45 腐界から出よう
次の日、お昼にやってきたママに人族の街に行くことを伝えた。
「そうか、ノエル。いつでも戻ってきていいのだからな?」
「ありがと」
「ガルガル。ノエルを頼むぞ」
「わうわぅ」
ガルガルも張り切って僕を守ると言ってくれていた。
それからママは父様と母様と色々と話し合っていた。
「ガルガル。うんことかトイレ以外でしたらだめらしいよ?」
「がう?」
「あと、あまりほえたらだめらしいよ?」
「ぁぅ?」
「まあ、ノエルもあんまりくわしくないけどな?」
僕もガルガルも、人族の街にいくのなら、色々と勉強しないといけないに違いない。
その日から父様と母様から人族の街について教わった。
「人族の街にはお金というものがあります」
「おおー、おかね」「ぁぅ~」
といった初歩的なことから始まり、
「今の我が国には貴族制度が合って」
「おお、きぞく」「わぅ~」
社会についても教えてもらった。
人族の街講座は意外と楽しくて、あっという間に出発の日になった。
見送りに来てくれたアオたちは、
「なぁ」「みゃ」「にゃ」
それぞれ「げんきにな?」「きをつけてな?」「おみやげまってる」とか言っている。
アオたちは落ち着いたものだ。
「…………うん。いいんだけど、ぜんぜん、なかないのな?」
初日、ママが巣に帰るときは泣きわめいていたというのに。あっさりしている。
「それだけ子猫たちも成長したということであろうなぁ」
「ほんとか? ジルカ、ほんとか?」
「たぶん」
少しさみしいけど、泣きわめかれたら僕も悲しくなるのでこの方が良い。
アオたちを順番に撫でていく。
「あには、すぐにもどるからな。 もしかしたらひとつきぐらいかもだが?」
「なぁなぁ」「みゃあ」「にゃ」
「ん、いいこにな? ……ティル、おねがいな? アオたちはあかちゃんだからな……」
「ああ、まかせろ」
それから僕はみんなに挨拶して回った。
「リラ、アオたちをお願いな?」
「わかってる。任せておいて」
「アオもクロもシロもすききらいないから……」
「大丈夫。食の好みは大体把握しているわ」
「ん。ありがと。あといるみんのむすめたちは何もしなくていいけど、たまに水あげてもいいかも」
「わかったわ」
リラにもミアにもミーシャたちエルフの子供たちにも、コボルトたちにもアオたちのことをお願いした。
全員に挨拶すると、ママに抱きつく。
「……ママ、いってくるな?」
「ああ、ノエルは人族なのだ。人族の社会を知る必要はある」
「ん」
少し泣きそうになった。でも泣かない。
「もし辛ければ、こちらで暮らせば良い。ノエルは聖獣でもあるのだからな」
「うん。そしてママの子だよ」
「そのとおりだ」
なんとか泣かずにママに挨拶することができた。
挨拶を終えると、居心地の良い拠点から出発した。
僕たちを護衛するためにティルが付いてきてくれる。
「わざわざ送ってくれてありがとう。ティル」
父様がお礼を言うと、
「フィロとノエル、ガルガルがいるなら安全だろうが、念のためな」
「ノエル、ひとりでも、だいじょうぶだな?」
「まあ、ノエルなら大丈夫だろうな」
ティルがそう言って僕の頭を撫でてくれた。
「兄弟子。師匠への推薦状もありがとうございます」
「気にしなくていいよ。まあ、ノエルは優秀だから、推薦状なしでも弟子入りが認められると思うけど」
ティルと母様の師匠に僕の弟子入りを認めてほしいとお手紙を書いてくれたらしい。
「……ノエル、ゆうしゅうか?」
「ああ、優秀だよ。末恐ろしい」
「えへへへ」「がうがうう」
僕が照れると、ガルガルも嬉しそうに尻尾を振る。
その後は魔物に遭遇することもなく、無事腐界の外に出ることができた。
「しょうきがない」
「わぅわぅ」
草木も瘴気を出していないし、地面からも瘴気が染み出ていない。
「拠点の中も瘴気はなかっただろう?」
ティルが笑顔で言う。
「うん。でも雰囲気はちがうな?」
「そっか。ノエル。これが腐界の外だよ」
「ふむ……ティル、ありがとうな?」
「気にするな。また近いうちにな」
「うん!」
腐界から出たところで、ティルと別れる。
「またなー」「がうがう~」
「おお、気をつけてな!」
何度か振り返ったが、そのたびにティルはまだいた。
遥か遠く、瘴気の雲の向こうに、僕とガルガルの育った死の山が見えた。
「うん。いこっか」
「がうがう~」
「ノエル、怖いかい?」
「すこしな? でも、わくわくのほうがおおきいな?」
「わふわふ」
そうして、僕たちは近くの街まで歩いて行った。




