第18話.独占
意識が戻る。
揺れている。
規則的な振動。
エンジン音。
(……車?)
まぶたを開ける。
ぼやけた視界の向こう。
運転席。
橘 日和の横顔。
夜の光が流れていく。
「起きた?」
バックミラー越しに目が合う。
微笑む。
安心させるような笑顔。
でも。
その目は、もう迷っていなかった。
⸻
「どこ……行くんだ」
声が掠れる。
日和は少し考えてから答える。
「秘密」
楽しそうに言う。
「誰にも見つからない場所」
ハンドルを握る手が、わずかに震えている。
興奮。
期待。
執着。
全部混ざっている。
⸻
「先輩たち、怒るかな」
独り言のように呟く。
「でも仕方ないよね」
少しだけ、声が冷える。
「だってあの人たち、分かってないもん」
信号で車が止まる。
日和が振り向く。
真っ直ぐ見つめる。
「悠真くんは共有するものじゃない」
はっきりと言い切る。
ヤンデレの独占。
メンヘラの依存。
その両方が完成した声。
「私だけのもの」
⸻
一方その頃。
2人は逃げた悠真を追いかけたがもう居ない。
「何処行ったの?」
「先に行ったはずなのにいない」
「まさか連れ去った?」
2人は焦りだす。
1回日和の部屋見てみよう。
日和の部屋を調べる。
引き出し。
棚。
クローゼット。
そこにあったのは——
地図。
ルートの印。
複数の住所。
準備されていた逃走計画。
ずっと前から。
三人での生活が始まる前から。
玲奈の膝が崩れる。
「最初から……」
依月が低く呟く。
「裏切るつもりだった」
部屋の空気が凍る。
⸻
玲奈の目から涙が落ちる。
「やだ……やだよ……」
依月は静かに言う。
「泣いてる場合じゃありません」
顔を上げる。
その目は、完全に捕食者のものだった。
「取り戻す」
玲奈の瞳にも火が灯る。
依存の炎。
「絶対に」
二人は初めて同じ方向を見る。
敵ではなく。
共通の獲物を奪った相手として。
⸻
車は闇の中を走り続ける。
日和が口ずさむ。
子供の頃、二人で歌った歌。
「もうすぐだよ」
嬉しそうに言う。
「新しいおうち」
バックミラーの中で。
悠真の瞳が揺れる。
逃げ場はない。
追跡者もいる。
そして支配者は、最も危険な存在。




