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異形の檻  作者: koenig
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有用性:1

警備隊の仕事の基本は都市内の見回りである。

異変がないかどうか小さな異変も見逃すわけにはいかない。

その小さな積み重ねが取返しのつかない大きな事件に発展するのである。

そしてその異変が今、城塞都市内で起きていた。

その異変の中心とは……警備隊隊長エレノア・ヴァルセルク。

…の隣にいる人面の怪物である。

彼女、ルカ・オルテガを警備隊付きの怪物とするため掛け合ったエレノアだが、色よい返事は受けられなかった。

怪物を使役していることは珍しくない。

操者の水晶(そうしゃのすいしょう)に代表される道具があるように、そういった用途での怪物の捕獲などもあるほどだ。

稼いでいる商隊の中にはゴブリンを護衛に使っているやつらもいるらしい。

要は警備隊において、人面の怪物は有用かどうかなのだ。

その有用性を示すため、ルカ・オルテガは見回りへの同行を志願した。

その結果、市民に危害が及ばぬよう安全性を視野に入れ、あのマズルガードをつける羽目になり、かってにエレノアのそばを離れぬよう、リードでつながれることにより…

恐れていたみっともない姿の披露(羞恥プレイ)が決行されたのである。

挿絵(By みてみん)

「あー…おわった……私の()()、ここで終わったんだ……。」


警備のため、都市内を隅々まで練り歩く。

そのためこの姿を都市の隅々の人々にみられることになる。

いつもだったら鬱陶しいくらい視界を遮る蒸気も今日はなんだか薄く感じる。


「私はこれから変態女として、城塞都市の名物になっていくんだわー……」


「ああ!もううるさいな!リードを持っているこっちだって恥ずかしいんだ!我慢しろ!」


エレノアは怒鳴る。

それもそうだ。

ルカにとってこれが羞恥プレイなら、リードを持っているエレノアにもその目は向くだろう。


「そもそもお前はその見た目のせいで人に見られているかも怪しい!私からすれば人面犬がリードで繋がれてたとて、人面のインパクトのほうがでかくてリードなんか気にならんわ!!」


そう、人だったころのルカはともかく、今のルカは怪物。

その奇妙ないで立ちに警備隊でも吐く者がいたほどだ。周りの人間からのあの眼差しとしかめ面も生理的嫌悪感からくるものだろう。


「そんな!失敬な!昨夜身体を拭いた際確認しましたけど、まだ胴体も私のものでしたよ!」


抗議のために振り向くが、それだけの方向移動でバランスを崩し、倒れる。


「あうっ」


「お前、やっぱり四つ足で歩いたほうが楽なんじゃないのか…?」


その通りだ。

今のルカはこの四つ足状態が一番楽で、安定性も高い。


「いやですよ!私獣じゃないんですから!」


「しかしなぁ……このペースで見回ってたら日が暮れてしまうぞ?」


そう、ルカのペースで歩いていたせいでまだ半分も見回りできていない。


「じゃ…じゃあ夜の分も一緒に警備して…」


「夜間勤務の連中の仕事まで奪うな」

挿絵(By みてみん)

もともとこの巡回だって警備隊隊長であるエレノアの仕事ではない。

ルカの貢献度を少しでも上げるため、苦肉の策でこうしているのだ。


「じゃ…じゃあ私は……」


ルカが恐る恐る尋ねる。


「今のところ足しか引っ張ってないな。」


エレノアの言葉にショックを受けるルカ。

役に立たない=処分なのだから当然だろう。


「だから死にたくなかったらとっとと歩くんだ。」


とっとと歩く…つまりは四足で歩けということ。


「うぅ……」


ルカはとぼとぼとそのままの状態で歩き始めた。



都市内を半周したあたりでルカがいう。


「なんか臭いですね……」


そういいだしたのはちょうど都市の真ん中を流れる河の近くだった。

この河は生活用水も流れたりする……。

しかし臭いかといわれるとそれほどではない。


「気のせいじゃないのか?何も感じないぞ。」


「え…本当ですか?もしかして私、鼻も過敏になってしまっている?」


それはあるかもしれないとエレノアは思った。

あのイカれた男(バイオ廃棄物)の目的が知能のある怪物を生物兵器として活用するためならば、つなぎ合わせた元の生物の有用な部分を搭載させるはずだ。


「ちなみにどんな臭いなんだ?」


「えぇっと……なんか、錆びた鉄みたいな臭いがして…」


錆びた鉄の様な臭い…。

悪い予感がした。

もしその臭いが仮に事件性のあるものだとしたら、一番最初に思い当たるのは……


(血か……?)


そんなことはないと思いたいが、どんな些細なことも確認しなくてはならない。


「ルカ、臭いの発生源はわかるか?」


「え?自信ないですけど、大体なら多分……?」


エレノアはこくりとうなずくとマンホールを開け、ルカに入るよう促す。

こうして二人は暗闇の中へと消え行った。

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