第221話 VIPルームの再会
螺旋階段の絨毯が靴底の衝撃を吸収する。
案内役の黒い服の男が一定の歩幅で前を上っていく。
金属の手すりに指を滑らせる。真鍮の表面が手のひらの熱を奪っていく。
レオニスが金属板の詰まった箱を抱え、私の半歩後ろを歩いている。
箱の中で板が偏り、側面の内側に当たる鈍い音が規則的に鳴る。
階段を上りきると、金属の装飾が施された両開きの扉が立ちはだかった。
案内役の男が取っ手を両手で掴み、体重をかけて押し下げる。
内部の機構が外れる重い音が鳴り、扉が内側へ開いた。
下の階の騒音が厚い壁に遮られ、扉の向こう側は別の空間のように静まり返っている。
部屋の中へ足を踏み入れる。
壁面に等間隔に配置されたランプが、低い光量の光を床に落としている。
換気ダクトの低い稼働音に混じり、甘い香料と酒のアルコールが揮発した匂いが空気中を漂う。
部屋の中央には、縁に革のクッション材が張られた長円形のテーブルが置かれていた。
テーブルの奥、背もたれの高い椅子の座面に、一人の女が腰を下ろしている。
女の手にあるグラスの底で、球形の氷が回転し、ガラスの壁面に当たる高い音が響いた。
女がグラスをテーブルに置く。
結露した水滴が木の天板に落ちる。
彼女が椅子から立ち上がり、照明の光の下へ顔を出した。
髪の結い方と顔の輪郭の比率、顎の線。
砂漠の要塞の地下で見た替玉の女中ではなく、記憶の底にある顔の造形と完全に一致する。
「ここに来ると思っていたわ」
女の口唇が動き、声帯から発せられた音が部屋の壁に反射する。
彼女は両腕を真横に広げ、ドレスの袖の布地を揺らしながら私の方へ歩み寄ってくる。
「私の可愛い最高傑作」
靴の踵が床を叩く音が近づく。
私はコートの深いポケットに手を差し込んだ。
広げられた腕が私の肩に触れる直前、私は足を横へ踏み出し、彼女の進行軌道から外れた。
布が空を切る音が鳴る。
彼女の腕が空中で止まり、顔が私の方へ向き直る。
私はポケットから分厚い手帳を取り出した。
長円形のテーブルの表面に、手帳の背表紙を叩きつける。
革と紙の塊が木材に激突し、乾いた破裂音が部屋の空気を震わせた。
「久しぶりね」
私は手帳の表紙を開く。
「私が施設に置き去りにされた日から今日までの養育費。それに労働の対価と精神的苦痛の慰謝料。そこに法外な複利を乗せて計算した請求書よ」
鉛筆の芯の跡が並ぶページを指の腹で叩く。
「このカジノ船の金庫室を満たして余りある額になるわ。耳を揃えて払いなさい」
女の腕がゆっくりと下ろされる。
彼女の顔の筋肉が収縮し、口元が微かに動いた。
背後で、レオニスが金属板の箱を床の絨毯の上に置いた。
重い箱が繊維に沈み込む音がする。
女の視線が私の手帳のページから、背後のレオニス、そして再び私の顔へと移動する。
彼女の喉仏が動き、息を飲み込む小さな音が室内に響いた。




