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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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第229話 貨物車の制圧

 客車の突き当たり。

 金属の枠に嵌められたガラス扉を押し開ける。

 外の冷気が顔に当たり、コートの布地を叩く。

 車両の連結部に張り出した鉄の板が、走行の振動に合わせて激しく上下に動いている。

 板同士がぶつかり、軋む音が耳を塞ぐ。


 レオニスが鉄の板を踏み越え、向かい側の貨物車両の扉の前に立つ。

 金属の取っ手を両手で掴み、体重をかけて横に引く。

 車輪の走行音に混じって、錆びた車輪が軌道を滑る重い摩擦音が鳴った。

 扉が開き、暗い空間が現れる。

 レオニスが体を滑り込ませる。私もその背中に続いて内部に入り、扉を引き閉めた。


 外の騒音が遮断され、木材の軋む音と低い話し声が耳に届く。

 貨物車両の内部には、高い位置まで木箱が積み上げられている。

 箱と箱の間に作られた狭い通路の奥で、油の燃えるランプが弱い光を落としていた。

 光の輪の中に、厚手の服を着た男たちの影が揺れている。

 男の手が金属の酒筒を傾け、中身を喉に流し込む音がする。


 レオニスが木箱の影に沿って歩き出す。

 靴底を床板に密着させ、足音を完全に殺している。

 男たちの一人が、空になった酒筒を床に置いた。

 金属の筒が木板に当たり、転がる。

 その音の直後、レオニスがランプの光の中へ踏み込んだ。


 男の顔が上がる前に、レオニスの手が男の口を覆い、もう一方の手が首の後ろを掴む。

 頭部が不自然な角度に捻られ、骨が擦れる低い音が鳴った。

 男の体が張力を失い、床へ向かって崩れ落ちる。

 向かい側に座っていた男が立ち上がろうとし、腰のベルトに手を伸ばす。

 レオニスの靴の先端が、男の膝の関節を側面から打ち据えた。

 膝から力が抜け、男の体が前方に倒れ込む。

 レオニスが男の背中に膝を押し当て、腕を背後に引き上げる。

 肩の関節が外れる鈍い音が響き、男の動きが完全に停止した。


 私は木箱の列に沿って進み、ランプの近くに立つ。

 倒れた男たちの傍ら、積み上げられた木箱の隙間に、分厚い布が被せられている箇所がある。

 布の奥から、細く不規則な呼吸の音が複数重なって聞こえる。

 布の端が小刻みに震え、床と擦れる音を立てている。


 私は布の端を掴み、引き剥がした。

 木箱の間の暗がりに、膝を抱えて丸まる小さな影が寄り集まっている。

 ランプの光が彼らの顔を照らす。

 一人の視線が私を捉え、息を大きく吸い込む音がした。

 声帯が震え、悲鳴が形になる直前。


 私はコートのポケットに手を入れ、指先で硬貨を掴み出す。

 金属の円盤を指の間に挟み、光の当たる位置へ持ち上げた。

 硬貨の表面がランプの光を反射する。


 吸い込まれた息が止まる。

 視線が私の顔から硬貨へと移った。


 「声を出さなければ、これがあなたのものになるわ」

 私は硬貨を差し出し、最も手前にいる子供の手のひらに押し付けた。

 小さな指が反射的に硬貨を握り込む。

 金属の冷たい感触が伝わったのか、子供の肩がわずかに跳ねた。

 「その硬貨で、家へ帰る切符と、途中で食べる温かい食事を買うのよ」

 私は子供の握り拳を外側から軽く叩いた。

 「大声を上げて見張りを呼べば、その資金は没収する。取引の条件はそれだけよ」


 子供が口を閉じ、硬貨を胸の前に抱え込んだ。

 奥にいる他の影たちも、身を寄せ合ったまま呼吸を静める。

 布が擦れる音は止んだ。


 レオニスが床に倒れた男の体から、厚手の外套を剥ぎ取る。

 布地を引き剥がす重い音が車内に響く。

 彼は外套のポケットを探り、折り畳まれた紙の束を引き出した。

 表面に文字と印が押された身分証。

 彼はそれを自分のポケットに入れ、剥ぎ取った外套の袖に腕を通す。


 「サイズが合わないな」

 彼は肩の布地を引っ張りながら、床のもう一人の男を顎で示した。

 「お前も着ておけ。身分を偽装して施設に入る」


 私は男の体に手を掛け、上から被せられている防寒具の留め金を外していく。

 金属のボタンが外れる乾いた音が連続する。

 布地を引き抜き、自分のコートの上から羽織る。

 裾が床の木板を擦り、重い埃の匂いが立ち上った。

 襟元を立て、顔の半分を覆い隠す。


 車体の揺れが大きくなり、再びブレーキの金属音が床下から鳴り響き始めた。

 列車の速度がさらに落ち、鉄の車輪がレールに軋む音が空間を埋め尽くす。

 窓のない車内に、外部の冷気が隙間から入り込んでくる。

 私は外套のポケットに手を入れ、底に沈んでいる硬い紙片の感触を指先でなぞった。

 列車は完全に停止し、前方から蒸気の噴出音が長く尾を引いて響き渡る。

 車外の砂利を踏む軍靴の音が、貨物車両の扉のすぐ外側に近づいてきた。

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