表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/233

第201話 空白の議席

 宰相の声が、会議場の囁き声を切り裂いて響いた。

 彼は手元の紙の束を指先で揃える。紙の縁が重なる乾いた音が鳴る。

 「提出された資料の精査は我々が行う。軍の予算の不当な移動が事実であれば、該当者は相応の処遇を受けることになる」

 彼は紙の束を革張りのファイルに挟み込んだ。

 「会議の議題を本筋に戻す」


 円卓を囲む使節たちが、手元の鞄から地図や書類を取り出す。

 大きな紙がテーブルの中央に広げられる。

 国境の警備配置と物資の流通経路についての話し合いが再開された。

 空席となった大臣の椅子の隣に座る軍服の男たちは口を閉ざしている。

 彼らは宰相が言葉を発するたびに、ただ短く頷くだけの動作を繰り返していた。


 私はレオニスの斜め後ろに立ち、扇子を両手で持ったまま彼らのやり取りを聞く。

 国境の関所の通行許可。

 捕虜の返還手続きに関する条件のすり合わせ。

 各国の代表が自国の要求を提示し、宰相がそれに応じる。

 レオニスも南洋の代表として、海路の安全保証について短い言葉で同意の意思を示した。


 会議の進行は滞りなく続く。

 窓枠の影が絨毯の上を滑り、部屋の奥へ伸びていく。

 給仕がテーブルの上のグラスに水を注ぎ足す水音が、規則的に鳴り響いた。


 宰相が手元のペンを置いた。

 「各国との合意は形成された。正式な文書の作成に入る」

 彼は両手をテーブルの上で組み、視線をレオニスへ向けた。

 「南洋の使節殿。今回の件、帝国の内部の腐敗を明るみに出していただいた。その手腕と南洋の影響力を、我々は高く評価している」


 レオニスは椅子の背もたれに寄りかかったまま、無言で宰相を見返す。

 宰相が背後に立つ補佐の男に視線を向ける。

 補佐の男が革の鞄を開け、装飾の施された厚手の封筒を取り出した。

 男は円卓の縁に沿って歩き、レオニスの手元に封筒を置く。


 「帝国と南洋の結びつきを、より確固たるものにするための提案だ」

 宰相が組んだ指に力を込める。

 「我が国の有力な貴族の令嬢を、レオニス殿の伴侶として迎え入れていただきたい」


 レオニスの視線が、テーブルの上の封筒に落ちる。

 封筒の表面には、帝国の紋章を象った赤い蝋の封が押し付けられていた。

 封筒の縁には金色の糸が縫い込まれている。


 私は両手で持っていた扇子の持ち手を強く握り込んだ。

 木製の骨組みが手のひらの皮膚に食い込み、軋む音が鳴る。


 円卓の使節たちが、レオニスと封筒を交互に見る。

 レオニスは封筒に触れない。

 彼は視線を封筒から宰相の顔へ戻した。

 「唐突な提案だな」

 「和平の証だ」

 宰相は椅子の手すりに肘を置いた。

 「両国の間に血の繋がりを設ける。口約束の条約より、遥かに強固な同盟の形となる」


 私は手元の扇子を少しだけ持ち上げた。

 レオニスの横顔を見下ろす。

 彼の表情の筋肉は動かない。

 テーブルの上の封筒の縁に、彼の手袋に包まれた指先が触れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ