……え?」
後輩の声が震える。
幼馴染の目が見開かれる。
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少女は立っていた。
何もしていないような顔で。
ただ、主人公の前にいるだけ。
「触らないで」
小さな声。
それだけだった。
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先輩の下に血が広がっていく。
ゆっくりと。
現実を侵食するように。
「先輩……?」
後輩が近づこうとして、止まる。
少女の視線に射抜かれたから。
動けない。
本能が警告している。
——近づいたら終わる
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主人公の喉が震える。
「やめろ……」
声が出ない。
頭が真っ白になる。
目の前の光景が理解できない。
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幼馴染が一歩踏み出す。
怒りでも恐怖でもない。
覚悟の顔。
「……あんた」
低く言う。
「それ以上やったら、本当に敵になる」
少女は不思議そうに首を傾げる。
「最初から敵だよ?」
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その言葉で、空気が砕けた。
後輩が叫ぶ。
「返してよ!!!」
ナイフを振り上げて突進する。
泣きながら。
壊れながら。
⸻
次の瞬間。
後輩の腕が止まっていた。
少女に掴まれて。
微動だにできない。
「危ないから」
静かな声。
「大人しくしてて」
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後輩のナイフが床に落ちる。
カラン、と乾いた音。
膝から崩れ落ちる。
「なんで……」
涙が止まらない。
「なんであんたがいるの……」
⸻
主人公が叫ぶ。
今度は声が出た。
「もうやめてくれ!!!」
部屋に響く。
初めての、本気の叫び。
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少女が止まる。
ゆっくり振り返る。
傷ついた顔をする。
「……嫌いになった?」
子どものような声。
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そのとき。
倒れていた先輩の指が、微かに動いた。
かすかな呼吸。
まだ生きている。
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幼馴染がそれに気付く。
目に光が戻る。
「……生きてる」
後輩が顔を上げる。
絶望の中の、わずかな希望。
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少女はそれを見て、少し安心したように微笑む。
「よかった」
心からの声だった。
「壊れてなかった」
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でも、誰も安心できなかった。
この少女は。
善悪では動いていない。
ただ——
主人公だけを基準にしている。
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主人公は理解してしまう。
一番危険なのは。
一番狂っているのは。
一番強いのは。
この少女だと。




