会議
「周りを見てきたが…それらしい人影も痕跡も確認出来なかった………隊長達が遭遇した奴ら、身を隠すのが上手いな。」
ドラド・リドルが警備隊庁舎に戻ってきた。
ルカ誘拐未遂の後すぐさま警備隊庁舎に駆け込み、ドラドに周囲の探索と警戒を指示したのだが、遅かったらしい。
「そうか…すまない、ご苦労だった。」
エレノアはドラドを労うと、ルカの側による。
ルカは先ほどの出来事が余程こたえた様子で、自身の身体を引き寄せ、まるまる形で部屋のすみに縮こまり震えている。
側にはミリアムルが付いているが、恐怖心を打ち消すことは出来ない様子だった。
「まさかここまで露骨に……強硬手段に出てくるとは予想していなかったな……奴ら、相当焦っているんじゃないか?」
エレノアの問いかけは空中に霧散する。
今現在、この疑問に明確に答えられる者など、この警備隊庁舎内にはいないのだ。
そんな空気のなか、エドモンドがおずおずとした様子で手を挙げる。
「そもそも、相手側の狙いは何なんでしょう?今までこんな明確にルカちゃんを標的にしたことなんてありませんでしたよね?なんで今になってルカちゃんを狙うんです?」
この疑問に答えたのはドラドだった。
「おそらくリダ村の一件…一つ目の巨人を討伐した時があっただろ?あの時にこの娘のことを知っちまったんじゃないか?」
これにエレノアも頷きながら補足する。
「リダ村件もバサラーシャが絡んでる疑惑がある……今まで完全に破棄されていたと思われていた研究に基づく成果……それも成功したものを発見したとなれば、それを奪取しにくるのも道理と言えるわけだな。」
決して納得はいかないがと補足した上でエレノアは首を振る。
そもそもこの地で勝手にへんな研究を進めるなど狂っている。
本当なら外交問題として問い詰めたいところではあるが、現在状況証拠から読み取れる推測だけが先行しており、これと言った証拠がないのが国としての対応ににの足を踏ませている。
一つ一つの事件、事案は独立した問題に見えるが、深いところを垣間見た時にもしかして?と思える程度でしかないのだ。
よく飲み込めていない様子のミリアムルも頭を悩ませながら発言をする。
「すみません、私途中から警備隊に入ったので皆さんより全然理解できてないんですけど、そもそもなんでその人たちはそんな実験をしていたんでしょう。」
「そりゃ、人間ほどの知能がある怪物を使役できたらインフラ整備は勿論、軍隊としても大きな活躍が期待できるからじゃないのか?」
ドラドは当たり前のように答えるが、エレノアの顔は険しかった。
確かにミリアムルの疑問はもっともだ、どこか………なにかが引っかかる。
その引っかかりを明示したのもミリアムルだった。
「インフラ整備はこの中央国家ウォラノスが誇る魔術省が開発した魔術具で事足りていますよね?我が国は周辺諸国にも技術提供や物資輸出を行っております……軍隊だってそうです、外交官を互いに招き入れている国同士なんですよ?この400年間、ウォラノスとバサラーシャは戦争などしておりません……互いに怪物に悩まされている国同士、手を取り合っていたはずです。」
ミリアムルの言う通りなのだ、バサラーシャとはこの400年、不破もなく付き合ってきた。
仮にその怪物の軍隊が我々に向けるものではないにしても同様に他の国に攻め込む理由が耳に入ってこない。
野生の怪物を殲滅させるための軍隊だとしても研究費用などを考慮すれば明らかにコスパが悪く、維持費も相当かかるだろう。
ルカを見れば明白だ、いまだに自分の身体能力の変化についてこれておらず、物をよく壊してしまう。
「研究のその先……大元の目的が読み取れないというわけだな……」
エレノアは声に出しながらミリアムルの意見を踏まえて自身の考えを整理する。
こうやって一つ一つ疑問を整理していけば、もう一つ疑問が残っていることに気がつく。
【婚約破棄の件】だ。
あの時、エリザベート嬢の他に間者となる婚約者を設けて国を裏から牛耳ろうとしていたのではないかと予測していたが、本当にそうなのだろうか?
ミリアムルの父親がバサラーシャの間者と繋がりがあったのは事実だ、しかし未だにその間者と他の貴族がつながっていた痕跡は見つかっていない。
そして何より怪物の軍隊を作り上げるという明らかな軍備拡張をしておいて、武力行使を検討しているのではなく、裏工作をして国を牛耳ろうとしているのは計画に一過性がなさすぎる。
怪物の軍隊を作り上げるというのは【神隠し事件】の犯人である男が持っていた研究記録に表記されていたのだからこれは事実ととって良いだろう。
「くそ……不明な点が多すぎる………情報源が皆無なのが問題だな………」
エレノアが愚痴るも皆困った顔をするのみであった。
解決策など見つからないのだ、首を捻るしかない。
皆でうんうん悩みながら時間を無碍にしていると、部屋の壁掛け通信魔術具がコール音を鳴らす。
あまりに唐突でかつ響き渡る音量にびくりとする一同であったが、通信魔術具の呼び鈴だと気付くと、エドモンドとミリアムルが慌てて取ろうとする。
しかし、それをエレノアが腕で制し、受話器を取る。
「はい、こちら城塞都市ウォーラデミントン警備隊庁舎。」
『あ、その声はエレノアですね、お疲れ様ですボンドです。』
エレノアはチラリと通信魔術具の発信元を確認する。
どうやら外壁の門兵詰め所からかけてきている様子だ。
ボンドには今日外壁の点検を頼んである、時計を確認するが、点検を完了したにしては随分早かったと感じた。
しかし、ボンドの要件は違った様子だ。
「外壁を登り、城塞都市へ侵入した不審者を捕縛しましてね、事情聴取を行いましたので、その報告しないとなと連絡した次第です。」
不審者という言葉にエレノアは心当たりがあった、先ほどルカを誘拐しようとしていた男達だ。
「了解した、私もお前と擦り合わせを行いたい事案がある……その不審者の人相も確認したいし、報告は私がそちらに向かってからでも構わないか?」
「了解です、ではその間にさらに何か聞き出せないか事情聴取を続けますね。」
エレノアは「ほどほどにな」と返事をすると受話器を置く。
「さて、私は城塞都市外壁に向かうことになったんだが、ルカ……」
エレノアの言葉は最後まで続かなかった。
ルカは気丈に表情を取り繕っているが肩を小刻みに震わせている………現在、相当警備隊庁舎の外を怖がっている様子だ。
誘拐されかけたのだから仕方がない……【神隠し事件】では誘拐された挙句に怪物化になってしまったのだ、トラウマになったことだろう。
「ルカ、お前は警備隊庁舎に居ろ……三人とも、ルカが脱走しないしないように見張っててくれ。」
エレノアの言葉に三人は強く頷く………三人に微笑むと、エレノアは城塞都市外壁へと向かった。




