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みんなでみんなでみんなでみんなでGO! GO! GO! GO!

「あらよっと!」


金貨の威勢の良い一声と共に、2年A組のドア前にいたゾンビA、B、Cの首がポンポンポンと切り落とされる。

金貨は赤白黄色の菊の花びらを浴びながら、教室後方のドアを勢いよく開けた。


「銀貨ッ! ……おい、どうなってんだコリャ」

「まあ金貨ちゃん、どうって見ての通りよ」


見ての通りと言われても小説に絵はないので金貨が見たままの情景を伝えると、まず手前の廊下側にゾンビたちが群れており、その奥の窓側に追い詰められるように生き残りの生徒たちが箒や椅子、あと剣道部員であろう生徒が竹刀を使って「うおお」と気合で持ちこたえている。

そして、教室の後方にあたる左側には掃除のために積み重ねられた机や椅子があるのだが、その上に銀貨が自由の女神のごとく立っていた。


なんでこうなったかというと、銀貨が「さあみんなお掃除よ」と先ほど言ったからだ。

“ゾンビが現れる→死体は清潔と言い難いよね?→じゃあうんと綺麗にしなきゃ!”

という思考が魅了された生徒たちの脳裏に浮かび、「銀貨様を守れー!」と誰ともなく言い出して今に至る。


金貨が現れた今こそ好機と、銀貨が声を張り上げる。


「みんな! 金貨ちゃんがいれば百人力よ! 今こそ反撃ののろしをあげなさい!」


「「「「ウオオオオオオー!!」」」」


というわけで、金貨は「しゃあねえやるか」とつぶやくと、己に向かってきたゾンビどもの首をはねて道を作る。

そして教室中央に向かい、生徒たちが「えいっ」と果敢にゾンビをひるませてよろめいたところを、すかさず金貨が背後から横一文字に首をはねる。

こうして見事な連携であっという間に教室内のゾンビをせん滅した。


「助かったわ、金貨ちゃん。みんなも本当にありがとう」


銀貨が優雅に机から降り立つと、生徒たちは生き残った喜びもあってワアッと歓声を上げた。

しかし、喜んでいる暇はない。校内は着々と生徒たちのゾンビ化が進んでいるに違いないからだ。

金貨が刀を縦に振るう、いわゆる“血振(ちぶ)り”をしながら付着した花びらを落とす。


「くそっ、人が多いと刀を振りづれえな、せめえ」


すると、すかさず生徒たちが話し出す。


「体育館はどうだ!?」

「あそこなら広いし出入り口がいくつもあるよね!」

「逃走経路を確保しやすいぜ! ドアも頑丈だ!」


――そういうわけで、体育館を目指すことになった。




金貨を先頭にして、生き残ったAクラス半数足らずの生徒たちが銀貨を中心に囲んで続く。


廊下に出てすぐ、生徒会長・玉川が「金貨さん!」と声をはりあげた。

彼女は隣のBクラス教卓側のドアを男子生徒と共に一生懸命に押さえつけて、クラスの中にいるゾンビが出てこないように踏ん張っている。

Aクラス生徒たちが急いで箒をつっかえ棒代わりにして、さらに自クラスにあったガムテープでもう出てくんなよと念を込めてべったべたに封をした。

Bクラス後方のドアも同じく封をする。


廊下の奥では生き残りたちが各教室のドアを同じようにふさいでいるため、手の空いた生徒たちはほかの教室も封をしようとした。


が、奥のDクラス横にある階段からぞろぞろとゾンビがやってくるのが見える。

Dクラスのドアを抑えていた生徒たちが「わあっ!」と声をあげてこちらに駆けてきて、Cクラスのドアを封じるために奮闘していた生徒たちもそれに気づいてこちらへ駆けてくる。


銀貨がすかさず「体育館はどの道順なの?」と取り巻きゲフンゲフン、生徒に尋ねる。

左隣にいた男子生徒が「はっ、Aクラスを出て左手側の階段からおりると近道です」と時代劇めいた口調で言い、金貨が先頭切って「行くぞ!」と走り出した。

すでにこちらの階段からもゾンビがやってきているが、ゾンビゆえに動きは遅い。

金貨が慌てず騒がずゾンビたちの首をはねながら支持を出す。


「おい剣道部! お前しんがり務めて時間稼げ!」

「任せろッ!」


死が間近に迫りアドレナリンがドッパッドッパと出てるのだろう。やけにハツラツとした様子で後方に駆ける。

すると他クラスの生き残りであるバスケ部の男女2人組が、


「お前1人に無茶させるかよ!」

「援護は任せて!」


と、こちらもドッパドパの様子で恥ずかしい台詞を真顔ではいた。


何をするかと思えばバスケ部男子が1つのバスケットボールを手にしており、大きく振りかぶって一番近くにいるゾンビ顔面にシュート!

バスケじゃなくてドッヂボールじゃねえか!

そうしてよろけたゾンビをすかさず剣道部員が突き崩す。

リバウンドしたボールはバスケ部女子が受け止めて、次に迫るゾンビ顔面にぶつける!

さらに剣道部員がよろめくゾンビを突く!


こうしてしんがりが時間稼ぎをしながらじりじり後退する間、銀貨の指示で残りの生徒たちは3階から降りてくるゾンビを防ぐために、Aクラスの机と椅子で大急ぎでバリケードをはった。

そして、先頭の金貨が巧みな剣術で確実に下への退路を切り開き、花の絨毯を踏みしめて全員が1階に降りる。


金貨のすぐ後ろにいた玉川が提案する。


「近道よ! 中庭を突っ切りましょう!」


金貨が手近なゾンビを斬り捨てる間に、玉川が先頭切って階段横の非常口を開けて外へ出た。

最後に金貨もドアをくぐり外に出ると、教職員含めた生き残りの生徒たちがキャーとかワーとか言いながら走り回っているのが目に入り、あーだから1階に生存者の気配がなく、かつ非常口の鍵がかかっていなかったのか、ハイハイ。と納得する。


玉川は気丈にも「体育館へ逃げて! 体育館へー!」と声を張り上げており、パニックに陥っていた生存者たちは染み付いた習性もあって、


「そうだ体育館だ!」

「避難訓練と一緒だ!」


そう半狂乱に喚きながら、一目散に目的地へ駆けるのだった。


「金貨! 俺たちがしんがりを務めるから先頭を頼む!」


剣道部員とバスケ部員2人、ほかにも野球バッドや箒を持った学生たちに、黒板で使うクソデカ三角定規を持った数学教師が集まる。


金貨は闘争が大好きだから、よしきた任せろと勢いよく突っ走り、刀を縦に横に振り回して一切の迷いなく残酷に、優雅に、無駄なくゾンビの首をスパスパ落としていく。

一足先に体育館を目指して駆ける生存者たちの背中を追いながら走っていると、すぐに大きな建物が見えた。


「体育館だ!」


金貨の後ろを走る生徒たちが、砂漠でオアシスを見つけたかのように歓喜の声をあげる。


「やったー!」

「あと少しだ!」

「銀貨様大丈夫ですか?」

「ええありがとう」

「ギャーッ」

「みんな頑張れ!」

「ウヒーッ」

「おい誰だ奇声あげてる奴は!」


全員が奇声のした方角を振り向くと、3階の窓から避難梯子で逃げようとしている生徒たちがいた。

これが運の悪いことに、中庭のゾンビたちが気づいて梯子を揺らしているのだ。

クソったれ! 神社の賽銭箱んところの鈴ついた(つな)じゃねえんだぞ。


「あそこは視聴覚室……大変! 逃げ遅れた生徒だわ!」


玉川が生存者の列を抜けて駆けだすと、落ちていた箒を拾って振り回し、梯子に群れるゾンビたちを追い払おうとする。


しかし、エイエイと頑張っているのはわかるが、何せ運動音痴でクソほどトロいのだ。ポカポカと叩いて1体のゾンビの気を引くことはできたが、まだ4体のゾンビが梯子に夢中である。


しかも、唯一気を惹くことのできたゾンビが己に襲い掛かろうとしてくるではないか。

玉川が一生懸命に箒を振り回すが、まるで効いている様子はない。


「ぅうわーーーーああァ!」と玉川がテンパッて、

「カイチョー!」と3階の生徒たちが叫ぶ。


ゾンビの腕が伸びてきて、玉川に触れる! ――寸前で、駆け付けた金貨が玉川のうしろ襟をグイッと引っ張ると己に抱き寄せる。

そして、右足で襲い掛かろうとするゾンビの胴体をこれでもかと遠くに蹴り飛ばした。


「カイチョ―!!」


と3階の生徒たちが、今度は喜びに満ちた声で叫んだ。


「き、金貨さん……!」

「トロいくせに何やってんだ」


金貨は駆け寄る生存者たちに素早く玉川を引き渡すと、5体のゾンビを容赦なく斬り捨てるのだった。


安全を確保すると、生徒たちが「早くこい!」と梯子が揺れないようにがっしり抑えてやり、3階の生徒たちが「うおお圧倒的感謝!」とややオタクみのある礼を言って、えっちらおっちらと降りてくる。


実際に降りてくる生徒たちはオタクで、映像研究部とTRPG愛好会、そして文芸部のメンツだった。おとなしそうな雰囲気がある。

対して梯子を抑えているのは体力に自信のある運動部の者たちで、性別問わず健康的でがっしりしている。


水と油のごとく普段なら絶対に分かり合えず、文化部は「はっ、陽キャ脳筋が……」とボソボソ陰口を叩いてるし、運動部も「陰キャオタクw」と笑っていた。


(そして文化部だけど運動が好きな者や、運動部だけどオタク趣味のある者は、空気を読んで適当に合わせていた)


だが、ゾンビ発生という絶体絶命の大ピンチにアドレナリンがドパドパドパドパあふれまくっているのだろう。

文化部が地面に降りると「うおー! お前ら無事だったか!」「さすが運動部! 筋肉サイコーっすわ!」と両者がガシッと抱き合い再会を喜ぶのだった。


例のクソデカ三角定規を持った数学教師は、絶望のさなかで生徒たちの成長を目にして涙を浮かべているし、ほかの生徒たちも雰囲気にのまれて感動にひたっている。


「あほくせぇな」と金貨が呟いて、

「あら、美しい光景じゃない」と、隣にやってきた銀貨が言った。

「お前こういうのがシュミなのか?」

「好きよ。美しいモノは好きだわ。人間はどうしようもなく愚かで単純で感情的だけど、だからこそ矛盾や過ちの中にキラリと輝く瞬間がある。――私、それが好きだわ」


暗い宇宙に瞬く一等星のようだわ。そう銀貨が言って、フンと金貨が鼻を鳴らす。


そのように、三者三葉のリアクションを取る中で、玉川だけが何やら深刻な顔をしていた。


こうして仲間が増えて部活動の垣根を超えていい感じに集団がまとまったところで、銀貨がパンパンと手を叩く。


「さあみんな、早く避難しましょう」


と鈴の音のように美しい声を投げかけてやると、


「「「「ハイ銀貨様!」」」」


と活きのいい返事があって、みんなで体育館を目指すのだった。



つづく

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