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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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213/232

第213話 宰相の金庫

 撃鉄が次々と起こされる連続した金属音。

 レオニスは私の腕を掴み、螺旋階段の支柱の影へ引き寄せた。

 頭上の格子の隙間から鉛の弾丸が通り抜け、下のコンクリートの床に当たる。

 砕けた破片が散らばる音が周囲の壁に反響する。


 レオニスはシリンダーを回し、銃口を真上の階段の隙間へ向けた。

 引き金を引く。

 発砲音が狭い空間の空気を震わせ、私の鼓膜を強く圧迫する。

 上の階で金属の塊が床に落ちる音、重い布が崩れ落ちる音が響いた。

 レオニスは立ち上がり、銃を構えたまま階段を駆け上がる。

 私はコートの裾を握り、金属の段を蹴ってその後を追う。


 階段の最上部には、分厚い木製の扉がある。

 表面の真鍮の装飾がくすんだ光を反射している。

 レオニスは扉の横に立ち、手袋をはめた手で取っ手を掴んで押し込んだ。

 蝶番が軋む音とともに、扉が内側へ開く。


 部屋の中央には巨大な木製のデスクが置かれている。

 背後には大きなガラス窓があり、その向こう側に時計の文字盤の裏側が見える。

 デスクの前に、銀色の髪を撫で付けた男が立っていた。

 宰相の服の襟元には、交差した剣と盾の紋章のピンが光っている。

 宰相の右手がコートのポケットに伸びていた。


 レオニスが銃口を宰相の胸に向ける。

 宰相の手が止まり、ゆっくりとコートから離れた。


 「手配した人数が足りなかったようだな」

 宰相の声が部屋の空気を揺らす。

 レオニスは銃を下ろさず、宰相に近づく。

 「武器を床に出せ」

 宰相は無言でポケットから小型の拳銃を取り出し、絨毯の上に落とした。

 拳銃が布地に沈み込み、鈍い音を立てる。


 私はデスクの横へ歩き、部屋の壁に視線を向ける。

 耳を澄ます。

 部屋の外にある歯車のノイズを排除し、室内の空間の反響を拾う。

 デスクの背後、木製のパネルで覆われた壁の奥。

 僅かな隙間から、金属の箱が埋め込まれている空洞の音が聞こえる。

 先ほどまで開閉されていた金属の摩擦音が、微かに残っている。


 「そのパネルの裏よ」

 私は壁を指差した。

 「金庫があるわ。ダイヤルを回す乾いた音が、壁の中に残っている」


 宰相の顎の筋肉が収縮する。

 レオニスが宰相の腕を掴み、壁の前へ引き立てた。

 「開けろ」

 宰相の指がパネルの端を押し込むと、木板が横にスライドし、金属のダイヤルと取っ手が現れた。

 宰相の指がダイヤルを回す。

 カチ、カチと金属の爪が噛み合う音が鳴る。

 重い音とともに、金庫の扉が開いた。


 中には紙幣の束が積まれ、その横に革表紙のファイルや厚手の封筒が押し込まれている。

 私は一番手前にある封筒を手に取った。

 封は切られている。

 中から折り畳まれた紙の束を引き出す。

 紙を広げ、視線を落とす。


 表面に並ぶ文字の末尾。

 そこには、見慣れた文字の並びがあった。

 線の跳ね方、丸みを帯びた筆跡。

 母親の署名だ。

 紙の束の他のページをめくる。

 実験の進行報告、そして資金の受け渡しを証明する金額の記載。

 南の海都での取引の記録と、帝国からの送金の記録が日付順に並んでいる。


 私は紙の束を握りしめた。

 紙が折れ曲がり、乾いた音を立てる。

 「この女……」

 私は紙の端を指で弾いた。

 「南の海都で資金を巻き上げておきながら、帝国からも二重に研究費を騙し取っていたのね」

 コートのポケットから手帳と鉛筆を取り出す。

 「私を孤児院に置き去りにした慰謝料に加えて、この二重取りした資金の回収も私の業務に加えるわ」

 鉛筆の芯を紙に押し当て、新たな項目を書き殴る。

 芯の削れる音が、静まり返った部屋に響く。


 宰相の視線が、私の手元の紙の束と手帳を往復する。

 「その契約書は、帝国の……」

 宰相の言葉を遮り、私は紙の束をコートのポケットにねじ込んだ。

 「これは債権回収の証拠品よ」


 私は手帳を閉じ、レオニスに視線を向けた。

 レオニスは宰相から視線を外さず、金庫の中にある残りの紙幣の束を手に取っていた。

 束の端を指で弾き、音を確認する。

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