06 何だかんだでヒロインは運が良い!の巻
安心して下さい、履いてますよ。(葉っぱと靴)
「とりあえず、お嬢ちゃんもここで暮らしてみるかい?」
頼りのエリック様が、素敵な王子様じゃなくて、葉っぱの王子様だったと分かって、途方に暮れたリリィに、お花さんがそう提案してくれたの。
どうしたら良いか分からなくって困ってしまっていたから、お世話になることにしたわ。
今はお花さんと葉っぱのエリック様と一緒に、辺境伯様にお願いに行くところ。
すると突然、お花さんの葉っぱのついた茎がしゅるって伸びたの。
「そこだーっ!」
「ドゥーー?!」
お花さんの茎に巻き取られたのはドゥッキー・ドット。
「妙な気配がすると思ったら、お前か。ドゥッキー・ドット。また悪巧みをしているのか?」
「ドゥは良い事しかしてないにゃあ、この娘をここに連れて来てやったんだにゃあ」
「なんだって?お嬢ちゃん。こいつに付き纏われてるのか」
「リリィに祝福をくれようとしてたの。でも断ったわ」
「参ったな。こいつに気に入られるなんて、お嬢ちゃん、随分周りに迷惑をかけて来たんだな」
「そんな事してないわ!」
一生懸命説明したけど、お花さんが言うにはドゥッキー・ドットは皆が困ってるのが大好きだから、リリィの周りにもそう言う事が起きてるんだろうって。それから、ドゥッキー・ドットが近くにいるともっと混乱と混沌を呼び起こすのですって!
「どっかに行ってちょうだいよ、ドゥッキー・ドット」
「イヤドゥ〜」
ドゥッキー・ドットはお花さんの茎に縛られてたまま、ニヤニヤと笑っているの。こんな奇妙なオジサンの加護なんていらない!
「仕方ないな。小花達、来てくれ」
お花さんがそう言うと、小さなお花がたくさん舞ったの。
「よんだ?」
「なになに?」
「かくれんぼしよー」
「あそぶの?」
「ちがうよ、おしごとだよ!」
「あ、ドゥッキー・ドットだ!」
「わー!ドゥッキー・ドットだ!」
みんな、お花さんみたく、お顔がある。何だかかわいい。
「こいつらは、オイラの眷属……弟分だ。ドゥッキー・ドットが悪さしないよう見張らせるから、お嬢ちゃんはコイツに嫌われるよう真っ当に生活しな」
「ありがとう、お花さん」
真っ当な生活なんて簡単よ、今まで通りキチンと過ごせば良いのだもの。
ドゥッキー・ドットは「ドゥー!」と叫びながらどこかへ飛んで行ってしまったわ。もちろん小花ちゃん達も追いかけていったの。頼もしいわ。
「きっと、アイツはまたお嬢ちゃんの所へやってくるからな。気を抜くなよ」
「ええ、分かったわ」
「ふむ」
そしたらエリック様が何か考え込んでるの。
「おい、レレィ」
「リリィです」
そうしたら、キリリとした顔で言うの。でも、名前、間違ってるわ。おっちょこちょいなのね。
「あの不細工な妖精を使役し、私の中央復権の役に立つと誓い、それを実現したならば、貴様を側室にしてやっても良いぞ」
何を言ってるのか、さっぱり分からない。困ってしまって、お花さんに助けをもとめたの。
「お花さん、そくしつって何?」
「2番目の奥さんってことだ」
「えっイヤです。1番でもイヤです」
そうしたら、エリック様はとっても驚いた顔をしていて、ちょっと申し訳ない気分になったわ。お断りの理由をちゃんと言わなきゃね。
「リリィ、カッコいい王子様が好きなんです」
「貴様の目は節穴か!私は世界の誰よりもカッコいい王子であろうが!」
「エリック様、カッコいいって思えなくなっちゃったんだもの」
「私のどこがカッコ悪いというのだ!」
「オイラが言うのもなんだが、葉っぱ1枚だからじゃないか」
お花さんがため息を1つついたわ。
そんなことを話してたら、領主邸に着いたわ。王都のお城と違って、飾り気はないけど頑丈そうな造りよ。
「ガハハハ!いいぞ、許す!ここに根を下ろすがいい、娘よ!」
「ありがとうございますっ」
この大きくてお山みたいな辺境伯様は実は王様のお兄様なんですって。ガハハって笑う人に初めて会ったわ。
「伯父上!この娘は不敬にも、私をカッコ良くないと申したのですよ!」
「エリック。オイラ、お花だけど、伝えるべきところは、そこじゃないって分かるぞ」
「伯父上!この娘は、私が側室にしてやっても良いと言ったのに2番目も1番目も嫌だとぬかしたのですよ!」
「ガハハハ!私も娘が葉っぱ一枚の男に嫁ぐと言ったら反対するぞ!」
「私は王子です!誰よりも王子にして王子だと言っても過言ではないのですよ!」
「ガハハハ!そう言うところだぞ!それから、お主の葉っぱは見慣れたが、辺境では流行らんぞ!」
「例え、葉っぱ一枚であろうと完全無欠な王子!それがエリック・フェアリンなのです!」
お花さんが二枚の葉をパンと叩いたら、辺境伯様とエリック様が静かになったの。さすが、お花さんね。
「このお嬢ちゃんは、ちょいと訳ありなんだ」
お花さんが辺境伯様に説明してくれたの。でも、辺境伯様は王様のお兄様だから、追放された女の子は出て行けって言われたらどうしよう。
「ガハハハ!そんなことか、お花殿の連れてきた娘なら構わんよ」
「伯父上!この娘は私を!」
「この娘の罰は王都と王家直轄地、伯爵領からの追放!ここにおるという事は、罰を受けているという事だ」
「でも出来たら、お家に帰らせて欲しいです!」
「ガハハハ!正直な娘だな!」
辺境伯様の笑いはしばらく止まらなかったわ。笑上戸な方なのね。そう言えば、お髭でモジャモジャのお顔だけど、目鼻はエリック様に似ているわ。
「辺境は、お主を受け入れる。ただし!」
でも、辺境伯様は言うの。
「“働かざる者食うべからず”この地では、これを守るように!」
「はい!質問です!どう言う意味ですか?」
「うむ!飯にありつきたくば、しっかり働け!という
意味だ」
「はい!リリィ、がんばります!」
「ガハハハ!良い返事だ!」
こうして、リリィは辺境の領都にある神殿に身を寄せることになったのよ。この神殿では孤児や、理由があって家族と暮らせない子供達、身寄りのなくて困ってる女性達を受け入れているんですって。
「リリィです。よろくね!」
神殿には優しい神官さんと子供達がいっぱい。大人の女の人はお婆さんが一人。仲良くなれるといいな。
「ジェニファー」
「はい」
神官さんが一人の女の子を呼んだわ。返事をした子はリリィと同じ金髪で、ちょっとツンとした猫みたいな子。
「二人は歳も近いし、貴女が、リリィがここに慣れるまで、色々な事を教えてあげて下さい」
ジェニファーはリリィの1つ下なんですって。妹ができたみたいで嬉しい!リリィはお姉さんね!
翌日。
「リリィ、起きて!朝よ!」
お日様が登る前に、起こされてしまったの。
やだ、ジェニファーったら、「朝」って、お日様が登って、ママが朝ごはんのパンケーキを焼いてくれて、ベリーのジャムとクリームを添えた、それをゆーっくり食べて、ローズティーを飲みながらパパとママとお喋りして、姿見の前で、お気に入りのワンピースと、その日、選んだリボンが合っているか、ちゃーんと確認が出来たら「朝」になるのに、知らないのね。
「パンケーキが焼けたら起きるわ……」
「ダメに決まってるでしょ!」
「キャア!」
いきなり毛布をめくられたから、ビックリしてベッドから落ちちゃった。
もうっ、ジェニファーったら、いけない子!
【ちょい解説】
王子権限を停止されたエリックは辺境でガネにゴネました。しかし「ガハハハ!では、勝負だ!」辺境の領技「スムォウ」で辺境伯に勝てたら権限復活の上、王都帰還を認められと言われ、挑んだものの何度やっても勝てませんでした。しかし、スムォウを取る際の衣装は非常に気に入ってるとの事です。