表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/7

第3章_潮の囁き

 藍海での戦いと欠片の入手から二日後、こはるたちは海沿いの浜辺で野営をしていた。日が沈むと、海は茜色から群青色に変わり、波打ち際で月光が反射して小さな光の粒が踊っていた。

  こはるは焚き火のそばで欠片を両手に包み込むように持ち、その感触を確かめた。表面は滑らかで冷たいはずなのに、心臓の鼓動のような微かな脈動が指先に伝わってくる。

 (この欠片、本当に生きているみたい……)

  火を見つめていた海人が口を開いた。

 「こはる、眠れないのか?」

 「うん、なんだか落ち着かなくて」

  海人は微笑んだ。「わかるよ。俺も初めて任務で命を賭けたときは、夜眠れなかった」

 「そのとき、どうしたの?」

 「ただ、目の前の誰かの役に立ちたいって思っただけだ。怖さより、その方が強かった」

  その言葉はこはるの胸に温かく響いた。彼女は火に照らされた海人の横顔を見つめる。頼りがいがあるのに、どこか少しだけ無防備な表情をしている。

 「海人って……どうしてそんなに人を助けたいの?」

  海人は少し間を置いて答えた。「昔、助けてもらったことがあるんだ。だから今度は、俺が誰かを助ける番だって思ってる」

  タイはその会話を聞いているようで聞いていないように、無言で剣を磨いていた。火の光が刃に反射し、彼の顔を一瞬だけ照らす。その瞳は遠い過去を見ているようで、声をかけづらい雰囲気を放っていた。

  こはるは欠片を胸に抱き、決意を固めた。

 (私はこの世界で何も覚えていないけど……役に立ちたい。この欠片を集めて、潮枯れを止める。それが私の存在理由になるはず)

  その夜、波の音はいつもよりも優しく聞こえた。欠片の鼓動と、海の囁きが重なって、こはるはようやく眠りについた。

  翌朝、彼らは紅海に向けて出発する準備を整えた。青い空と穏やかな波が広がり、しかし遠くの水平線には黒い筋のような不穏な潮が見えた。タイはその方向を鋭く見つめ、低くつぶやく。

 「……見覚えがある」

  こはると海人は顔を見合わせたが、今は問いただすことはせず、ただ新しい旅路に向けて歩みを進めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ