第15話.四人の楽園
朝なのか夜なのか、分からない。
窓はあるのに、外が見えない。
分厚い板で覆われている。
時計はない。
スマホもない。
時間という概念が消えていた。
春川悠真は、ベッドに固定されたまま天井を見つめる。
(夢じゃない)
何度確認しても、現実だった。
部屋のドアが開く。
「おはよう、悠真くん」
日和。
トレーを持っている。
朝食らしい。
その後ろから玲奈。
さらに依月。
三人が順番に入ってくる。
まるで——
家族みたいに。
⸻
「今日は玲奈先輩の番なんだよ」
日和が楽しそうに言う。
「番……?」
玲奈が少し照れたように笑う。
「お世話係」
依月が無表情で付け加える。
「公平にするためです」
背筋が冷える。
三人は役割分担していた。
・食事
・見張り
・世話
・睡眠時間まで交代制
つまり——
長期監禁の体制が完成している。
⸻
玲奈がスプーンを口元に運ぶ。
「ほら、あーん」
悠真は動けない。
拒否もできない。
無理やりではない。
優しく。
丁寧に。
だからこそ、恐ろしい。
「ちゃんと食べないと弱っちゃうよ?」
依月が手首の固定具を確認する。
「緩みなし」
日和が満足そうに頷く。
「完璧だね」
⸻
食事が終わると、三人はベッドの周りに座る。
沈黙。
ただ悠真を見ている。
観察するように。
崇めるように。
依存するように。
やがて玲奈がぽつりと呟く。
「夢みたい」
日和が頷く。
「ずっとこうしたかった」
依月が言う。
「先輩はここにいるべきです」
悠真は初めて理解した。
彼女たちにとってこれは犯罪でも異常でもない。
理想の生活。
⸻
しかし。
その平和は長く続かない。
玲奈が依月を見る。
「さっき、触りすぎじゃない?」
空気が変わる。
依月の目が冷たくなる。
「必要な確認です」
日和が笑顔で割って入る。
「ケンカしないの」
だがその笑顔も、目は笑っていない。
三人の間に走る緊張。
均衡は脆い。
誰も譲らない。
誰も手放さない。
⸻
突然、停電のように部屋が暗くなる。
予備灯がつく。
赤い光。
異様な空間。
日和が呟く。
「大丈夫、外の問題だから」
玲奈が悠真の手を握る。
「怖くないよ」
依月がもう片方を握る。
「私たちがいます」
三人の体温が近づく。
逃げられない距離。
三つの声が重なる。
「ねぇ悠真くん」
「先輩」
「悠真」
そして。
「誰が一番好き?」
最悪の質問だった。
⸻
答えなければ壊れる。
答えても壊れる。
四人の楽園は、完成した瞬間から崩壊を始めていた。




