41 お風呂場の建築
しばらく、人族の魔法を練習していたら、あっという間に木材が集まった。
ペロとモラクスも練習しているので、集まるペースが速いのだ。
途中からはペロとモラクスが切った魔樹を僕が板に加工した。
単に切るより板に加工する方が、精度の練習には良いらしい。
ティルは僕に指導するだけ。
ティルが板に加工し始めたら、一瞬で終わってしまうからだ。
材木と原木が充分に集まると、ティルが言う。
「よし、戻ろっか」
「うん! ひとぞくの魔法はおくがふかいなぁ」
「聖獣の魔法、猫魔法も奥が深いと思うよ」
ティルの意見に完全同意だ。
もちろん、猫魔法が浅いわけじゃない。両方奥深い。
そして、両方面白かった。
「ペリオス、ペリーナ、そっちはどうだい?」
ティルがそういうと、ペロ親子とモラクスがやってくる。
『こっちもおわった』『ぺろも、もらくすもすじがいい』
「わぅわぅ」「も~」
近づいてきたペロとモラクスを、ティルと一緒に撫でた。
でも、ペロとモラクスはティルが大好きなので、ティルにたくさん撫でてほしいだろう。
だから、僕はほどほどにして、ペリオスとペリーナのことも撫でまくった。
「はっはっはっはっ」「はっはっはぁはっ」
ペリオスもペリーナも気持ちよさそうにしている。
僕のなでなではガルガルで鍛えられているのだ。
「ペロもモラクスも上手だったね」
ティルに褒められて、ペロとモラクスは本当に嬉しそうだ。
僕に指導しながら、ペロたちのこともしっかり観察しているとはさすがティルだ。
「がう!」
「ペロは、本当にどんどんうまくなるね」
『もらくすも、まほううまい?』
「うん、うまかったよ。今日習ったばかりとは思えないよ」
「のえるもみてた。うまかったな?」
魔法を使っているときも、周囲のことは観察しろとママによくいわれている。
だから、僕はペロとモラクスのことも観察していたのだ。
実は魔法を使っているときの周囲観察はガルガルより僕の方が得意だ。
観察が苦手な代わりにガルガルは鼻が良い
だから、僕とガルガルの敵察知の早さは似たようなものだ。
「がう~?」
ペロが僕に何を練習すれば良いか聞いてきた。
僕は猫魔法が得意だから、尋ねてくれたのだろう。
「ん。ペロはせいぎょの練習したらいいな?」
「わうわう?」
「うん、むずかしいな? がるがるも、にがてだからな?」
『もらくすは?』
「もらくすもせいぎょだな? でも角がはえてないしな?」
「もっも?」
「うん。だって角からだすのな? なのにはえてないしな?」
「も~」
多分、モラクスは制御がうまくて、ペロは威力を出すのが得意な気がする。
角さえはえれば、モラクスの魔法制御は凄いことになりそうだ。
それにペロの威力は今でも高い。体が大きくなれば凄いことになる。
だけど、それは言わない。
まだ練習を始めたばかりなのに、思い込ませることは良くないと思うからだ。
「せいぎょのこつな? まず背骨がだいじで~、あ、ママに教わった体操をやる?」
「わふわふ!」
『やる』
そんなことを話しながら、みんなで拠点に向かって歩いた。
魔樹と魔草が生い茂っている拠点の中に入って、数歩進むと、
「ノエル! 凄かったな! 天才だ!」
「ええ、本当に立派だったわ」
父様と母様が駆け寄ってきて、父様に抱き上げられ、母様が撫でてくれた。
結界の端でずっと僕の練習を見ていてくれたみたいだ。
父様と母様に褒められると、やっぱり嬉しい。
「えへえへへ、それほどでもない」
「本当に凄かったな。ティルもそう思うだろう?」
「ああ、たいしたものだ」
「私よりも才能があるわね」
「へへへ」
父様と母様に褒められている間、ティルは材木をコボルトたちに届けている。
僕たちが魔法の練習をしつつ材木を集めをしている間、コボルトたちは建築を進めていた。
「さて、俺も負けてられないな。お風呂の建築を進めるとするか」
そんなことを呟くと、ティルは魔法で木を浮かせ始めた。
凄い魔法だ。見たことない。きっと魔法で重力を操っているに違いない。
「とうさま、かあさま。ティルの魔法みたい!」
「おお、いいよ」
父様に地面に下ろしてもらうと、僕はティルのところに走った。
「おおお? てぃる、すごいことしてるな?」
「ん? ああ、これか」
「じゅうりょくまほうってやつか? すごい」
「ノエルは難しい言葉を知っているね」
普通の五歳は重力という言葉を使わないのかもしれない。
気をつけないとだ。
だが、今は重力魔法の方が大事だ。
「なんで、うかせる? きりやすい?」
「全体を一度に切れるからね。みてて」
そういうと、ティルは原木を宙に浮かせると、一気に切断して板にする。
「ね? 早いだろ?」
「は、はやい」
切断の魔法を十から十五ぐらい一気に発動して、板を何枚も同時に作っている。
さっきの僕は一面ずつ、丁寧に魔法を使って切っていたというのに。
やっぱり、ティルは凄い魔導師だ。
「ノエルは魔法を使った建築って見たことないだろう?」
「ないな?」
「興味があったら見ていくといいよ。使えると便利だからね」
「わかった。ありがとな?」
ティルは僕の頭を撫でると、建築を始めたので、観察する
すると、モラクスとペロがやってきて、僕の隣に座って観察を始めた。
そんなモラクスとペロを撫でながら、何も見逃さないよう、じっとティルを見つめた。
原木を浮かせて、一瞬で板材に加工。
モラクスとペロが切って、僕が加工した材木も浮かせて一瞬で微調整する。
紙よりも薄い厚さの綺麗な木くずがふわっと飛んだ。
加工した板材を、魔法を使ってどんどん組み上げていく。
ティルは建築に釘やネジは使わないみたいだ。
きっと、材料に少しのずれもないから、組み合わせるだけでいいのだろう。
「ティル、たのしそうだな?」
「ああ、楽しいよ」
お風呂場を建てていくティルは本当に楽しそうだった。
ティルはものすごく魔法が好きなのだろう。
「…………ノエル。我はそろそろ巣に戻るぞ」
じっと観察していると、ママがやってきてぼそっと言う。
小声なのはティルの作業を邪魔しないようにだろう。
「ん。また明日な?」
僕は観察を続けながら、ママに返事をする。
「いいぞ。集中を切らさないのはよいぞ。そのまま続けるのだ」
「ん、ママとれんしゅうしたものな?」
狩りの時、獲物に集中しすぎて、自分を狙う魔物に気づけなかったら大変なことだ。
観察しながらも、他のことができなければならない。
それが死の山で生きるためには大切なのだ。
「ああ、また明日だ。ガルガルとアオ、クロ、シロを頼む」
「ん。アオたちはお昼寝か」
アオたちは横になったガルガルに包まれるようにして眠っていた。
「ああ、寝かしつけておいた」
「そっか」
「……ノエルの人族の魔法。我もみておったぞ」
「どだった?」
「うむ、素晴らしいな。ノエルはやはり才能がある」
「えへへ」
「さすがは我が子だ」
ママは優しく僕を舐めて匂いを嗅いだ。
それから、ママは父様に挨拶して帰って行った。
母様は魔導具作りに集中していたので、邪魔をしないようにしたみたいだった。
ママが帰ってから一時間後、ティルは風呂場を建て終えた。
「ふう、こんなものか」
『ゆかとゆぶねをつくるわんねー』
「ありがと、助かるよ」
すると、待っていたとばかりに、コボルトたちが中に入っていく。
「なぁ、ティル。ティルの魔法とコボルトたちの作業、りょうほうみてたのだけどな?」
ティルのことを観察しながら、コボルトたちのことも観察していた。
同時に観察できなければだめだとママに何度も教わったから練習したのだ。
「ん? ノエルは何かに気づいたの?」
「えっとな? こぼるとたちの魔法、まねできなさそう?」
猫魔法と人族の魔法のような違いではなかった。
全く別物みたいだった。
「あー、コボルトの魔法は、精霊の魔法だからね。人族の魔法とも聖獣の魔法とも違うから」
「どこがちがう?」
「んー。精霊は世界そのもの、世界の一部といったほうがいいかな」
「んー?」
「つまりだな……」
少し悩みながらティルが教えてくれた。
人族の魔法も聖獣の魔法も、世界に許可をもらって物理法則を超えた現象を引き起こす。
だが、精霊は世界の一部だから、自分の属性に関する分野ならば、許可は必要ない。
「神の一部と言うべきかも。いや神の力の片鱗といった方が良いかな?」
「むむう?」
難しいお話だ。
「……へー」
すると、リラが、ティルの後ろから近づいてきた。
「と、言う感じの説明でどうでしょうか。聖女さま」
少し恥ずかしそうにティルがリラに言う。
「まあ、概ねあっているんじゃないの? ティルにしては頑張ったわね」
そう言って、リラはティルの頭を撫でた。
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「ん。ノエル。精霊について詳しく聞きたいなら、ティルじゃなくて、私に聞くと良いわ」
「そっかー。わかった」
リラは聖女なので、神様に詳しい。
そして精霊は神に近い存在なのだろう。
「私じゃなければ、シルヴァかしら」
「ママかー、ママもくわしいかもな?」
ママはいろんなことに詳しいのだ。
「ん? そうなのか? シルヴァは詳しいのか?」
「そりゃ、神獣だからね。詳しいでしょう」
ティルはキョロキョロした後、
「あれ? シルヴァは?」
などという。
「もう、そろそろ夕方よ。当然帰ったに決まっているでしょう? 気づかなかった?」
「…………気づかなかった」
ティルにも苦手なことがあるらしい。
「そんなことで大丈夫なの? 魔物に襲われたらどうするの?」
「いや。魔物が来たら気づくだろ。殺気も感じるし?」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。そうじゃなきゃ命がいくつあっても足りないだろ」
僕はティルの言葉を聞いて少し考えた。
きっと狩りが日常かそうじゃないかなのかもしれない。
戦闘メインだと殺気を感じ取れれば良い。
だが、狩りがメインだと、それでは足りない。
「……なるほど」
殺気だけ感じ取って、反応したほうが、効率はいい気がする。
今戦っている相手にそれだけ集中できるということでもあるし。
狩りと戦闘で集中の仕方を変えた方が良いのかな?
今度ママに聞いてみようとか考えていると、
「…………気づきませんでした」
母様までそんなことを言う。
でも母様は戦いも狩りもあまりしたことがないだろうし、仕方がないのかもしれない。
母様のことは守ってあげないといけないと思った。
「カトリーヌも集中してたのか?」
「はい、魔導具を作り始めると、どうしても……」
「この兄妹弟子は過集中がすぎるわね。師の影響かしら。ノエルはほどほどにしないとダメよ?」
「わかった! ほどほどな?」
リラは心配してくれるが、ママに鍛えられた僕には隙がなかった。
「あ、かあさま。まどうぐできた?」
「ええ、できたわ。コボルトさんたちの作業が終わり次第、設置するの」
母様は戦いも狩りも苦手だけど、魔導具作りは本当に凄い。
「おおー。かあさますごい。まどうぐみせてな?」
「いいわよ。はい。兄弟子もご覧ください」
「ありがとう。お言葉に甘えて……」
僕とティルは母様の作った魔導具を観察させてもらう。
「なるほど? お湯を引き込んで、温めて戻すのか」
「はい。お風呂の温度を保つ魔導具に使われる一般的な技術です」
「ほえー、すごいなぁ」
すごく便利な魔導具だ。
この魔導具があれば、お風呂のお湯が冷めないようだ。
「ノエル、これはよくある魔導具。基本的で一般的なものなの」
「ほうほう」
母様は楽しそうに魔導具について教えてくれた。
『できたわん』『みてほしいわん!』
『てぃる、おゆをいれてわん!』
母様の説明の途中でコボルトたちがお風呂の建物から出てきた。
「お、早いね、ありがとう。すぐいくよ」
『こっちだわんね!』
「あ、ノエルもみたいな」
ティルと一緒に僕と母様、フィロとリラは風呂の建物へと入った。
「いいよ。でもお湯を入れるだけだよ? ノエルなら、同じ事ができると思うけど」
「でも、てぃるのほうが、ひとぞくの魔法がうまいからな?」
「そっか。参考にしてくれ」
それに新しく建ったお風呂場を中から見たいというのもある。
お風呂場の建物に入ると、そこはとても広い脱衣所だ。
壁側には籠の置かれた棚があった。脱いだ服を籠に入れるのだろう。
脱衣所を通って、湯船のある部屋へと入る。
『てぃる、ゆぶねはこんなかんじわんねー』
『ゆかもみてほしいわん』
コボルトたちが作った湯船もすごく広い。ガルガルが泳げそうなぐらい広い。
深くないから泳げないと思うけど。
洗い場もとても広い。
湯船と洗い場の床は、石で作られていた。
「うん、すごくいいね。完璧だよ、ありがとうコボルトたち」
「いいかんじね。神殿の大浴場よりよさそう」
「いいとおもうな?」
『ほめられたわん!』『なでてわん!』
僕はティルとリラと一緒に褒めながらコボルトたちを撫でまくった。
「床は排水も考えられているね。わずかな傾斜があって継ぎ目がない」
ティルが床を観察して言う。
「すべらないようになってるのな? すごい」
コボルトたちが床石の表面加工をしてくれたみたいだ。
「本当に。石の加工技術は人族の比ではないわね」
あえて、コボルトたちは滑らないように細かい凹凸を付けている。
だからといって、なめらかじゃ無いわけじゃない。
僕は裸足で床を走りながら滑りやすさを確認した。
「うん、すべらないのに、いたくないな?」
滑らないようにとあまりにザラザラにしても痛い。
なめらかなのに滑らない。丁度良い感じだ。
「ぬらしてみて、すべらないかためしてみるな? にゃあ~」
猫魔法で水を出して、洗い場をびしゃびしゃにして、駆け回る。
「ふう。すべらなくていいゆかだったな?」
濡れても滑らなかった、コボルトたちは凄い。
「それはよかった。湯船の方も継ぎ目がないね」
『だいちのせいれいの魔法だわんねー』
『ゆぶねもすべらないようにしているわんね』
湯船の床も洗い場の床と同様に表面加工してくれているようだ。
「ありがとう、コボルトたち」
『えへへーうれしいわん』『ろてんぶろもみてほしいわんね!』
「おお、楽しみだ!」
コボルトたちに案内されて、洗い場から扉を開けて露天風呂へと出てみた。




