第212話 吊るされた罠
テーブルの端に硬貨を揃える。
硬貨の側面が重なり、金属の冷たい音を立てる。
レオニスの手元で、シリンダーがフレームに収まり、回転する音が部屋の空気を切った。
彼は銃をホルスターに押し込み、立ち上がる。
「行くぞ」
「ええ」
私は硬貨の束を袋に戻し、紐を縛る。
椅子の背に掛けたコートを手に取り、袖に腕を通した。
部屋の扉を開け、廊下の絨毯を踏む。
建物の外に出ると、空を覆っていた分厚い雲の隙間から、白く濁った光が路面に落ちていた。
濡れた土と砂利の混ざる道を歩く。
靴底が水を跳ね、コートの裾を濡らす。
大通りの突き当たりに、高い塔がそびえ立っている。
塔の頂部には巨大な文字盤がはめ込まれ、金属の針が動いている。
塔の根元にある木製の扉にレオニスが手をかける。
鉄の取っ手を押し込むと、重い摩擦音とともに扉が開いた。
内部に足を踏み入れる。
機械油の揮発した匂いが鼻を突く。
頭上では、巨大な真鍮の歯車が噛み合い、回転している。
金属の突起がぶつかり合う低音が、コンクリートの壁に反響し、足元から床の振動を伝えてくる。
空間の中央には鉄の格子で組まれた螺旋階段が上へ伸びている。
レオニスが階段に足を乗せる。
靴底が金属の格子を叩き、鋭い音が鳴る。
私は彼の背中の後ろに続き、手すりを掴みながら階段を上る。
歯車の回転音が耳を塞ぐ。
私はコートのフードを深く被り、顔を下に向けて目を閉じた。
周囲の巨大な騒音の層を押し分け、その奥にある微細な音の発生源を探る。
上の階層。
鉄の足場の上で、厚手の布が擦れる音。
金属の筒が鉄の手すりに触れる硬い音。
短く、不規則な呼吸の反復。
そして、金属の部品が指の腹で擦れ、バネが押し込まれる微かな摩擦音。
私は目を開け、レオニスの背中の布を掴んだ。
彼が立ち止まり、私を見下ろす。
「上の踊り場。奥の太い柱の陰。引き金に指をかけて息を潜めている」
私の口の動きと声で、彼が視線を上に向ける。
レオニスは手袋の指先で、先ほどスプールから引き出したワイヤーの端を巻き直した。
巨大な歯車の一部が私たちの真横を通過する。
真鍮の円盤が視界を遮る瞬間、レオニスの靴が階段を蹴った。
彼は身を低く保ち、鉄の段を跳び上がる。
歯車のスポークが視線を塞ぐ隙を突き、踊り場の縁に手を掛けて体を持ち上げた。
上層から、撃鉄が弾かれる短い音が響いた。
直後、レオニスの腕が弧を描く。
放たれたワイヤーが、柱の陰から突き出た銃身と、それを握る腕に巻き付いた。
レオニスがワイヤーを強く引き寄せる。
男の体が柱の陰から引きずり出され、鉄の床に靴が擦れる嫌な音が鳴る。
男の手から銃が零れ落ち、格子の隙間を抜けて下の階層へと落下していった。
レオニスはワイヤーを引いた反動を利用し、男の胸倉を掴んで背後のコンクリートの壁に叩きつけた。
後頭部が壁に衝突する鈍い音が、歯車の轟音の中に混ざる。
男の体が床に崩れ落ち、動かなくなる。
私は階段を上りきり、踊り場に足を踏み入れた。
コートのポケットから手帳を取り出す。
「時計塔の設備の修理代と清掃代、これも宰相の口座への請求リストに入れておくわ」
手帳のページを開き、鉛筆の芯を紙の表面に滑らせる。
その時、さらに上の階層から、複数の靴底が鉄の板を踏み鳴らす音が重なって聞こえてきた。
撃鉄が次々と起こされる連続した金属音が、空間を伝って降りてくる。
レオニスは倒れた男の首元からワイヤーを回収し、再び手袋の掌に巻き付けながら、螺旋階段の上方へと鋭い視線を向けた。




