第17話.追いつく影
拘束器具がすぐに外れた。
3人とも言い合いをしていて、逃げ出された事に気づかない。
「ちょっと待って、いない」
3人ともベットを見る。
「また逃げ出された」
「追いかけるよ」
3人はすぐに家を出た。
夜の空気は冷たかった。
肺が焼けるように痛い。
それでも春川悠真は走っていた。
(外だ……)
本当に外だった。
何度も夢に見た景色。
舗装された道路。
街灯。
遠くの住宅の灯り。
自由の匂い。
背後を振り返る。
誰もいない。
(逃げ切れた)
足の力が抜けそうになる。
だが止まらない。
止まったら終わる。
本能が叫んでいる。
⸻
曲がり角を曲がった瞬間。
足音が聞こえた。
後ろから。
規則正しく。
速い。
異様なほど速い。
悠真の背筋が凍る。
振り返る。
街灯の下に、人影。
長い髪が揺れる。
橘 日和。
歩いているように見えるのに——
距離が一瞬で縮まる。
「待って」
優しい声。
まるで散歩に誘うみたいな声。
だが。
次の瞬間。
彼女は走った。
⸻
速い。
ありえない速度。
地面を蹴る音が鋭い。
呼吸が乱れない。
フォームが綺麗すぎる。
(なんだよ……それ)
恐怖が現実になる。
昔、聞いたことがある。
彼女は陸上部で。
大会記録を何度も更新して。
スカウトの話まで来ていた。
「悠真くん、遅いよ」
すぐ後ろから声。
もう距離がない。
捕まる。
終わる。
⸻
腕を掴まれる。
強い。
逃げられない。
「もう、危ないことしちゃダメ」
息一つ乱れていない。
むしろ楽しそう。
悠真は振り払おうとする。
「離せ!」
日和の表情が揺れる。
一瞬だけ。
深く傷ついた顔。
「……そんなこと言わないで」
腕の力が強くなる。
痛いほど。
「追いかけるの、苦手なんだよ」
耳元で囁く。
「だって、逃げられてるみたいで」
声が震える。
「置いていかれるみたいで」
涙が落ちる。
でも手は離さない。
⸻
「ねぇ」
彼女が顔を覗き込む。
息が近い。
「どうして逃げたの?」
責めているのに。
怒っているのに。
声は優しい。
それが一番怖い。
悠真は答えられない。
日和は微笑む。
壊れた笑顔。
「大丈夫」
ポケットから何かを取り出す。
小さな布。
見た瞬間、理解する。
「また眠ればいいだけ」
後ずさる。
だが腕を掴まれている。
逃げられない。
⸻
悠真の額に額を当てる。
「次はもっと遠くに行こうね」
囁く。
「誰にも見つからない場所」
布が近づく。
意識が霞む。
最後に見えたのは。
泣きながら笑う顔。
「捕まえられてよかった」
⸻
暗闇に沈む。
自由は、ほんの数分だった。




