罪着せ屋。それは逮捕されない者に、重い罪を着せる仕事。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
この国には『罪着せ屋』と呼ばれる仕事がある。ネットの裏サイトやチラシ紙の裏側に小さく書かれている電話番号から、依頼という形でそれは行われる。
罪着せ屋にも2種類ある。1つは一般人を相手にする『カタギ着せ』。これは誰かに対して特に恨みを持ってる人間が、何らかの罰を与えたと願い依頼する先である。一般人と言えども、富裕層や企業の社長、果てはヤクザからの依頼も含まれる。
そして、もう1つは国を相手にする『オカミ着き』である。これは法整備の関係上逮捕できない者を逮捕する為、特にはスパイを逮捕する為に政府や政府関係者が極秘に依頼する先である。
同じ罪着せ屋でもカタギ着せと違い、オカミ着きはやはり高給かつ、上品なものであった。
いずれにせよ、罪着せ屋は殺し屋と違い、日本の法律の中で、合法的にターゲットへ罪を着せられる仕事なのだ。
罪着せ屋が罪を着せる方法、それは至ってシンプルだ。何でもいいから相手を現行犯で逮捕させれば良いのである。
罪着せは、大抵の場合2人以上で行われる。安い依頼料で行われる罪着せは、1人目がターゲットの買い物中にコッソリとカバンに商品を仕込み、2人目がそれをターゲットに指摘し、警察沙汰にすることである。
他にもターゲットの指紋を入手することで、犯行現場にターゲットの指紋を付着させる『着け置き』という手段も使われる。これは有罪とまではいかなくとも、逮捕された留置されることによる社会的信用の低下を狙ったものである。
より依頼料が高くなる(=罪が重くなる)と、その方法はより緻密になっていく。
例えば、ターゲットの車に事前に細工を施し、轢かれ役に対して過失運転致死傷罪を着せるパターンがある。この際も実行役と轢かれ役の2人が必要で、場合によっては目撃役を設けることもある。
スパイに罪を着せるオカミ着きとなれば、また内容は変わる。国からの依頼である都合上、軽度の罪であっても検察と司法、刑務所の働き掛けにより、『影の実刑』と呼ばれる名目上の罰則以上の罰が与えられるのだ。
例え大抵の場合は罰金で済む罪だったとしても、検察に検挙され、有罪判決を下される。こうして、ターゲットはスパイ活動や騒乱罪などのいわゆる国賊が投獄される専用の刑務所へと収容される。
ただし、時にはそういう強引な手段は足取りを残すことになる。その為、より重篤なスパイ案件には、しっかりとした重罪を着せるようプロの罪着せ屋が雇われる。
彼らは主に『洋モノ』と呼ばれる手法を使う。
高額な依頼料であれば、まずは時間を掛けスパイと接触する。スパイは大抵の場合富裕層や技術者、経営者、そして政治関係者など産業や軍事に重要な情報を持つ者との接触を好む為、その手の情報を匂わせれば簡単に会食ができる。
そして会食の場は、必ずフレンチ料理が出されるレストランが選ばれる。なぜなら、料理と共に犯行に使われるナイフが違和感なく運ばれてくるからだ。
ターゲットはナイフをしっかりと握り、指紋をつける。そして、スタッフに扮した仲間がそのナイフを確保し、罪着せの下地が整う。
その夜、監視カメラの端に、ターゲットの背丈に似た刺し役と、被害者となる刺され役が立つ。刺し役がナイフを刺され役の脇腹に一刺しする。刺され役が警察に通報すると、ナイフに付いた指紋からターゲットが殺人罪の容疑で逮捕されるのである。
プロのオカミ着きは矛盾や不明瞭なことが起きないよう上記の内容の他に様々な準備をし、布石を置く。だが、やはりミスは起きる。しかし、そのような場合は、警察が矛盾を掻き消し、検察はターゲットを起訴し、司法はそれを有罪と認める。国憲というのは強力なモノで、ターゲットの弁護士までも、国の用意した抱き抱えが与えられるのだ。
日本にスパイ防止法ができるまで、罪着せ屋はスパイに『不意の罪』を着せる。だが、スパイ防止法が出来たとしても、罪を着せたい者が消えることはない。
なにも罪着せ屋はスパイに限った話ではない。知らず知らずの内に恨みを持たれた一般人が狙われる事もあるのだ。