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04 当て馬はいい人って言った奴、誰だ?出てこい!の巻

ジミーの一人称。

【クズ注意】彼はリリィと仲良しこよしの幼馴染でした。お察して、心の準備をしてからお読みください。


【先に謝罪】全国のジミー様、ごめんなさい。

「俺のジョニーが……」


馬小屋の前で立ち尽くす、俺はジミー。

馬が盗まれた。

これから街の巡回に行かなきゃいけないのに。


馬泥棒については淡々と処理され、馬番の男に「こいつなら、乗ってもいいぞ」と言われたロバで巡回に向かう。


きっとリリィだ。

いや、間違いなくリリィだ。


俺には分かるけど、追放処分のリリィと会っていたことがバレたらマズいことになるかもしれないので、黙っている事にした。ただでさえ、リリィの幼馴染ということで立場が悪くなってるというのに。


「はぁ、俺は出世頭なのに」


幼馴染のリリィはとにかく可愛かった。街で1番だ。おまけに親父は伯爵領の騎士団長。リリィと結婚して、美人の嫁に次期騎士団の座も手に入れるつもりだった。だが、その将来はリリィが王宮での舞踏会へ行ったことによって大きく変わる。


リリィはよりによって王女様を押し除けて、自分が精霊姫を踊ったって言うじゃないか。確かに伯爵領では、成人する前から、いつもアイツが精霊姫を踊ってたけど。馬鹿なのか?そうだ、リリィはバカな女だ、そこも良かったんだ。偉そうに口答えをする生意気な女なんか最悪だ。でも、そのバカさ加減は予想を超えてた。


平民同士が踊る精霊の舞じゃないんだぞ、お貴族様、しかも王女様が精霊姫を踊っているのに。しかも王女様の舞は本物の精霊姫の如く見事で、舞っている最中に体が輝き出し、精霊王様の祝福を受けたらしい。この事は、あっという間に国中に広まった。


しかし、その際、王女様の美しい舞に惹かれて災いの精が娘に姿を変えて舞に混ざり、精霊姫の役を奪ったという。だが、王女様は機転を効かせて、周囲で踊る小妖精役の娘達に混ざり、見事、精霊の舞を成功させたというじゃないか。


その逸話も精霊王様の祝福の件と一緒に広まっているが、実際は小妖精役のリリィが不敬を犯して王女様から精霊姫役を奪った。普通なら、その場で無礼打ちになってもおかしくない。だけど、王女エレクトラ様はとてもお優しい方らしく、リリィの不敬を許してくれた。王女様の取りなしで処刑を免れたと、伯爵家の騎士団に所属している父親から聞かされた。


なのに……


「王子様と一緒にお願いして、王様に追放を取り消してもらうの」


夜明け前に会ったリリィの言葉を思い出す。


「馬鹿過ぎる」


関わったらえらい事になるぞ。もうアイツの事は忘れよう。ロバでの巡回を終えて、城へと戻ると伯爵家に仕えるメイドのメリーの姿があった。リリィほどじゃないけど、こいつも美人だ。女のことは別の女で忘れよう。


「よお、メリー。今、巡回が終わったところなんだ、どっか行こうぜ」

「私、仕事中だから。それに、あなたも仕事は終わってないでしょう」

「いいから、こいよ」

「はなして!あんたの幼馴染と一緒にしないでよ!」

「何だと!この!」

「誰かーーっ!」


腕を掴んで、引きずって行こうとしたら、とんでもない大声で叫ばれた。


「何をしている!」


メリーの声を聞いて、幾人かの騎士が現れた。中隊長の息子の俺を怒鳴り付けるなんて誰だ?


「今直ぐ、その手をはなせ」

「うるせえな!」

「君はジミー・ブラウンだな」


しまった。新しい騎士団長だ。


リリィの親父さんが追放となり、次の騎士団は伯爵が外部から連れて来た男で、俺の親父よりも若い。おまけにお貴族様だ。


仕方なく、腕をはなすと、メリーは俺から離れた所へ移動した。そしてゴミでも見るよう目で俺を睨み付ける。


「これは一体なんの騒ぎだ?」

「仕事中にも関わらず、強制的に連れ出されそうになりました」

「オイ!勝手なことを言うな!」


メリーが俺に断りもなく話し始めた、おまけに周りに居たメリーのメイド仲間まで図々しく口を開く。


「メリーの言ってる事は本当です!」

「私達、見てました!」

「断っているのに、無理矢理腕を引っ張って行こうとしたんです!」


騎士団長は俺を見据える。スカした嫌な男だけど、他の奴らからの評判は良い。規律に厳しく、間違った事は許さないと。


「ジミー・ブラウン。彼女達はそう言っているが、本当かね?」

「外出に付き合わせてやろうと思っただけです」

「君は任務の途中ではないのか?」

「ちゃんと、代わりはいます。ドビーです」

「ドビー・フォンの任務は終了している。夜勤から日中にかけての連続任務は、平時は禁止しているだろう」

「なら別の奴にやらせます」

「特殊な事情がない限り直前の変更は認められいない。また任務配置は上官の許可なく変更は出来ないはずだ」


クソ、面倒くせぇな。


「俺はブラウン中隊長の息子です」

「ブラウン卿の子息だと?似てないな。女性への暴行、無断での任務放棄。厳重注意では済まされないぞ。君の父上の耳にも入ることだろう」


何なんだよ、俺は中隊長の息子だぞ、騎士団長だからって偉そうにするなよ。俺の親父より年下のくせに。


そして、俺は自宅謹慎処分となり、大人にもなって親父に叱られる羽目になった。


散々怒鳴った後、親父は諭すように話し始める。


「あのな、ジミー。()()()があんな事になって、荒れる気持ちは分からんでもない。だが、()騎士を賜ってる者が女性を粗野に扱い、任務放棄など以ての外だ。いずれ、お前も騎士となるのだから、誇りを忘れるな」

「そんな事より、親父。このままにしておいて良いのかよ?」

「何がだ?」

「あの、騎士団長だよ。外からやって来た青二歳に好き勝手にさせて良いのかよ!」

「団長殿は筋の通った御立派な方だ。お若いのによくやっていらっしゃる。信頼できる方だぞ。何が不満だ」


そうだった、親父はクソ真面目で頭が堅いんだった。


どうして俺がこんな目に会うんだ。リリィのことがあってから街の奴らは俺を同類かのように白い目でみてくるし、つるんでた騎士仲間には距離を置かれるし。最悪だ。


「……なぁ、ジミー。お前、所帯を持て」

「突然、なんだよ、親父」

「男は守るものがあった方が強くなれるもんだ。良い加減、前を向けて生きろ」

「ああ。分かったよ」

「よし、知り合いの娘さんを当たってやる」

「メリーがいい、無理ならアマンダ、それかケイトかユーリ」

「美人ばっかりだな。それにメリーは……いや、お前もちゃんと頭を下げて謝れよ」

「分かってるって!」


見合いか。考えた事もなかったけど、さっさと身を固めた方が出世も早いだろう。リリィほどじゃなくても自慢できる美人の嫁さんとサッサと結婚するのも悪くないかと思いはじめた。


だが、それから、親父から見合いの話はされていない。もしかしたら、見合い希望の女が殺到しちまってるのかもしれないな。親父は義理を通す質だから、断るにも時間がかかっているのだろう。


そんなある日、騎士団長室へ行くよう上官に言われた。とうとう正騎士へとなる話かもしれない。


部屋に行くと、騎士団長や幹部の他に、親父と、以前はよくつるんでいた準騎士仲間がいた。コイツらも正騎士に任命されるのかと思うと少し複雑だが、仕方ない。


「不名誉除隊!?」

「いや、除隊勧告だ」

「同じじゃないですか!何で、俺が!」


騎士団長から言われた言葉は予想外のものだった。


「職務怠慢、職権濫用、規律違反、騎士の名誉を損なう言動。理由を挙げればキリがないな」

「不当処分だ!親父、何で黙ってるんだよ!何とか言えよ!」


親父はかつて見たこともない顔で俺を見つめて言った。怒っているようにも悲しんでいるようにも見えた。


「私がお前達の素行を調査し、団長に報告したんだ」

「……何でそんなこと」

「お前の見合いの話を知人に持って行ったが、軒並み断られた。中にはお前と夫婦になるくらいなら、神殿に身を寄せるというお嬢さんもいた」

「生意気な女共だな、それが何なんだよ」

「無理をお願いして理由を聞き出したら、どうだ?お前達、リリィ、いや前騎士団長の娘と一緒になって仕事中、遊び歩いてたらしいな」


今更なんだ、そんな事。リリィは伯爵家でメイドをしていたが、お嬢さん育ちのためか、体力が保たなかったり、冬場の水仕事が辛いと泣いていた。だから、俺の()()で休ませて、気晴らしに遊びに連れて行ってやっていたんだ。


「騎士団の業務は他の奴にやらせてたし、メイドなんて1人ぐらい抜けても問題ないだろ!」

「馬鹿か!お前は勤務配置を変更できる立場ではない!それに伯爵家のメイドを無許可で連れ出すなど許される事でない。まだあるぞ、苦情を言ったメイドの女性達を脅したらしいな」

「立場を分からせてやっただけだ!」


俺は中隊長の息子だし、リリィにいたっては騎士団長の娘だ。他の連中とは違う。


「何が立場だ、勘違いするな!お前はただの準騎士に過ぎない!それに街の飲食店で無銭飲食を重ねていることも分かってるぞ」

「ちょっと待ってくれよ。リリィはガキの頃から街の連中からタダ飯食わせてもらってたし、俺はそれに少しばかり、あやかっただけじゃないか」

「酒場の飲み代や娼館の支払いもリリィにあやかったのか?」

「それは……」

「リリィはまだ成人前だった。それでも働いていたんだ、子供じゃない。皆の好意に甘え続けてはならない。兄貴分のお前が言い聞かせるべきだっただろう。それを一緒になって、たかり続けるとは……それにな、騎士団にお前達の振る舞いを申し立てをしようとした執事と家政婦長の息子に暴行を加えた事も確認が取れている」

「俺はただ……その時は、リリィを守ろうとしただけだ!」


そう言った瞬間、目の前が弾けたような錯覚を覚えた。硬い床に倒れ込むと、口の中血の味が広がった。親父に殴り付けられたんだと分かる。


「何が守るだ、ふざけるな!やるべき仕事を放り出し、他人に押し付け、反論されれば徒党を組んで脅す。守るべき民を威圧して代金を踏み倒す。お前らのやってきた事は破落戸と同じだ!」


見上げた父親は震えていた。


「なぁ、父さんや前騎士団長が街で代金を支払わなかった事があるか?任務を放置して遊んでいた事があるか?ああ、こんな、ろくでなしになっちまって……いや、俺が悪い。俺は何故気が付いてやれなかったんだ。俺は、俺はもう死んだ母さんに顔向けできない」


その後。俺と元仲間達は除隊となり、ただの兵士として辺境に送られた。


親父も除隊を申し出たそうだが、現騎士団長の判断で降格処分に留まった聞いた。父親自ら息子の所業を晒し、厳罰を申し出た事と、それまでの親父の功績が考慮された結果だ。


「ブラウン卿。この件に関しては、伯爵様も連座の適用せずとも良いとのことだ。伯爵領に尽くす事で償って欲しい」


騎士団長はそう言っていたそうだ。


また、俺達の7年間の兵役で稼いだ金は被害者への慰謝料となり、勤め上げれば伯爵領への帰還が認められるという。3年が過ぎた今、他の連中は逃げ出してしまった。逃走した奴らは2度と故郷に戻る事は出来ない。


俺はと言えば、最後に聞いた親父の言葉が耳から離れず。ここにいる。


ここは辺境でも奥地にある砦だ。春から秋にかけてはマシだが、冬になると恐ろしく寒くなる。


「おーい、ジミー。食料の納品だ。運ぶのを手伝ってくれ」

「はい」


食糧庫のそばで待機してると、農夫の女が荷馬車から降りて来た。


「お野菜、届けに来ましたー!」


薄汚れた野良着を着ているが、声を聞く限り年寄りではないらしい。その女がこちらを向いた。


「あら、ジミーじゃないの」

「ギャーッ!」

さて、ジミーが辺境で出会った農夫の女性はだーれだ?


【ちょい解説】

ジミーは自分を騎士と言ってますが、実際は準騎士です。自分を大きく見せたいタイプなのです。ジミーらしくない男です。


暴行を受けた執事さんと家政婦長さんの息子さんは、幸い大事にはなっておりませんので、ご安心下さい。ただし、彼らをはじめとした城内の使用人達からの騎士団への不信感が膨らむ自体になりました。


そして、リリィのパパが舞踏会で失脚したタイミングで、リリィやジミーに煮湯を飲まされていた城内の臣下や使用人達は、次の騎士団長は外部から探すべきと伯爵に進言しました。


ただ、ジミーの父の中隊長さんは脳筋ですが、義理堅い性格なので、彼を慕う騎士は多く。新参者の新団長さんは彼を完璧に切ってしまうと自分への批判が大きくなる可能も加味して、中隊長さんを騎士団に残したという裏事情があります。


【リリィとジミーの子供時代の解説】

ジミーのお母さんはジミーが小さい頃に亡くなってしまいました。ジミーのお父さんは再婚はせず、男で一つで育てました。そんな事情もあり、日中はリリィの家にお世話になる事が多かったのです。リリィは騎士団長の娘ということで、騎士団長様には、お世話になってるからと、街の商店から果物やお菓子を貰うことがありました。一緒にいるジミーも中隊長様にはお世話になってるからと貰うことが多く、リリィと自分は特別だと思うように。


ただ、リリィのお母さんは娘が何か貰うと、お礼に、くれた人のお店で品物を大量購入し、家で消費しきれないないものはご近所にお裾分けしてました。また、リリィがご近所さんからスカーフやリボンなどの小物を貰った場合は、新しいもの、しかも少し質の良い物を買ってお返しておりました。当然、中隊長さんも同じように大量購入したり、レストランであればジミーと一緒に食事しに行き、その場に居合わせた街の人達に奢ったりしてました。そうです、総合的にみると街の人たちの方が得しているのです。街の人達は、ぶっちゃけ子供に少しお菓子をあげるだけで、儲けられたり、持っていた小物より良いものを手に入れられてラッキーと思ってたのです。


街の人の誤算は、ジミーは準騎士にリリィはメイドとして働くようになっても彼らは相変わらずだった事です。しかしリリィのパパやママ、中隊長は自分の子供が働き始めても、ものを貰ってるなどとは思ってはおらず、お返しはなくなってゆきます。街の人達も表向き「騎士団長様や中隊長様にお世話になってるから」という理由での行動だったので、角を立てずに、今更どう言えば……といった感じなので、作者としては街の人達もキチンと線引きはするべきだったと思ってますし、ジミーもリリィも親が街の人達にお返しをしていた事を見ていたはずなのに、都合よく解釈していた事は良くないと思います。


ちなみに、街の人たちは自分達が、少し欲を出していた自覚があるので、ジミー達の振る舞いの謝罪行脚をする中隊長さんに強く言えないでおりましたとさ。


ただし、伯爵家の使用人達は、領地の中でも上級クラスの立場なので、これらの事情に関わりはなく、ただ、ひたすらジミーとリリィに迷惑をかけられていたので、彼らに対して厳しい目で見ていました。


少女漫画のヒロインの故郷がこんなモヤ付く街なのは、創造主メロディ先生の趣味趣向が反映されています。そりゃあ、打ち切りになるよね!

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転生版で名前を言ってはいけないあの妖精が祝福した人物は誰なのか気になり、コミックを読んでみたくなった平成の古株世代です 原作の出版元はマーガ◯ットな気がします
メロディ先生、絵だけは美麗だったのかな
親世代がマトモなのが救い。 リリィとジミーはいいとこ取りのとこしか見てなかったんだなぁ、親はちゃんとお返ししてたのに。 自分達は特別待遇当たり前!と思い込んではや10数年? 子供の頃からの刷り込み…
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