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第25章_返しの本隊

 明けの刻、王都の腹は戻る鐘の深い谷を飲み込んだ。二度の音が石に染み、南と東の灯は糸のまま高い。港では方舟の索が短く鳴り、桟橋には荷と人が静かに並ぶ。城中庭で結んだ“二つ”は袋の底で拍を保ち、泉の息は紙一枚ぶんだけ高い。

  こはるは桟橋の端で膝を折り、板に掌を置いた。胸の棚に白と紅を並べ、浅い谷をひとつ。喉が“返す道”を思い出し、腹に置いた温石の名残りがうすく灯る。袋の結び目を指で二度確かめ、煤の手触りで落ち着きを戻す。

 「本隊は三組に分ける」海人が短く告げ、桟橋の杭に指で印を刻む。「先行の軽荷、中央に子と老い、殿に修繕具。舟は二艘で往復。陸の列と拍を揃える。走らせない」

  ディランは旗を低く保ち、角度の印を兵の掌に写す。「曲がる前に止まる。二短は変えない。半歩ずつ、斜めに立つ」

  タイは木柄を肩に担ぎ、板の継ぎ目を親指で撫でた。沈みかけの節を先に押し、足の逃げ道になりそうな隙を寝かせる。刃へは触れない。「“楽な道”は先に潰す」

  ケイトリンは香草布を束ね、甘い滴を前へ、苦い舌薬を後ろへ。温石は籠に半分。「喉を通す。返事はしない。寒さは腹で止める」

  ダルセは竪琴を背へ回し、空へ浅い谷を三つ吊るした。音は出さない。列の肩がその“間”を拾って揃う。

  王太子は船頭の位置には立たない。桟橋の付け根で、人の流れを糸のように細く整えただけで黙った。余計を言わない沈黙が、城の芯の固さを示していた。

  先行組が動く。荷は軽い。干し肉、温石、布の束、子の履く靴。方舟の板が吸い込むように受け、索が低く鳴る。

  こはるは舟べりに掌を置き、白で筋へ触れ、紅で温度を包む。浅い谷が舟の息へ落ち、戻る鐘の二度と重なる。

  港口を抜けると、印の列が見えない橋のように続いていた。礁、杭、空洞の器具、乙女の踏み石、そして昨日増やした浮標。どれも灯は持たないが、目と耳として道を示す。

  外の海は静かではない。静かに見えるだけだ。

  最初の押しは風。舳先の前で空気が半歩遅れ、舟の板が音にならない音で軋んだ。

 「押さない。ずらす」海人。

  ディランは旗を低く滑らせ、舵を半度外へ落とす。

  タイが舷の内側を木柄で撫で、舳先の“楽な道”を丸めた。

  こはるは浅い谷を二つ続け、白で筋を、紅で温度を保つ。

  先行組が印の二つ目を過ぎるころ、港では中央組の隊列が整った。子を抱いた女の肩、老いの杖、荷車の軸。列は走らず、旗は半度落ちる。

  ケイトリンが香草布を配り、布の折り目を確かめさせた。「息で返す」

  ダルセは空で浅い谷を揺らし、その返りが人の歩幅を一つにする。

  先行組が帰りの拍で港へ戻るとき、海の底で懐かしさの形が一度だけ喉の裏へ差し出された。名はない。幼い日の庭の温度の角度だけ。

  こはるは布を鼻口に当て、浅い谷を長くひとつ。白が前へ、紅が内へ。

  タイの木柄が水の横腹を噛み、ディランの舵が半度外へ。

  ダルセの谷は切れず、海人の櫂が名の形に触れる前に筋を滑らせた。

  懐かしさは粉に崩れ、舟は痩せずに通る。

  中央組が乗る番。

  橋板の上で子が一歩だけ速く出そうになり、母親の手がそれを止めかけて止まり切れない。

  こはるは膝を折り、布の折り目を指で揃え、目線を同じ高さに落とす。「ここで止まる。次で渡す」

  母親は頷き、息で返事をした。子の肩は落ちる。

  方舟は二艘とも胸骨の形を取り、列を受けた。索が低く鳴り、舟腹が同じ間で呼吸する。

  沖の“目”と“耳”は働き続ける。

  踏み石の輪で水が紙一枚ぶん高くなり、浮標の残骸が薄い返りを残す。

  老人の小舟が斜め後ろを守り、舳先で短く言う。「返りが太る。——噛める場所が増えた」

  海人は頷き、印と印のあいだに舳先を滑らせる。「行きが軽い。帰りは深く」

  そのとき、黒でも白でもない輪郭が印の列の外縁で二つ、同時に結ばれた。舌のような細さではない。角度は正確で、喉の裏に古い手順の形を持ってくる。

  ディランの旗が半度落ち、舵が一拍ぶんだけ外へ逃げる。

  タイの木柄が輪の横腹を噛み、こはるは胸の棚を一段深くして白と紅の間に薄い棚を挟む。(渡さない。渡すのは、私が選んだ“間”だけ)

  ダルセの浅い谷が三つ、切れずに続き、ケイトリンの布が口元を守る。

  輪は二つとも空を噛んで崩れ、筋は痩せなかった。

  往復二度。

  港の桟橋では殿組の荷が束ねられ、破れた樽の楔、折れた軸の替え、縄の結びの補材が積まれる。

  王太子はやはり船頭には立たず、港の端で目だけを海へ投げていた。息は乱れない。肩も動かない。だが、城全体が彼の沈黙の角度で立っているのがわかる。

  三度目の往復の帰り道。

  黒の縁の方向から、音ではない重さが横合いに寄ってきた。

  海人が短く言う。「押さない。噛む」

  タイの木柄が舳先の横腹に当たり、ディランの舵が半度外へ。

  こはるは浅い谷を連ね、紅で灯を守り、白で筋を太らせる。

  重さははがれ、舟は返りに乗った。

  中央組が港へ戻り切る寸前、桟橋の端で荷車の車輪がひとつ軸から外れた。列が波打つ。

  ダルセの長い浅い谷。人の足が一度だけ止まる。

  ディランが肩で荷台を支え、海人が樽の転がりを手で止める。

  タイが車軸に棒を通して持ち上げ、ケイトリンが指示のいらない短い言葉で人の手を分ける。「ここ、押す。——息で返す」

  こはるは子の手の震えを見て、折り目を示すだけで布を渡す。子は真似て畳み、母の鼻へ当てた。肩が落ちる。

  列は戻り、拍は切れない。

  殿組が出る。

  修繕具と縄の束、樹脂、帆布、温石――“次の往き”を太らせるものばかり。

  港口を抜けたところで、海の底から懐かしさの形がまた喉の裏に差し出された。今度は声のない作業歌の“癖”が混じる。

  こはるは布を強く押し当て、胸で浅い谷を三つ。白が前へ、紅が内へ。

  海人の舵が半度外へ、タイの木柄が横腹を噛み、ディランの旗が低く滑る。

  懐かしさは粉に崩れ、舟は痩せずに通る。

  印の列の先で、薄い影が横一文字に走っていた。沈んだ横木の新しい欠片。昨日、黒い背を砕いた場所だ。

 「核になる前に、先に潰す」海人。

  ディランが旗で合図し、舟の速度を浅い谷で落とす。

  タイは木柄の布をもう一周締め、横木の腹を噛ませて押し返す。

  こはるは紅で温度を包み、白で筋を橋のように渡す。

  欠片は空を噛んで崩れ、筋は一本ぶん太った。

  帰路。

  方舟の二艘は港へ入る前に一度だけ膨らみ、持ってきた返りを城の腹へ渡す。

  桟橋で王太子が短く頷いた。「拍は通っている」

  海人は息を吐く。「次は“人が留まる場所”を外の列に置きたい。目と耳のあいだに、腰を下ろせる浅瀬の形を」

  老人の小舟が舳先で短く笑った。「座る場所は、止まるためじゃない。息を通すためだ」

  ケイトリンが頷く。「布と温石、半分はそこへ」

  ディランは旗の図に“座る印”を加え、角度を丸くする。

  タイは地図の影を親指で押し、“楽な道”になりそうな斜路に赤い×を置いた。

  こはるは港の石に掌を置き、胸の棚に白と紅を並べ直した。浅い谷をひとつ。(往きと帰りが、同じ間で息をしている。……なら、置ける)

  夕。

  第二陣の本隊が橋に乗る前、黒の縁の方向でわずかな寝返り。灰は太らない。だが、吸われていた音が一枚ぶん薄くなった。

  ダルセの浅い谷が港の鐘と合い、城壁の陰にいた兵の肩が同じ高さで落ちる。

  王太子は相変わらず余計を言わず、ただ桟橋の付け根に立って海を見ていた。

  こはるは袋の結び目を二度確かめ、煤の手触りを指へ移す。

  そして、舟べりに掌を置き、浅い谷をひとつ。

 (返す。今度は“座る場所”を置きながら。拍を太らせ、道を広く。名は渡さず、灯は胸に)

  方舟の索が鳴り、舳先が印の列へ向いた。

  南と東の灯は糸のまま高い。戻る鐘は深い谷、二度。

  “返しの本隊”は、さらに外へ。

 第二陣が港口を抜ける刻、海は色を選ばないまま、重さだけをわずかに変えた。南と東の灯は糸のまま高い。戻る鐘は深い谷、二度――間は乱れない。

  先頭の方舟は印の礁を越え、昨日据えた浮標の残骸を“目”として左肩に見ながら、乙女の踏み石の輪へと滑る。

  こはるは舟べりに掌を置き、胸の棚に白と紅を並べ、浅い谷をひとつ置いた。喉が“返しの道”を思い出し、腹の奥で温石の名残がうすく灯る。袋の結び目を二度確かめると、煤の手触りが指に移って落ち着きが戻った。

 「ここに座る場所を置く」海人が舳先から視線を斜め後ろに投げ、岸から来る三本の列と海上の“耳”の反響を重ねる。「座っても進む。息を通すための座」

  ディランは旗を低く保ち、印の真上ではなく一歩外側に角度の合図を打った。「立って座る。曲がる前に止まる。二短は変えない」

  タイは舟底の節を親指で探り、舷の内側を木柄でそっと撫でる。“楽な道”が勝手に太らぬよう、腰を先に落とした。

  ケイトリンは帆布を折りたたみ、薄い樹脂を端に塗って防湿の座布をこしらえる。甘い滴は前へ、苦い舌薬は奥へ。

  ダルセは竪琴に掌を伏せ、空へ浅い谷を三つ吊るす。谷は切れず、舟の息がそこへ落ちた。

  乙女の踏み石の輪を風下に外し、静かな渦の肩へ舟を半身だけ掛ける。

  こはるは膝で舟板を押さえ、小さな帆布の座を二つ、左右に置いた。紅で温度を、白で道を。

  座布は沈まない。座るために作られているのに、止まる気配がない。

 「座って」こはるは舟の中央へ誘導した母子の足元に手を添え、布の折り目を広げる。

  母は腰を落とし、子は膝を抱えた。舟の拍は変わらず、呼吸だけが深くなる。

  ケイトリンが甘い滴を母の舌へ落とし、子の鼻口へ香草布を軽く当てる。「返事はしない」

  母はうなずき、目を閉じた。肩が一段沈み、すぐ元の高さへ戻る。

  老人の小舟が舳先で短く笑った。「座りながら進む、というのは、昔の渡し守の“贅沢”だった」

  海人は櫂を押し、舳先を半度だけ外へ滑らせる。「なら、今は必要だ」

  座の手応えを確かめてから、方舟は一度だけ港側へ返した。

  返る拍が座の上で途切れぬのを見届けると、こはるは帆布の折り目をもう一枚増やし、座布を四つにした。

  ディランが旗で“座の合図”を兵に写す。二短の後、半拍の間を置いて肩を落とす。

  タイは“楽な道”を先に潰す赤い×を、印の地図へひとつ足した。

  第二の座は、空洞の器具の手前に置かれた。

  器具の空洞は名を欲しがる癖を持っている。呼べば応える。だから呼ばない。

  こはるは布を口元に当て、胸の棚に浅い谷を三つ続ける。白が前へ、紅が内へ。

  ダルセの浅い谷が切れない。

  タイの木柄が器具の横腹を噛み、ディランの舵が半度外へ。

  呼びの癖は粉に崩れ、こはるは器具の風上に座布を二つ置いた。

  座はまた進む。舟の拍がそのまま座に移り、座に座る人の呼吸が拍へ戻る。

  三つ目の座は、礁と杭のあいだ。

  波の肩がやわらいだこの区間は、道が二重に見えやすい。“楽な道”が勝手に太る。

  海人が舳先を低く、半度だけ落とした。「座で押さえる」

  こはるは紅で温度を厚く、白で橋を低く置く。

  ケイトリンが樹脂で座布を薄く曇らせ、匂いを残す。

  タイが舟底の節を先に撫で、ディランが旗の角度を丸める。

  座が道の重心をつかんだ。二枚に分かれかけた筋は、一本ぶん太く戻る。

  外の影が一枚、濃くなる。

  黒でも白でもない輪郭が二つ、同時に結ばれた。

  舌のような細さではない。角度は正確で、喉の裏に古い手順の形を持ってくる。

  ディランの旗が半度落ち、舵が一拍ぶんだけ外へ逃げた。

  タイの木柄が輪の横腹を噛み、こはるは胸の棚を一段深くして白と紅の間に薄い棚を挟む。(渡さない。渡すのは、私が選んだ“間”だけ)

  ダルセの浅い谷が三つ、切れずに続き、ケイトリンの布が口元を守る。

  輪は二つとも空を噛んで崩れ、筋は痩せなかった。

  殿の舟が修繕具を運びながら座の地点へ来た。

  帆布の座に腰を下ろした老船大工が、結び目を指で叩いて言う。「これなら軸が折れても、列を崩さず直せる」

  海人が頷く。「往きも帰りも、ここで『座って進む』を覚えれば、次の舟は自分で拍に乗れる」

  老船大工は結びを短く締め、空を見上げて笑わずに笑った。「覚えた“間”は、忘れにくい」

  そのとき、海の底で懐かしさの形が一度だけ喉の裏へ差し出された。

  今度は幼いころの家の土間の匂い。結びをほどく癖が混じる。

  こはるは布を強く押し当て、胸で浅い谷を三つ。白が前へ、紅が内へ。

  海人の舵が半度外へ、タイの木柄が横腹を噛み、ディランの旗が低く滑る。

  懐かしさは粉に崩れ、座は拍を保った。

  四つ目の座は、黒の縁へ向かう前の、いちばん広い浅瀬に置く。

  ここは風の返りが薄い代わりに、音が吸われやすい。

  ダルセが空へ浅い谷をひとつだけ長く吊るし、戻る鐘の二度と重ねる。

  こはるは座布を三つ、三角に置き、紅で灯を守り、白で三角の内側へ橋を張った。

  ケイトリンは甘い滴を舟の中央へ配り、「喉を通す」と短く言う。

  タイは舷の内側を木柄で叩いて“今できた楽な道”の腰を先に潰し、ディランは旗の角度に半歩ぶんの待ちを加えた。

  座の三角が、吸われた音の代わりに“返り”を受けて保持する。

  王都から遠いのに、港の腹が一瞬だけ近くなる。

  座を四つ置き終えたころ、港の桟橋でも拍が深くなっていた。

  王太子は相変わらず余計を言わず、付け根で人の流れを糸のように整え続けた。

  伝令が走らずに来る。「座、二つ目と三つ目、往復に耐える。……泣きは減り、布の折り目は揃っている」

  王太子は頷き、視線だけで“続けろ”を渡した。

  午後。

  空はうすく青さを思い出し、黒の縁のほうで重さがひとつ寝返りをした。

  海人が舳先を半度だけ落とし、座の三角をもう一度踏む。「殿が戻る前に、縁の手前で『座の結び』を置きたい」

  こはるは胸の棚に白と紅を並べ直し、浅い谷をひとつ。(座と座が、互いに息を運べるように)

  ケイトリンが樹脂の薄い線を舷から水面へ描く。匂いは薄く、形は残らない。

  タイが木柄で線の腰をなぞり、“楽な道”の芽を先に摘む。

  ディランは旗で隊列の角度を丸め、ダルセの谷が切れずに続いた。

  座は互いに“耳”で繋がり、拍が座から座へ移っていく。

  殿の舟が修繕具を下ろし、帰りの拍に乗り直した瞬間、黒の縁の方角で輪がひとつ、静かに結ばれた。

  名はない。

  けれど、合わせの角度はある。

  こはるは布を口元に当て、胸で浅い谷を三つ。(渡さない)

  タイの木柄が横腹を噛み、ディランの舵が外へ滑り、海人の櫂が名の形に触れる前に筋を反らす。

  輪は空を噛んで崩れ、座の三角はほどけなかった。

  帰路、座の上でひとりの老人が腰を落としたまま、手を膝に置き、目を閉じた。

  こはるはそっと膝をつき、呼吸に自分の浅い谷を合わせる。

  老人の肩が一段落ち、次の拍で同じ高さへ戻る。

 「この座は……歩かなくても戻ってくる」

  老人の声は砂を含んだみたいに低く、やわらかかった。

 「座りながら進む場所です」こはるは微笑まずに答える。

  老人はうなずき、帆布の折り目を指でなぞった。「忘れにくい折り目だ」

  日が傾く。

  四つの座は息を保ち、印と“耳”の列は太い。

  港の桟橋で王太子が一度だけ綱を引き、戻る鐘が深い谷を落とした。二度の音が城壁に返り、座の三角にまで薄く届く。

  海人が舳先を返す。「本隊は今日で座を覚えた。……明けは『渡す』を増やす。外で二本、内で二本」

  ディランが旗を巻きながら角度に点を打つ。「曲がる前に止まる。座に入る前も同じ」

  タイは木柄の布を締め、刃に触れない。

  ケイトリンは座布の汚れを布でぬぐい、樹脂の蓋を閉める。

  ダルセは舟の鼻で浅い谷を二つ、港の鐘の間に合わせて落とした。

  桟橋。

  中央の列が戻り切り、殿の舟が最後の荷を下ろす。

  王太子が短く頷いた。「座は座であり、道は道だ。——よく噛んだ」

  海人は息を吐き、「明け、さらに外へ」とだけ言う。

  老人の小舟が舳先で結び目を叩き、短く付け足す。「短く、強く。間は長く」

  こはるは袋の結び目を二度確かめ、胸の棚に白と紅を並べ直した。

 (座って進む。進みながら座る。……往きも帰りも、拍が切れないように)

  夜の入口、方舟の索がゆるみ、板が浅く息をした。

  南と東の灯は糸のまま高い。戻る鐘は深い谷、二度。

  王都の腹は、座の“耳”と“目”を通した拍で呼吸を続ける。

 (次は、座の先。黒の縁の“合わせ”が息を潜める場所へ。名は渡さず、灯は胸に。……行こう)


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