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異形の檻  作者: koenig
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新生活

ルカ・オルテガは肌寒さにて目を覚ます。

なぜだかデジャヴを感じる目覚めだが、きっと気のせいだろう。

先ほどまで悪夢をみていたせいだ。


「私が怪物になっちゃうなんて…ありえないよね。」


笑いながら寝返りを打とうとして首に衝撃を受ける。


「ぐぇっ」


蛙が轢かれたかのような声をだしてしまった。

どうやら首を拘束されているらしい……。

腕も何やら布のようなものでぐるぐる巻きにされている。

あの悪夢は悪夢ではなかったらしい。

落胆して体を確認するためにあげていた頭を床に落とすと、コツンと小気味のいい音を響かせながら衝撃が走った。


「いて」

挿絵(By みてみん)

エレノアは深くため息をついた。


「ようやくひと段落か…」


目の前に並べられた死体の前でぽつりとつぶやく。

【神隠し事件】での犠牲者たちだ……その数は43人にも及ぶ。

いや正確には44人か……


「ボンド、この場は任せてしまっても構わないだろうか?」


「いいけれども、どこに行く気だい?」


「この事件唯一の生存者のところだ……」


そう、あの少女、ルカ・オルテガ。

区庁舎で本来ならバリバリ働いたであろうあの少女のところへだ。

彼女についていろいろ決定しなければならないことが山ほどある。

そのなかでも処遇に関してが一番難しい。

なにせ怪物化しているのだ……教会はもちろんのこと処分するべきだと意見してきた。

国家や都市上層部も同意見だ。

私も危険性で見るならばあのねぐらで押収した書類たちと一緒に燃やしてしまったほうがいいといえる。

実際、あそこにあった書物はこの手ですべて燃やした。

無論、もとに戻す方法がないか検証した後でだ。


(しかし、本当に処分すべきなのか…?)


彼女は()()()()()()だ。

しかもこの事件唯一の生存者……

本来ならば保護して、社会復帰を手助けするのが筋だろう……。


(しかし、あの体ではそれも難しいだろう。どこの誰が怪物を雇ってくれるというのか…)


そうなってしまうと結局野生化するか、のたれ死ぬかの二択になってしまう…。


(まずは落ち着いて話をしないとな…)


考え事をしながら歩いていたら、もう収容区についてしまった。

彼女は一時的にこの中に収容されている。

警備隊の中ではあの場ですぐに殺すべきだという意見もあったが、いわゆる隊長権限ではねのけた。


(話ができる状態であればいいのだが……せめて目を覚ましてくれていないと困るぞ……この処置は長く持たん。)


エレノアをこうまでさせたのはやはり罪悪感からだろう。

本来ならすくえた未来を、最悪の形で踏みにじってしまったという罪悪感……。

そんな面持ちで牢へと目を向けるとそこには


噛んで腕についた拘束布を引きはがそうと画策するルカ・オルテガの姿があった。

挿絵(By みてみん)

「………何をしている?」


ルカはどうしようもないくらい焦っていた。

ここにいても自分は殺される。その不安から脱獄を決意し、この腕の布をはがそうと試みた矢先であった。


「人間のあごに合わせたマズルガードでも容易しておくべきだったか……?」


まずい!そんなものをつけられた日には脱獄も何もない!

人として終わる!完全に折れる!!ポッキリと!!!!


「ま……まままm待ってください!違います!その、腕がかゆくて!掻いたらすぐ戻す気だったんです!本当ですぅ!」


必死に懇願する。

あの階段で会ったとき怖い人だと感じていたが、話を聞いてもらうしかない。

マズルガードをつけられるなんてそんなみっともない姿はさらしたくない。


「本当か?」


エレノアにジロっと睨まれるが、ルカは必死に首を縦に振るほかない。

これ以上人としての尊厳を踏みにじられてたまるか。


「まぁいい…今は君の進退についての話をしよう。」


急な話題の変更に内心ドキッとする。

一番知りたかったことでもあり、一番知りたくなかったことだ。


「あのぉ……私はいつまでここにいるんでしょうか……?そろそろ家に帰りたいのですが……」


恐る恐る聞いてみる。


「はっきり言うが、君が帰ることなど不可能だぞ。」


明確に言われる。

帰れない……つまり


「やっぱり……殺されるんだ……」


また涙が出てくる。

この数日でずいぶん涙もろくなったと思う。


「うえの連中はそう言ってるな。」


また明確に言われた。

もう決定事項のようだ。


「お……お願いします!助けてください!なんでもします!」


目の前のエレノアに必死に懇願する。

死ぬのは怖い。


「生きてどうする?正直、この先は生き地獄だぞ?死んだ方がマシに思うが?」


その通りだ。

この先まともに生きていける自信などない。

それでも


「死ぬのは……死ぬのは怖いよぉ……」


ひどく”死”というのが怖い。

もしかしたら動物とつなぎ合わされたせいで本能が強くなっているのかもしれない。


「はぁ……わかった、何とかする。」


エレノアの言葉にルカは驚愕し、きょとんとしている。かなりあほ面だったかもしれない。

あきれたようにエレノアがいう


「幸い、使役できる目途はある…使役できるということは有用だと示せれば警備隊に置くことができるかもしれない……私の管轄としておいておけるか、打診してみる。」


ルカは信じられなかった。

この人めちゃくちゃいい人だ……。


「あ……ありがとうございます…。」


また涙腺が崩壊する。

もうあってないようなものだ。


「なぁ!もう!いちいち泣くな!今から行ってくるから、心の準備をしておけ!!言っておくが、本当に助かるかわからんからな!」


エレノアはそそくさと牢をあとにする。

ルカはその姿がなによりも頼もしくみえた。

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