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第11話.逃げ道のない部屋

 タンスの中で、どれくらい時間が過ぎただろう。

 春川 悠真は、扉をわずかに開けた。

 静かだ。

 本当に、何の音もしない。

 ――今しかない。

 這い出るようにタンスから出て、部屋を見渡す。

 誰もいない。

 窓へ向かう。

 カーテンを開ける。

 外は夕方に変わっていた。

 時間がない。

 窓を開け、身を乗り出す。

 そのまま外へ――

 着地した瞬間、走った。

 振り返らず、ただ遠くへ。

 住宅街を抜け、見知らぬ道へ。

 もうどこでもいい。

 この家から離れられれば。

 息が切れ、足がもつれ、ついに立ち止まる。

「……は……っ」

 助かった。

 今度こそ。

 そう思った瞬間。

 背後から腕を掴まれた。

「捕まえた」

 依月。

 冷たい声。

 反対側から抱きつかれる。

「もう逃がさない」

 玲奈の震える声。

 抵抗する間もなかった。

 次に目を覚ましたとき。

 見慣れた白い天井。

 でも――

 以前とは違った。

 手首には柔らかい布ではなく、

 動かないようしっかり固定された拘束具。

 足も。

 身体も。 

 ベッドに固定されている。

「ごめんね」

 玲奈が涙ぐみながら言う。

「こうするしかなかったの」

 依月が静かに続ける。

「先輩は自分を守ることが下手です」

 悠真は何も言えなかった。

「だから」

 玲奈が頬に触れる。

「私たちが守る」

 優しい声。

 でも、その優しさが何より怖い。

「痛くない?」

「苦しくないですか」

 二人は本気で心配している顔だった。

 だからこそ、逃げ場がない。

「ねぇ悠真くん」

 玲奈が囁く。

「もう外に行かなくていいよ」

 依月も言う。

「ここが先輩の世界です」

 窓には板が打ち付けられていた。

 扉には外側から鍵。

 時計は、相変わらず止まったまま。

 完全な閉鎖。

 完全な所有。

 悠真は悟る。

 逃げれば逃げるほど、

 世界は狭くなっていく。

 そして初めて。

 心の奥に、小さな諦めが生まれる。

 ――もう、逃げられないのかもしれない。

 その表情を見て。

 二人は、安心したように微笑んだ。

「大丈夫」

「もう大丈夫です」

 重なる声。

「「ずっと一緒だから」」

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