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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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232/234

第232話 所長の金庫

 軍靴の踵がコンクリートを叩く音が、通路の曲がり角の奥へ消えた。

 レオニスが柱の陰から体を離す。

 足音を立てずに階段の残りの段を上る。

 私は鉛筆を手帳に挟み、コートのポケットに収めて彼の背中を追う。


 上層の通路は短く、突き当たりに分厚い木製の扉がある。

 扉の隙間から、黄色い光が漏れている。

 私は扉の前に立ち止まり、木材の表面に耳を近づけた。

 紙の束が卓上に置かれる乾いた音。

 革の椅子が軋み、靴底が床を擦る音。

 

 レオニスが扉の金属製の取っ手に手を掛ける。

 私が後ろへ一歩下がると同時に、彼が取っ手を押し下げ、扉を勢いよく内側へ押し込んだ。


 蝶番が軋む音とともに、部屋の空気が通路に押し出される。

 部屋の中央にある巨大な机の前に、男が立っていた。

 男が顔をこちらへ向ける前に、レオニスが床を蹴る。

 靴底が床を打つ音が一度鳴り、彼の体が男の懐へ入り込む。

 男が身を捩ろうとした瞬間、レオニスが伸ばされた男の腕を掴んで捻り上げる。


 男の上半身が強制的に前傾し、顔が机の天板に激突した。

 木材に骨が衝突する鈍い音が部屋に響く。

 机の上の紙束が滑り落ち、床に散乱する音が続く。

 レオニスは男の背中に膝を押し当て、捻り上げた腕の関節を固定した。

 男の口から声にならない呻きが漏れ、靴の先端が床を蹴る摩擦音が鳴る。


 私は部屋に足を踏み入れ、背後の扉を押し閉めた。

 机の奥の壁面、額縁と本棚の間に配置された木製のパネルに向かって歩く。

 パネルの縁に指を掛け、横にスライドさせる。

 木の板が動き、壁に埋め込まれた金属製のダイヤルと重厚な取っ手が出現した。


 金庫の冷たい金属表面に耳の側面を押し当てる。

 右手でダイヤルのつまみを掴み、ゆっくりと回転させる。

 真鍮の部品がこすれ合う微細な音が、頭蓋骨を通して伝わってくる。

 男の呻き声とレオニスの衣服が擦れる音を排除し、金庫の内部機構の反響だけに集中する。

 特定の箇所で、内部のピンが落ち込む微かな摩擦音を拾い上げる。

 回転の方向を逆転させる。

 再び微細な音が鳴る。

 ダイヤルの回転を止め、取っ手を両手で掴み、押し下げた。

 重い金属部品が噛み合いを解く音がして、扉が手前へ開いた。


 金庫の内部には、紐で縛られた紙幣の束が隙間なく積み上げられている。

 その横の仕切りに、革表紙のファイルが収まっていた。

 私は紙幣の束を両手で掴み出し、机の空いた空間に放り投げる。

 紙幣の束が木板に当たり、乾いた音を立てて重なる。


 ファイルを取り出し、ページを開く。

 記載された物資の横流しの記録と、男の懐に入れた資金の移動先が並んでいる。

 ポケットから手帳を取り出し、ファイルの横に置く。

 「労働者の賃金を搾取し、組織の資金を横領した記録と裏金ね」

 手帳のページに鉛筆の芯を押し当てる。

 「全額、未払い賃金として差し押さえるわ」


 鉛筆が紙を削る音が、男の呻き声に混ざって響く。

 レオニスが男の背中から体重をわずかに離し、部屋の隅にある機材の塊へ視線を向ける。

 壁に固定された大型の配電盤と、その隣に設置された施設内の音声出力に繋がるマイクの台座。

 レオニスは男の腕を固定したまま、空いた手で腰のホルスターの留め金を弾いた。

 革が擦れる音が鳴る。

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