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第10話.目が合うと

 タンスの中。

 息を止めるたび、肺が焼けるように痛い。

 足音が、すぐ前で止まっている。

 白雪 玲奈と黒崎 依月。

 すぐそこにいる。

 扉一枚隔てた距離。

「……ここ」

 依月の声。

 低く、確信を帯びていた。

 指先が、扉に触れる音。

 ゆっくりと――

 タンスが、開いた。

 わずかな光が差し込む。

 視線が、合った。

 確かに。

 確実に。

 玲奈と。

 依月と。

 春川 悠真の目が、合った。

 時間が止まる。

 玲奈の瞳が揺れる。

 泣きそうな、壊れそうな顔。

 でも――

 彼女は、何も言わなかった。

 ただ、そっと扉を閉めた。

 暗闇が戻る。

 理解が追いつかない。

 どうして。

 なぜ。

 依月が静かに言う。

「先輩」

「……うん」

 玲奈の声は震えていた。

「今はまだ」

 言葉を選ぶように。

「準備が足りない」

 背筋が凍る。

「このまま連れて行ったら」

 依月。

「また逃げます」

「だから」

 玲奈が小さく笑う。

 壊れた声。

「ちゃんと用意しよ」

 足音が遠ざかる。

「今度は絶対に逃げられないように」

 依月の声が続く。

「拘束具を増やします」

 玲奈。

「鍵も変えよ」

 依月。

「窓は完全に封鎖します」

 玲奈。

「ね、依月」

 少し明るい声。

「これでずっと一緒にいられるよ」

「ええ」

 迷いのない返答。

「永遠に」

 部屋のドアが閉まる音。

 家の中から、二人の気配が消える。

 タンスの中。

 悠真は震えていた。

 助かったわけじゃない。

 見逃されたわけでもない。

 ――保留にされた。

 確実に捕まえるために。

 恐怖が、遅れて押し寄せる。

 あの目。

 あの表情。

 怒りでも、悲しみでもない。

 決意。

 逃がさないという、静かな確信。

 暗闇の中で、悠真は初めて悟る。

 次に見つかった時。

 もう本当に終わる。

 外の音がやけに遠い。

 家の中は、信じられないほど静かだった。

 まるで嵐の前みたいに。

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