第231話 収容所の動力炉
案内役の男の指が壁面の金属ボタンを押し込む。
鈍い機械音がコンクリートの壁の内側で鳴り、厚い鉄の扉が横へスライドした。
開いた空間から、消毒液の匂いが流れ出してくる。
男が顎を動かす。
子供たちの靴底がコンクリートの床を擦る不規則な音が、扉の奥の暗がりへと続いていく。
男がレオニスに顔を向ける。
「荷物の引き渡しは終わった。車両に戻って次の搬入に備えろ」
レオニスは無言で首を縦に動かし、踵を返した。
私もそれに続く。
案内役の男が別の方向へ歩き出し、軍靴の音が通路に反響して遠ざかっていく。
角を曲がり、男の姿が視界から消えた位置で、レオニスが足を止めた。
彼は進行方向とは別の、壁に設置された鉄格子の扉に手をかける。
鍵穴はない。金属の留め金が外側に掛かっている。
レオニスが留め金を上に引き抜き、鉄格子を開く。
金属が擦れる高い音が鳴った。
私たちは管理区画へと続く薄暗い階段に足を踏み入れる。
階段を上るにつれて、足元から伝わる振動が大きくなる。
巨大な金属の塊が稼働する重低音。
太い配管が壁面に這い、内部を高温の蒸気が通り抜ける音が連続している。
施設の動力を担う炉が近い。
踊り場に到達したところで、私は金属の手すりに手を掛け、歩みを止めた。
目を閉じ、動力炉の駆動音の層を耳から押し退ける。
上の階層の通路から、軍靴の金具が床を打つ音が聞こえる。
足音は近づき、一定の場所で止まり、再び遠ざかる。
「通路の奥、警備の兵士が往復しているわ」
私は目を開けず、レオニスに言葉を向ける。
「壁際で折り返すまでの間隔、呼吸の周期から見て、歩調は一定よ」
レオニスが私の言葉に合わせて階段を上り、壁の端から通路の様子を伺う。
足音が最も遠ざかった瞬間、彼は床を蹴って通路へ滑り出た。
私も彼の背中を追う。
兵士の視界に入らない位置の太い柱の陰へ入り込む。
柱の裏側には、配管の接合部がむき出しになっていた。
金属の管に耳を近づける。
管の内部の空洞を通して、上の階層にある部屋の音声が反響して届いてくる。
紙がめくられる乾いた音。
木製の机を指で叩く硬い音。
『本国に送る報告書の束はこれだけか』
大人の男の声が管を通して響く。
『採掘された鉱石の箱、帳簿の記載を変更しろ。実際の搬出量よりも少なく書き換えるんだ』
別の男の短い返答の声が続く。
『除外した分の箱は、別の業者へ回す。利益の差額は私の執務室の金庫へ運んでおけ』
私は配管から顔を離した。
コートのポケットから手帳を取り出し、表紙を開く。
「施設長が直接、生産量の過少申告と横領を指示しているわ」
鉛筆の芯を紙のページに押し当てる。
「労働者の賃金だけじゃなく、自分の組織の資金まで手元に残しているのね。この施設の帳簿と裏金、両方を差し押さえる口実ができたわ」
レオニスは柱の陰から通路の先へ視線を向けたまま、腰のホルスターに手を添える。
「執務室の位置を特定する。警備の足音が再び遠ざかるのを待つ」
私は手帳のページに横領の事実を書き連ねる。
鉛筆の芯が紙を削る音が、配管を通る蒸気の音に混ざって響いていた。




