表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/230

第219話 水上都市のゲート

 走行音が空洞を打つような低い反響音へと変わった。

 テーブルの上のグラスの水面が、車体の振動に合わせて細かく揺れている。

 レオニスがナイフとフォークを皿の上に揃えて置いた。

 金属と陶器が触れ合い、高い音が鳴る。

 彼はナプキンで口元を拭い、立ち上がった。

 私もグラスを空にし、テーブルに置く。


 「着くわね」

 窓の外に視線を向ける。

 海面から突き出た巨大な鉄の柱が、連続して後方へ流れていく。

 その向こう側、水平線を塞ぐようにコンクリートと鉄骨で組み上げられた建造物の群れが迫ってきていた。


 私たちは食堂車を後にして、通路を歩く。

 壁の真鍮の手すりに指を滑らせながら、客室の並ぶ車両へと戻る。

 すれ違う乗客たちが、荷物を手に通路へ出始めていた。

 自分たちの個室の扉を引き開ける。

 レオニスは長椅子の下から革張りのトランクを引き出し、床に置いた。

 留め金を弾き上げる金属音が狭い室内に響く。

 蓋を持ち上げ、彼は紙幣の束の間に手を入れた。

 底の方から、布に包まれた重い塊を取り出す。

 布の隙間から、黄色い金属の光沢が覗いた。

 彼はそれをコートの内ポケットに滑り込ませる。


 「通行料だ」

 彼はトランクの蓋を閉め、鍵のシリンダーを回した。


 床下からブレーキの摩擦音が鳴り響き、車体が前後に大きく揺れる。

 窓からの自然光が遮られ、人工的な照明の光が個室内を照らし始めた。

 列車の速度が徐々に落ち、完全に停止する。

 車両の前後から、昇降用の扉が開く音が聞こえてきた。

 レオニスがトランクの取っ手を持ち上げる。

 私はコートのポケットの上から手を当て、手帳の硬い感触を確かめてから客室を出た。


 列車の外へ出ると、潮の匂いを含んだ冷たい風が顔に当たる。

 コンクリートのプラットホームには、列車から降りた乗客の靴底が打ち付ける音が充満していた。

 荷物の車輪が床を擦る音や、話し声がドーム状の屋根に反響している。

 私たちも乗客の波に混ざり、出口の方向へ進む。

 高い天井にはむき出しの鉄骨が走り、そこから吊るされた巨大なランプが等間隔で光を落としていた。


 通路の先には、金属の柵で仕切られたゲートがある。

 制服を着た審査官たちが等間隔に並んだ机の奥に座り、乗客の書類や荷物を検査している。

 「目的が不明確だ。元の港へ戻れ」

 審査官の一人が、前の男に向かって書類の束を突き返した。

 男が抗議の声を上げ、机に手をつく。

 背後に立つ警備の兵士が警棒の柄に手をかけると、男は舌打ちをして列から離れていった。


 私たちの順番が回ってくる。

 レオニスが机の前に立ち、トランクを床に置いた。

 私もその隣に並ぶ。

 審査官が手元の記録簿から顔を上げ、私たちを交互に見た。

 「身分証明書と、滞在目的を」

 審査官が手のひらを上にして差し出す。


 レオニスはコートの内ポケットから、布に包まれた塊を取り出した。

 布の結び目を解き、机の上に置く。

 黄色く光る金属の延べ棒が、木の天板に重くぶつかる音が響いた。

 審査官の視線が金属の塊に固定される。

 彼の喉仏が上下に動く。


 「南洋からの視察だ」

 レオニスが低い声で告げる。

 「滞在期間は未定。制限のない通行証が必要だ」


 審査官は視線を左右に動かし、机の上の金属の塊に手を伸ばした。

 金属が木を滑る音がして、塊は審査官の引き出しの中へと落ちる。

 引き出しが素早く閉まる音が鳴る。

 審査官は机の下から金属製のカードを取り出し、机の上に滑らせた。

 表面に金色の塗装が施されている。


 「視察の歓迎を。滞在中の制限はありません」

 審査官がカードの端を指で叩く。


 レオニスがカードを手に取り、コートのポケットに収める。

 私はゲートを塞ぐ金属の棒に手をかけ、前方へ押し込んだ。

 回転軸の摩擦音が鳴る。

 私たちは入国審査のエリアを抜け、都市の内部へと続く長い通路へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ