表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

202/228

第202話 政治婚約

 レオニスの手袋の指先が、封筒の縁をなぞる。

 彼は封筒を裏返し、赤い蝋の封を確認する。

 「南洋の決定機関へ持ち帰り、協議の場へ上げる」

 彼は封筒を自分の鞄の隙間に滑り込ませた。

 宰相が椅子の背もたれに体を戻す。

 円卓の周囲で、使節たちが一斉に書類の整理を始めた。

 紙の束が鞄に収められ、金属の留め金が連続して鳴る。

 議長役の男が会議の終了を宣言する。


 私たちは議事堂の扉を抜けた。

 絨毯を踏む足音が廊下に反響する。

 建物の外へ出ると、雪は止んでいた。

 灰色の空の下で、馬車が待機している。

 車内に乗り込む。

 車輪が雪を圧縮する音が、ホテルの車寄せまで続いた。


 ホテルの部屋の扉を開ける。

 暖炉の薪がオレンジ色の光を放っている。

 レオニスが鞄をテーブルに置き、留め金を外した。

 中から書類の束と、あの装飾の施された封筒を取り出す。

 封筒をテーブルの端に置いた。

 赤い蝋の封が、暖炉の光を反射している。


 私は外套を脱ぎ、壁のフックに掛けた。

 ワゴンに残っていたティーポットの持ち手を握る。

 陶器のカップに、温かい茶色い液体を注ぐ。

 湯気が立ち上る。

 カップの持ち手に指を通し、テーブルの前に立つ。


 レオニスはネクタイを外し、椅子の背もたれに掛けた。

 彼の視線が、テーブルの上の封筒に向けられる。

 私もその封筒を見下ろした。

 金色の糸の縫い目。帝国の紋章。


 私の右手の指に力が入る。

 陶器の持ち手が、親指と人差し指の間で軋む。

 硬い音が鳴った。

 持ち手の根元にヒビが入り、白い陶器の破片がソーサーの上に落ちる。

 カップが傾き、熱い液体がテーブルの木目にこぼれ出した。

 液体が封筒の端に向かって流れていく。


 私は割れたカップをソーサーに置き、布巾でテーブルの表面を拭いた。

 「……良かったじゃない」

 私は布巾を折りたたみながら、レオニスの横顔を見た。

 「お金持ちのお嬢様と結婚すれば、私の未払い給料も倍にして払ってもらえるわね。帝国の資金も引き出せるし、慰謝料の回収も早まるわ」


 レオニスはテーブルの上の封筒を手に取った。

 液体が染みる直前の、乾いた端を指で挟む。

 彼は封筒へ目を向け、そのまま足元のゴミ箱へ落とした。

 厚手の紙が丸められることもなく、底に当たる音が鳴る。


 「俺の雇用契約は、そんなに安くない」

 彼はテーブルの上の布巾を手に取り、私が拭き残した液体の跡を拭き取った。


 ゴミ箱の底で、赤い蝋の封が上を向いている。

 私は手帳をポケットから取り出し、鉛筆の芯の先を白紙のページに当てた。

 木材が擦れる音と、暖炉の薪が爆ぜる音だけが部屋の中に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ