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転生幼子は生きのびたい  作者: えぞぎんぎつね


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05 魔法の訓練

 シルヴァに助けられてから、半年がたち、僕は一歳と二か月になった。


 シルヴァのお乳はおいしくて、しかも栄養があったらしく、僕はすくすくと育っている。

 もう、巣の中を元気に歩き回れるほどだ。


「がうがうがう(ガルガルはでかくなったなぁ)」

「わふ?」


 ガルガルというのは、一緒に育っている弟犬の名前だ。

 力強くガルガル吠えられるぐらい大きくなるようにと願って僕がつけた。


 立派な名前のおかげか、この半年で僕の大きさをあっという間に追い抜いてしまった。

 今では成犬のアラスカンマラミュートの半分ぐらいの大きさになったほどだ。


 犬の成長は本当に早い。


「がうがう!(だが、負けぬ! 兄として!)」

「わふわふ!」


 僕は本気になって、ガルガルと遊ぶ。

 ガルガルは僕よりずっとでかくなったが、それでも負けられない。


「がうがうがう!(これはわたさない!)」

「わふわふわふ」


 両手で木の枝を持って、ガルガルと引っ張り合いをする。

 やはりガルガルは強くなった。もうそろそろ負けてしまうかもしれない。


 体格は僕よりガルガルの方がでかい。

 だから、もしかしたら手加減されているのではと思わなくはない。


 いや、そんなことはないはずだ。


「があぅがうがう!(負けぬ!)」

「がぅ~」

「こら! ノエル! 人の言葉を話せといつもいっておろう!」


 ガルガルとの引っ張り合いに熱中していると、ママに叱られた。

 僕が犬や猫の言葉を話していると、いつもはママ怒るのだ。


 ちなみにママというのはシルヴァのことだ。

 シルヴァはお乳をくれて、僕とガルガルを育ててくれた。

 寝るときには僕とガルガルを包むようにして体を温めてくれる。


 血のつながりはないが、ママである。


ごめんなさい(ごめなしゃ)。ママ」「ぁぅ~」


 ガルガルも一緒になって謝ってくれる。


 僕はまだ舌足らずだが、一歳二か月にしてはたいしたものだと思う。

 きっと前世由来かもしれない謎の知識があるおかげだろう。


「そなたはいつか人の元に帰るのだから、人の言葉を忘れてはいけないのだ」

「うん」


 ママはいつもそう言った後、僕のことを鼻先でツンツンする。

 そしてガルガルのことを優しくなめる。


 ママの舌はザラザラなので、つるつるしている僕のことをなめられないのだ。


「わふわふ」


 ママになめられてガルガルはとても嬉しそうだ。

 少しうらやましい。


(のえるにも毛があったらなぁ)


 そう思っていると、ママはチロっと僕の服を舐めてくれた。


「ありがと。ママ」

「その着ぐるみには魔法がかかっておるからな。なるべく脱ぐでないぞ?」

「うん!」


 さらわれたときに着ていた寝間着はとっくに小さくなって入らなくなった。

 今はママが魔法を駆使して作ってくれた魔獣の毛皮製の猫の着ぐるみを着ている。

 ちなみに魔獣というのは、動物型の魔物のことだ。


 魔獣の毛皮の着ぐるみは首から下をしっかり覆うタイプで、お腹側にボタンがついている。

 首の部分には、頭を覆えるフードもついているのだ。


 フードにはちゃんと猫耳がついているし、お尻にはしっぽもついている。

 だから、今の僕はもふもふで、二足歩行の猫みたいなものだ。


「ママの魔法(まほ)すごいね(しゅごね)?」

「そのうちノエルもできるようになるであろう」


 ママはそう言うが、ママの魔法は高度すぎて僕にはよくわからない。


 ちなみにさらわれたときに身につけていた首飾りの魔導具は今もしっかり身につけている。

 壊れてしまったけど、母様からもらった大切なものだからだ。


「ほれ、ガルガルもノエルも。清浄(クリーン)の魔法をかけてやろう」

ありがと(ありあと)!」「わふわふ~」


 巣にお風呂はないが、毎日ママが清浄の魔法をかけてくれるので、いつも清潔だ。


魔法(まほう)すごいねー(しゅごねー)


 ママの魔法は本当に凄い。

 昨日なんて、ガルガルがうんちの上に転んだけど、一瞬で綺麗になった。


 僕とガルガルの魔法ではそうはいかない。


「猫魔法は伊達ではないのだ。ノエルとガルガルも、遊んでないで魔法の練習をするぞ」

「わかった《ああった》!」「ばうばう!」


 僕とガルガルは、ママの指導の下、毎日猫魔法の練習に励んでいる。


「まずは猫瞑想からだ!」

「んにゃ!」「がう!」


 僕とガルガルは四つん這いになり、猫になりきる。


 体内の魔力を感じながら、背中を丸めたり反ったりして背骨を動かすのだ。

 呼吸はゆっくり深く長くだ。


 少しヨガっぽい。


 こうしていると、着ぐるみの効果もあって、本当に猫になった気がしてくる。


「背骨の近くには魔力が流れる魔力路がある。そこを流れる魔力を意識するのだ」

「にゃにゃ!」「がうがう!」

「これは最も基本的な訓練法である。基本はけしてないがしろにしてはならぬ」


 そう言いながら、ママも一緒に猫瞑想をする。

 ママぐらい強い猫でも、毎日するのだからとても大切な訓練法なのだろう。


「にゃふ~」

「がう~がう~」


 ガルガルも僕の横で一生懸命やっているが、僕の方がうまい。

 兄の沽券に関わるので負けられないのだ。


「よし、次は基本の攻撃魔法から。一通り、我に向かって撃つが良い」

「んにゃにゃ!」「わふわふ!」


 僕とガルガルは習った初級攻撃魔法を、ママに向かって撃っていく。


「んにゃ!(火!) にゃ!(氷!)」

「がう! がう!」


 ちなみに、猫魔法の訓練中は魔獣語を話しても良いことになっている。


「もっと速く!」

「にゃにゃにゃ!」「ががががう」


 火、氷、水、土、風、光、闇、無。

 基本的に猫の攻撃魔法は、属性そのままの効果である。


 火は火の玉を飛ばし、氷は凍らせて、水は水流を出す。

 土は土を操って、風は風を吹かせ、光はまぶしくて闇は暗い。

 謎の無というのは、魔力をそのままぶつける攻撃魔法である。


 それぞれの属性の魔法をママに向かって思いっきり放つ。


「にゃむ!(今日は勝ったな!)」


 ガルガルより僕の放った魔法の方がかっこよかった。


「がう!」


 僕とガルガルの攻撃魔法の腕前はほとんど互角だ。

 でも、少しだけ僕の方が強い。


「しゃべってないで、気合いを入れて撃ち込んでくるのだ! 休まずにな!」

「にゃう!」「わふ!」


 僕もガルガルも全力だが、ママは涼しい顔で全ての魔法を防ぎきって見せた。


「にゃむ~(ぜんぜんきいてない)」「がう」

「当たり前だ。我はとても強い聖獣なのだからな! 攻撃魔法の次は生活魔法の練習だ!」

「にゃ、にゃお(きゅ、きゅうけいを)」「が、がう」

「疲れたから休憩させてくれといって休ませてくれる敵がいると思うのか?」


 そういわれたら、休むわけにはいかない。


 いつもは優しいママだが、訓練の時は容赦がないのだ。

 休みなどなく、連続で訓練は続く。


「にゃむ!」「がうがう!」


 僕とガルガルは基礎的な生活魔法を順番に使っていく。

 保温、冷却、浄水、掘削、送風、灯火、日陰、強化。


「にゃ、にゃあ」「が、がう」


 生活魔法は攻撃魔法の効果を弱くしただけに見える。

 だが、それが難しい。細かい魔力量の調整が必要で、攻撃魔法より疲れるぐらいだ。



「特に強化の魔法は生活に必須だ! 手を抜くでないぞ」

「にゃ!(わかった!)」「がうがう!」


 強化というのは無属性の生活魔法。少し力を強くしたり体を頑丈にしたりする魔法である。

 狩りをしたり敵から逃げたり戦ったりするのに必須の魔法だ。


 狩りをしないと生きていけない僕たちには最も生活に密着した魔法といえるだろう。


「……にゃぁ(……強化をもっとうまくなるべきだな?)」


 そうでなければ、引っ張りっこでガルガルに勝ち続けるのは難しい。


「ノエルはかなりうまいぞ。その年にしてはな?」

「にゃにゃ(えへへ)」


 ママに褒められて照れている横で、

「……が、がう」

 ガルガルは生活魔法に苦戦していた。


「にゃ~にゃあお(もう少し口元の魔力を感じて調節したほうがいいよ)」

「がう? がう~」


 ガルガルは攻撃魔法は得意だが、生活魔法が苦手なのだ。

 だから、僕は兄としてアドバイスしている。

 僕のアドバイスのおかげで、ガルガルは少しうまくなっていると思う。


 魔法の訓練は一時間ほどで終わる。


「にゃあご(つかれた~)」「わふ~」


 魔法の訓練を終えると、いつも僕とガルガルは疲れ果ててしまうのだ。

 眠くなって、巣の中の寝床に一緒に寝っ転がる。


「んにゃ」「わふ」


 そしてじゃれつきながら昼寝するのだ。


「…………そろそろ狩りをおしえてやるべきやもしれぬな」

「にゃ! にゃ!(かり! やりたい!)」「がう!」


 寝落ちしかけていた僕とガルガルはガバッと起きた。


「少なくとも今日ではない。ノエルがまともに歩けるようになってからだ!」

「にゃむ?(のえる、あるけるよ?)」

「そんなよたよた歩きでは狩りなどできるわけなかろう!」

「わふ~(それもそっかー)」「わふ~」

「今は大人しく昼寝するが良い」


 そういうと、ママは僕とガルガルの側に横たわる。

 そうしてもふもふな尻尾で包んでくれた。


「にゃむ~(わかった~)」「わふ」


 僕はガルガルと抱き合って、ママの匂いを嗅ぎながら眠ったのだった。

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