07 初めまして、こんにちは。これが労働の厳しさです!の巻
お日様も登る前から、ベッドから叩き起こされて、畑仕事をさせられてリリィはクタクタ。しかもね、朝ごはん抜きなのよ!もう死んじゃう。
朝日が昇って、やっと青空が広がり始めた時。リリィは、もう無理ってなっちゃって、畑のすみっこで座り込んじゃったの。
「何やってるの、リリィ。神殿に戻るわよ」
ジェニファーがクワを抱えて言うの、でもリリィは立つ事さえ出来ないわ。
「ほら、早く行くわよ。朝ごはんの時間になっちゃう」
「え、ごはん!?」
お腹ペコペコなの。少しでも早く食べたくて、うんと走っちゃった!
「ちょっと、リリィ!自分の使ったクワを持って行きなさいよ!もうっ」
後ろの方でジェニファーが叫んでるけど、振り返ってる暇はないわ。
「さあ、農器具を倉庫に戻してきて、お勝手に集まってねぇ」
おばあちゃんがそう言ってるのを聞いて、食堂でワクワクしながら待っていたけど、中々、パンケーキは出てこない。
「リリィ!あなた、クワは片付けないし、朝食の準備はしてないし、何をやってるの!」
そうしたら、ジェニファーがプンスカしながらやってきたわ。
「ええー!?ご飯まだ出来てないの?」
「当たり前でしょ!皆、農作業してたんだから」
ジェニファーったら、リリィの襟の後ろを掴むと台所へと引きずっていくのよ。なんて、力持ちなのかしら。リリィ、びっくり!
「リリィ、あなた、ジャガイモの皮を厚くむき過ぎよ。食べるところなくなっちゃうでしょ!もう、ここは良いから食器をテーブルに運んで!トム!リリィをお願い!」
「よし、リリィ、皿運ぶの手伝ってやるよー」
トムは男の子の中で最年長で10歳なんですって。
クタクタだし、パンケーキもローズティーもない朝食。でも、お野菜のスープにジャガイモを潰して作ったマッシュポテトはとっても美味しかったわ。
朝からいっぱいお仕事をしたし、お腹もいっぱい。この後は何をしようかしら。
「ねぇ、ジェニファー、領都の街には何があるの?よかったら、二人で遊びに行きましょう」
一緒にお出かけでして、お買い物をしたり、カフェでお茶をしながらオシャベリしたら、仲良くなって親友になれるんじゃないかしら、私達。
でもね、ジェニファーは呆れたように言うの。
「この後は鶏小屋の掃除よ」
ええー!?まだお仕事があるの!?
この後、家畜のお世話をしたり、神殿の祈りの間や、リリィ達の部屋の掃除に、窓拭き、お洗濯、お庭のお手入れ、薪を集めたり、収穫した野菜を箱詰めしたり、ちっとも遊ぶ時間がないの。そんな目まぐるしい日が3日も続いたわ。
「もう無理っ。今日はお休みの日にするわっ」
たまには、ゆっくり休まないと体がもたないわ。だからジェニファーに言ったの。
「……具合が悪そうには見えないけど」
「元気よ。でも、もう毎日働き通しでしょう。たまには休まなきゃ」
「呆れた、ここに来てまだ3日しかたってないじゃない」
「でも無理は禁物なのよ。お仕事は出来る人がやれば良いのよ」
「そんな理屈、初めて聞いたわ」
「本当よ、ジミーが言ってたもの」
「ふーん。そのジミーって人、怠け者なのね」
なんて事いうの。ひどいっ、ジミーのこと悪く言うなんて許せないわ!
「そんな事ないわ、ジミーは立派な騎士なのよ。本当は準騎士だけど、正騎士も同然で!リリィがお仕事に疲れた時は、いつも気晴らしにどこかに連れてってくれて、とっても頼りになるんだから」
「へぇ、三日で仕事を休みたがるあなたに付き合って、そのジミーって人も仕事を休んでたのよね?その時は、彼も他の人に仕事を押し付けてるんでしょう。言っておくけど、辺境でそんな事をする騎士は懲罰ものよ」
「そ、そんな、懲罰だなんて」
「それに、今日、あなたがサボったら誰があなたの分の仕事をやるの。私に押し付けるつもり?」
そう問いかけられて考えたけど、二人分の仕事をやっておいてなんて言えないわ。だって、ここのお仕事は本当に大変だもの。
「じゃ、じゃあ、皆で少しづつリリィの仕事をやれば!」
「皆って、誰のことを言ってるの?」
リリィはハッとしちゃった。この神殿にいるのは大人は神官様とおばあちゃん、他には子供達だけ。神官様は神殿のお仕事が忙しいし、片足が少し悪いのよ、おばあちゃんは腰が痛いことが多いみたい。子供達は10歳よりも小さな子達ばかりだし。
「ええと、その、それは……」
リリィが言い淀んでしまっているとジェニファーはフンと言ったわ。
「私に言わせると。誰が相手だろうと、自分が休みたいからって理由で、仕事を押し付けて遊びに行くなんて、ろくでなしよ」
「違うわ!ろくでなしなんて!」
ええと、ジミーは他にも何か言ってなかったかしら。確か、確か……
「そう!リリィとジミーは特別なのよ!」
「どこが?」
「え?」
「理由は?」
「うーんと、うーんとね。今、思い出すから待ってね」
「……私も疲れたわ。仕事はちゃんとやるけど」
あ、思い出したわ!そうよ。
「リリィのパパが騎士団長様で、ジミーのパパは中隊長様だからよ!」
「じゃあ、あなたのパパをここに連れてきてくれる?」
「パパは……ここにはいないわ」
「そうよね。あなたのパパは辺境の騎士団長じゃない。辺境ではあなたも普通の人よ。特別じゃない」
ジェニファーの言葉に胸がキュッと痛む。考えないようにしていたけど、パパとママに黙って姿を消したんだもの。きっと心配してるわ。
「それからね、辺境領では父親が騎士団の隊長以上の階級でも、仕事サボって遊んでるなんて褒められた事じゃないわ。それでも休みたければ勝手にして。じゃあね」
ジェニファーはそう言って、畑へと行ってしまった。
リリィは胸がモヤモヤして、遊びに行く気持ちにはなれなくなっちゃった。その日も、休み休みだけど、お仕事をこなしたわ。
それから、数日たったけど、あの日ジェニファーと話してから、理由は分からないけど、色んな事が、ずっと頭の中でグルグル回っているの。
お仕事は大変。だけど、辺境ではリリィの代わりを頼める人はいない。足が不自由な神官様に、おばあちゃん、小さな子供達。だからと言ってジェニファー一人にお願いなんて言えないわ。
でも伯爵領にいた頃もお仕事はたくさんあった……メイド仲間達もたくさんいたけど、リリィがお休みした時のお仕事は誰がやってくれていたんだろう。皆んなで手分けしてやってくれていたのかしら。でも、元から大変なお仕事が増えたら、もっと大変だったはず。
「頭の中がグルグルするわ」
その日は、リリィとジェニファーは街の商会のお手伝いをする事になったの。神殿で暮らす大きな子は時折、街からお仕事の依頼がくるそうよ。
「やあ、お嬢ちゃん達、ちょいと多いがよろしく頼むよ」
倉庫の管理のおじさんはニコニコしながら、説明して出ていったわ。リリィとジェニファーは木箱に入った品物を出して、整理して、数を確認して……
「もう、ダメ……少しだけ休むわ」
いくつもの重い木箱を運んでクタクタになったリリィは、倉庫の隅で休ませてもらう事にしたの。倉庫の整理って大変……すぴー。
「リリィ、帰るわよ」
「ハッ!」
ジェニファーに声を掛けられて気が付いたの。いけない、リリィったら。寝ちゃったんだわ。
「ご苦労さん、ずいぶんと時間がかかっていたね。これは駄賃だよ」
倉庫の外で管理人のおじさんに声を掛けると、お金の入った小さな袋を持ってきてくれたわ。
「ありが……」
「この子の駄賃は半分で良いわ」
だけどジェニファーが突然こんなことを言い出したの。
「この子、途中で疲れて眠っちゃったのよ」
「そりゃあ……困るな」
そして、おじさんは袋のお金を半分にしてしまったの。リリィはショックで言葉も出なかったわ。でもね帰り道、リリィはジェニファーを問い詰めたの。
「ひどいわ、ジェニファー。どうして、おじさんに、あんなこと言ったの」
「半分の仕事しかしていないのに、給金を全部もらおうとしてる方がひどいわよ」
「でも、一生懸命やったわ」
「ねえ、リリィ。あなたが服を注文したとするでしょう。ところが約束の日に取りに行ったら半分しか出来てない。でも仕立屋は一生懸命つくったから、全ての代金を払えって言われたら払うの?」
「それは……」
答えられずにいたら、ジェニファーはリリィに背を向けてしまったの。
「神殿の仕事があるから先に戻るわ。道はもう分かるでしょ」
一人残されたリリィはジェニファーが行ってしまうのを黙って見送ったわ。
「おーい、お嬢ちゃーん」
するとね、倉庫の管理人のおじさんが追いかけて来たの。
「いやあ、中を確認したけど、ちゃんと全部終わってたじゃないか」
「えっ?でも、リリィは寝てしまったのよ」
「ジェニファーがやったんだろう。こっちは、誰がやろうと、終わらしてくれりゃあ構いやしないからね。ほら、残りの駄賃だ」
残りのお金を受け取ったのだけど、なんだか余計に頭のなかがグルグルして目が回りそうよ……
【お願い】
ここでは、有給休暇の概念は一旦おいといていただけると助かります……
てか、リリィは有給が発生するほど働いておりませんので……