第12話.檻の中の策士
それから何日経ったのか、分からない。
窓は塞がれ、時計は止まり、外の時間は切り離されて た。
だが――
春川 悠真は、数えていた。
食事の回数。
明かりが消える時間。
二人が眠る順番。
足音の癖。
鍵の音。
すべて。
頭の中に、地図のように記録していく。
彼は学年でも上位の成績を誇る人間だった。
感情に飲まれず、状況を分析する力。
そして何より――
諦めない思考。
「悠真くん?」
玲奈が覗き込む。
「最近、おとなしいね」
「……疲れてるだけです」
わざと弱々しく答える。
依月が静かに頷く。
「抵抗しなくなったのは良い傾向です」
内心、冷静に計算する。
――油断している。
拘束具は完全ではない。
長時間同じ姿勢でいるため、夜だけ少し緩められる。
そこが唯一の隙。
数日後。
夜。
二人が眠ったのを確認してから、悠真はゆっくりと手首を動かした。
緩められた拘束。
すぐには外れない。
だから焦らない。
何日もかけて、少しずつ。
摩擦で。
角度を変えて。
布を削る。
音を立てずに。
やがて――
外れた。
心臓が暴れる。
でも表情は変えない。
すぐには動かない。
まず、呼吸を整える。
計画通りに。
ベッドから降りる。
玲奈の寝顔。
依月の寝顔。
どちらも、信じきった顔で眠っている。
胸が痛む。
でも――
止まらない。
ドアへ。
鍵は外側。
だが予想していた。
依月は几帳面。
玲奈は不安定。
鍵をかけ忘れる日が、周期的にある。
そして今日は、その日だった。
ノブを回す。
開いた。
廊下。
階段。
玄関。
すべて、記憶通り。
最後に振り返る。
あの部屋。
あの世界。
静かに扉を開ける。
夜の空気が流れ込む。
外へ。
扉を閉めた瞬間。
初めて実感した。
これは衝動じゃない。
偶然でもない。
何日も、何十時間も考え続けた末の答え。
――脱出は成功した。
だが悠真は知っている。
ここで安心してはいけない。
あの二人は必ず気づく。
そして必ず追ってくる。
だから彼は走らなかった。
静かに歩いた。
夜の闇に溶け込むように。
今度こそ。
見つからない場所へ行くために。
部屋の中。
数時間後。
玲奈が目を覚ました。
隣の温もりがない。
理解した瞬間、顔色が変わる。
「……依月」
震える声。
「いない」
依月も起き上がる。
状況を一目で把握した。
「……計画的です」
静かな怒り。
「先輩は本気で逃げました」
玲奈の目から涙が溢れる。
「どうして……」
依月は窓のない壁を見つめる。
「今度は」
低い声。
「見つけるのに時間がかかります」
玲奈が笑った。
壊れたように。
「いいよ」
涙のまま。
「探す」
依月も頷く。
「ええ」
その声は冷たかった。
「世界のどこにいても」
「必ず」
重なる声。
「「見つけ出す」」
その声、その目には魂が籠っていた。




