第14話.三人のヒロイン
意識が戻る。
重い。
体が、自分のものじゃないみたいに重い。
(……どこだ)
目を開ける。
知らない天井。
白い。
無機質で、冷たい。
次に気づいたのは——
動けないことだった。
両腕。
両足。
胴体。
すべて固定されている。
ベッドに、完全に縛り付けられていた。
逃げるどころか、身じろぎすらできない。
「起きた?」
その声で、心臓が止まりかける。
横を見る。
橘 日和。
椅子に座り、頬杖をついて微笑んでいる。
「おはよう、悠真くん」
優しい声。
悪夢の始まりの声。
⸻
「……なんで」
かすれた声しか出ない。
日和は嬉しそうに立ち上がる。
「大丈夫、もう安全だよ」
「危ない人たちは、ちゃんといるから」
意味が分からない。
その時。
部屋の奥のドアが開いた。
「目、覚めたんだ」
聞き覚えのある声。
血の気が引く。
入ってきたのは——
白雪玲奈。
その後ろから。
黒崎依月。
悠真の思考が停止した。
「……は?」
現実を拒否する声。
ありえない。
玲奈が笑う。
「久しぶりだね、悠真くん」
依月が続く。
「先輩、また会えましたね」
二人の距離が近い。
敵意がない。
むしろ。
仲がいい。
⸻
日和が楽しそうに言う。
「ね?言ったでしょ、安全だって」
玲奈はベッドの左側に腰掛ける。
依月は右側に立つ。
日和は足元へ。
三方向。
完全包囲。
「最初はちょっと揉めたけどね」
玲奈が苦笑する。
「でも気づいたの」
依月が言う。
「争っても意味がないって」
日和が結論を告げる。
「だって、好きなのは同じ人だもん」
悠真の呼吸が乱れる。
最悪の答えだった。
⸻
玲奈が頬に触れる。
「もう誰にも取られないよ」
依月が手を握る。
「先輩はここにいます」
日和が髪を撫でる。
「ずっと一緒」
三つの温度。
三つの狂気。
三つの依存。
逃げ場はない。
「ねぇ悠真くん」
玲奈が囁く。
「私たち、考えたんだ」
依月が続ける。
「どうすれば、先輩が一番幸せか」
日和が微笑む。
「答え、分かる?」
悠真は首を振ることもできない。
ただ震える。
三人が同時に言った。
「ここにいればいい」
⸻
日和が鍵を見せる。
複数の鍵。
重い音を立てて鳴る。
「もう誰も逃げない」
玲奈の目が潤む。
「やっと三人と一人でいられる」
依月が微笑む。
「先輩、嬉しいですか?」
悠真の喉が震える。
声が出ない。
日和が優しく頬を寄せる。
「大丈夫」そして。
三人同時に。
「私たちが愛してるから」
––
部屋の灯りが落ちる。
外の音は何も聞こえない。
世界から切り離された空間。
四人だけの世界。
悠真は理解した。
逃走劇は終わった。
これは——
終着点。




