第22話.見知らぬ影
主人公が闇の中を必死に走り続けて、どれくらい経ったのか分からない。
肺が焼けるように痛い。
足はもう感覚がない。
それでも止まれなかった。
後ろから、三人の気配がまだ追ってきている気がしたから。
「はぁ……は……っ」
足がもつれて、地面に倒れ込む。
もう、無理だ。
そのとき。
「やっと捕まえた」
知らない声が、頭上から降ってきた。
顔を上げると、逆光で表情の見えない人物が立っていた。
次の瞬間、視界がぐらりと揺れる。
首筋に鋭い痛み。
意識が、途切れた。
⸻
目を覚ますと、また見知らぬ天井だった。
冷たい金属の感触。
両手両足は完全に固定されている。
今までの拘束とは比べ物にならない。
本当に“逃げられない”拘束。
「目が覚めたか」
部屋の隅から、あの声。
暗闇の中から現れたのは、フードを深く被った人物だった。
「君は少し、特別すぎる」
ゆっくりと近づいてくる。
「何人もの人間を壊してしまうほどにね」
主人公の背筋が凍る。
この人は、全部知っている。
幼馴染のことも。
ヒロイン二人のことも。
「だから、ここで隔離する」
その言葉は、静かで、確定した宣告だった。
⸻
その頃。
外では——
三人が、主人公の消えた地点に集まっていた。
血の気の引いた顔で。
「……いない」
ヒロインの一人が震える声で言う。
「ここで、気配が消えた」
幼馴染は地面に触れる。
何かを探すように。
すると、小さな針のようなものを見つける。
「……連れていかれた」
その瞬間。
三人の中で、何かが壊れた。
⸻
「誰が」
「誰が連れてったの」
「誰が私のを」
言葉が、重なる。
もう“彼”ではない。
「私のもの」
になっていた。
⸻
幼馴染の目から感情が消える。
「奪われたなら、奪い返すだけ」
ヒロインの一人は笑い出す。
「ふふ……そっか……敵ができたんだ」
もう一人は涙を流しながら呟く。
「絶対許さない……絶対……」
三人の感情は、同じ方向へ収束していく。
愛情ではない。
執着でもない。
もっと危うい何か。
⸻
「見つけ出す」
幼馴染が言う。
「どこに隠しても無駄」
「壊してでも取り戻す」
「この世界のどこにいても」
三人が、初めて同じ方向を向いた。
主人公を救うためではない。
“取り戻す”ために
⸻
遠くでサイレンの音が鳴り始める。
街が騒がしくなっていく。
何かが起きる予兆のように。
三人は同時に歩き出した。
狩る側の目で。




