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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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第224話 入札の音

 職員の指が紙幣の束に巻かれた帯を弾く。

 高い音が窓口のガラスに反響する。

 札束の山がカウンターのこちら側へ押し出された。

 レオニスが足元に置いていた革張りのトランクを台に乗せる。

 留め金を外し、蓋を開ける。

 彼は札束を片手で複数掴み、トランクの隙間に押し込んでいく。

 紙が擦れる乾いた音が続く。

 蓋を押し下げ、金属の金具を噛み合わせた。

 トランクの取っ手を握るレオニスの腕の筋肉が隆起する。


 そのまま私たちはカジノフロアを抜け、昇降機が並ぶエリアへ向かう。

 扉の前の操作盤のボタンを押し込む。

 金属のワイヤーが擦れる重い音が縦穴から響き、昇降機の箱が目の前に到着した。

 両開きの扉がスライドし、中へ入る。

 レオニスが最下層を示すボタンを押す。


 昇降機が降下を始める。

 床から伝わる振動が足の裏を打つ。

 壁面の一部がガラス張りになっており、外部の景色が見える。

 コンクリートの壁面が途切れ、分厚い透明な壁の向こうに、濁った青色の水が広がった。

 照明の光が水中の気泡を照らし出している。

 昇降機は海面下の階層へと下りていく。


 「競売の参加者は、外部の口座から資金を即座に動かせる手配をしている」

 レオニスがトランクの取っ手から手を離さずに口を開く。

 「手持ちの現金だけで競り落とすのは難しい」

 「だから、外部との接続を断ち切るのよ」

 私はガラスの向こうの水の動きを見つめたまま答える。

 「通信の経路を物理的に切断すれば、彼らの手元にあるのは今持っている紙切れだけになるわ。口座の残高もただの幻になる」

 昇降機の降下が止まり、衝撃が床から伝わる。

 扉が開く。


 長い通路の先に、両開きの重厚な扉がある。

 武装した警備の男たちが立っている。

 レオニスが金色のカードを提示し、トランクの重さを示すように僅かに持ち上げる。

 警備の男が頷き、扉の取っ手を引いた。


 内部はすり鉢状の空間になっている。

 中央の低い位置に展示台があり、周囲を階段状に座席が取り囲んでいる。

 すでに多くの席が埋まり、低い話し声が充満している。

 私たちは中段の空いた席に腰を下ろした。

 椅子のクッションが沈み込む。


 前方の展示台に進行役の男が立ち、木製の槌を台に打ち付けた。

 硬い音が空間に反響し、話し声が途切れる。

 最初の出品物が台に乗せられ、男が言葉を発する。

 周囲の席から、数値を告げる声が次々と上がる。


 私は椅子の背もたれに体を預け、目を閉じた。

 前方に座る恰幅の良い男の背中から、心臓が血液を送り出す音を拾う。

 彼の声が数値を上げるたび、心拍の間隔が短くなる。

 彼の手が上着のポケットに入り、紙の束を握る音がする。

 指が紙を擦る摩擦音。

 私は彼の懐にある資金の限界を音で測る。


 「前の列、右寄りの席の男。彼の手持ちはあと少しよ」

 レオニスの方へ顔を向けずに呟く。

 「左奥の席で札を上げている女。彼女は外部の連絡を待っているわ。耳元の小型通信機から微かなノイズが漏れている」


 レオニスが立ち上がる。

 トランクを私の足元に置き、通路の階段を上っていく。

 彼の足音がカーペットに吸収され、後方の扉の外へと消える。


 私は目を開け、前方の展示台を見下ろす。

 次の出品物が台の中央に運ばれてくる。

 布が掛けられた巨大な立方体の物体。

 進行役の男が布の端を掴み、引き剥がした。

 金属の筒とガラス管が複雑に組み合わさった機械の構造が露わになる。

 ガラス管の内部には、くすんだ赤い色の鉱石が詰め込まれている。


 周囲の席から、息を飲み込む音が連鎖して聞こえた。

 私の足元で、トランクの革の表面に靴の踵を当てる。

 壁の向こう側、施設の裏手を通る配管の奥から、金属のカバーが外される鈍い音が私の耳に届いた。

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