32 モニファスの授業
次の日、朝ご飯を食べた後、僕はみんなと遊んでいた。
ティルやミア、リラたち大人たちは仕事をしている。
コボルトたちも働き者のようで、朝から働いていた。
ジルカやペリオス、ペリーナは見回りをしながら、魔物の肉を狩るといって出て行った。
みんな働いている。だけど、僕は子供なので遊んでいいのだ。
エルフの子供たち、モラクス、ペロ、ガルガル、アオたちと鬼ごっこをする。
ガルガルとアオたちだけだと数が足りなくて鬼ごっこはできなかったのですごく楽しい。
「たのしーな!」
「がうがう~」
ガルガルはでかすぎて、足も速すぎるので特別枠だ。
ガルガルの背中の上は安全地帯というルールになった。
そんなガルガルは追いかけっこというより皆と一緒に走っている形だ。
「なあ!」「みゃ」「にゃ~」
アオたちは小回りがきいて、素早いので、楽しそうに遊んでいる。
意外と上手に鬼から逃げていた。
しばらく遊んで、休憩する。僕は水を出してみんなに配った。
「ありがと! ノエル」
「ノエルは水も出せて凄いねー」
「まどうしだからね?」
「ノエルは五歳なのに足速いね」
「ノエルはせいじゅうだからね?」
聖獣は足が速いのだ。
「でも、みんなも速いな? ノエルは猫魔法で体を強くしてるけど……」
魔法で強化した僕の身体能力は魔物と戦えるレベルなのだ。
きっと、人族の大人にも勝てるに違いない。
そんな僕と遊べるのだからエルフの子供は凄い。
僕より年下のミーシャですら、かなり速かった。
「ミーシャって、しょうきびょうだったんでしょ?」
「そだよー。ティルのくすりでなおった!」
瘴気病っていうのは、手足の先からヘドロの様な瘴気に覆われていく病気だ。
瘴気が内臓に達したら死んでしまう。
「なおったばかりなのに、速いな?」
「ティルのお薬がよかったからね」
「ティルはすごいな?」
「うん、すごい」
「ミーシャもすごい。四歳なのに」
「えへへー。病気のときははしれなかったから、たのしー」
瘴気病にかかってから、ミーシャはずっと家の中で横になっていたらしい。
瘴気に覆われた手足は痛くて、体調も悪くなるようだ。
それが治って、思いっきり動けることが楽しいみたいだ。
「エルフが速い理由はね。魔法を使えない代わりに身体強化できるからだよ」
少し年長のエルフが教えてくれる。
「ほえー。すごい。みんな、魔力もおおいものな」
「エルフは弓矢と短剣で魔物と戦ってきたからね」
「……ほんとに、すごい」
魔法なしで魔物と戦うのは大変なのだ。
のんびり休憩していると、モラクスのお母さんモニファスがやってきた。
『こどもたち。こっちに来て』
「どした?」「もっも~」
みんなでモニファスの周りに集まった。
『お勉強の時間。薬草のみわけかたを教える』
「おおー。ノエル、きょうみあるな?」
「がうがう」
ガルガルも興味があるらしい。
「ミーシャもしりたい! おしえて!」
「僕も!」
『薬草の見分け方は役に立つ。本当は大人がおしえるべきだけど』
ミア以外のエルフの大人たちは、魔物との戦いでみんな死んでしまったのだ。
だから、モニファスは代わりに教えてくれることにしたようだ。
「ありがとな? モニファス」
『きにしないで』
「あ、ねーさまを呼ぶ。ねーさま! モニファスが薬草の見分け方おしえてくれるってー」
ミーシャが姉のミアを呼ぶ。
「お、ありがたい。助かる」
すぐにミアが走ってきた。
『薬草の見分け方、毒草の見分け方は生き延びるのに役に立つ。魔導具師や錬金術師になるにも役に立つ』
「そうなのか……あ、かあさまもよんでいい? かあさまは魔導具師だし」
『いいよ』
母様は凄腕の魔導具師だ。だけど腐界の植物にはあまり詳しくないに違いない。
「かあさまー。こっちきてー」
「はいはい。今行きますよ。すみません。兄弟子。失礼します」
ティルと作業していた母様がやってくる。父様もやってきた。
「あのね? モニファスがやくそうとかどくそうのみわけかたを教えてくれるんだって」
「まあ、そうなのね。モニファス、ありがとうございます」
「剣士にとっても薬草の見分け方は必要な知識です。ありがとうございます」
母様も父様も丁寧にモニファスに頭を下げている。
『気にしないで』
皆が集まると、モニファスの薬草授業が始まった。
薬草や毒草の見分け方や特徴、薬の作り方や毒薬の作り方まで教えてくれる。
モニファスは授業が上手で、わかりやすい。
いつもは落ち着きのない赤ちゃんのアオたちも真面目な表情で聞いていた。
「あのね、かあさま。毒と薬の見分けるには、はっぱのさきっちょがだいじで――」
僕はモニファスの言葉が聞こえない父様と母様のために通訳する。
通訳するときに復唱することで、理解が深まった気がした。
「モニファス。このトゲトゲのかたちだけど――」
父様たちに説明するときに、よくわかっていないことをモニファスに尋ねる。
『いい質問。難しいけど、トゲの先の色が――』
「ほほう……、あ、かあさま、とうさま、色が――」
モニファスが押してくれたおかげで、だんだんと薬草の作り方がわかってきた。
『この特徴的な葉っぱの端が黒いのは毒草。赤いのは薬草』
「なんかな? 葉っぱのはしがくろいとどくなのな? だけど、あかいと薬に――」
「なるほど。モニファスさんは博識だなぁ。ノエルもモニファスさんの説明がわかって凄いよ」
「勉強になります。ノエルはモニファスさんの言葉がわかってすごいわ」
僕が通訳すると、父様と母様は褒めてくれる。
そのときミアが真剣な表情で尋ねた。
「モニファス。以前父から黒と赤を混ぜると胃腸薬になると教わったのだが正しいか?」
『ただしい。胃腸薬になる』
「一度作ろうとして失敗してしまったのだが、どこが間違っていただろうか?」
『どうつくった?』
「まず、赤い葉の先端を――」
ミアは丁寧に説明していく。それを聞いて、モニファスはしばらく考えた。
『手順が一つ抜けている。すりつぶす前に――』
ミアはエルフの中で年長なため、他の子供よりは親から知識を伝えられているようだ。
だけど、やはり伝え切れていなかったのだろう。
不完全な知識を補うために、モニファスに真剣に尋ねている。
『あと、この毒草は、この細長い草と合わせると虫除けになる。作り方は――』
「も~」「わかった!」「わふ」「ぁぅ」「にゃ」
ミアだけでなく、エルフの子供たちはみな真剣だ。
ペロやアオたちも真剣だった。
もちろん、僕も真剣に聞いたのだった。




