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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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225/230

第225話 水没する金庫室

 壁の向こう側の配管から、金属がこすれ合う音に続き、銅線が切断される硬い音が響いた。

 微かな火花の爆ける音が、私の鼓膜を叩く。


 前方の展示台で進行役の男が口を開き、機械の競売が始まる。

 周囲の座席から、客たちが交互に声を上げる。

 私は左奥の席の女に視線を向ける。

 女の指が耳元の通信機を何度も叩いている。

 彼女の呼吸の間隔が短くなり、椅子の背もたれから身を乗り出す。

 前列の男も懐の通信機を取り出し、側面のボタンを押し込んでいる。

 男の心臓の鼓動が不規則な速さになり、発声の頻度が落ちていく。


 通信の切断により、会場の参加者たちの手が止まった。

 私は足元の革張りのトランクの取っ手を持ち上げ、膝の上に乗せる。

 留め金を外し、蓋を開いて中身の紙幣の束を進行役に見えるように傾けた。

 「このトランクの中身の総額」

 私の声が会場の沈黙の中に響く。

 進行役の男の視線が、紙幣の束に固定される。

 彼は手に持った木製の槌を振り上げ、台の表面に強く打ち付けた。

 硬い木材同士がぶつかる音が鳴る。


 台の上の機械が、床下の機構によって沈み込んでいく。

 下層の保管庫へ移動する作動音が床から伝わる。


 後方の両開きの扉が外側から乱暴に蹴り開けられた。

 金属の蝶番が限界まで曲がり、壁に衝突する音が会場に響く。

 銃を構えた武装した男たちが、通路に雪崩れ込んできた。

 先頭を歩く体格の良い男が、銃口を天井に向けて引き金を引く。

 発砲音が鼓膜を塞ぎ、天井の装飾のガラスが砕けて座席に降り注ぐ。

 客たちが椅子から立ち上がり、床に倒れ込む音、靴底が階段を蹴る音が重なり合う。


 私の隣の座席の背後から、レオニスが姿を現した。

 彼は私の腕を掴み、通路の壁沿いへ体を引く。

 「出品物は下の保管室へ下ろされた」

 「あの女の研究データと隠し金庫も同じ階層のはずよ」

 レオニスは銃を抜き、下層へ続く螺旋階段の方向へ顎を向ける。


 私たちは階段を下り、海中金庫室のある通路へ足を踏み入れる。

 通路の片側は分厚い透明な素材で構成され、海中の濁った青色が外部を覆っている。

 天井の配管の隙間から、赤いランプの光が点滅を繰り返す。

 背後の階段から、軍靴の金属部品が段を叩く音が迫ってきた。


 レオニスが通路の中央で立ち止まる。

 追手の先頭の男が角を曲がり、銃を構えようとする。

 レオニスは床を蹴り、男の懐へ滑り込んだ。

 男の腕を下から突き上げ、銃身の方向を天井へ逸らす。

 発砲音と同時に、レオニスの手が男の胸倉とベルトを掴み、体を持ち上げる。

 男の体が弧を描き、海中を遮る透明な壁面に激突した。


 鈍い衝突音が通路全体を震わせる。

 透明な壁面の中心から、網目状の亀裂が走る音が鳴った。

 微細な摩擦音が連続し、亀裂の隙間から海水が細い糸のように噴き出してくる。

 水流がコンクリートの床に叩きつけられ、飛沫が跳ねる。


 レオニスが男の体を床に放り投げる。

 「奥へ進め」

 私は亀裂から噴き出す水を避け、通路の突き当たりにある部屋へ走る。


 部屋の壁面には、金属製の扉が埋め込まれている。

 表面には回転式のダイヤルが取り付けられていた。

 私はトランクを床に置き、扉の表面に耳を押し当てる。

 指先でダイヤルを回す。

 金属の爪が内側の溝に擦れる音。

 僅かな引っ掛かりの音を探し出し、回転の方向を変える。

 硬い音が内部の機構から響く。


 扉の取っ手を引き下ろすと、金属の摩擦音とともに隙間が開いた。

 金庫の中には、革表紙のファイルの束と、硬貨の詰まった袋が積み重なっている。

 私はトランクの蓋を開け、金庫の中身を両手で掴み出し、トランクの隙間に押し込んでいく。

 革と紙が擦れる音が続く。


 部屋の外の通路から、銃声と男たちの呻き声が連続して聞こえてくる。

 壁の亀裂が広がる摩擦音が重なり、噴き出す水流の音量が増していく。

 水が扉の敷居を越え、私の靴の底を浸し始めていた。

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