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異形の檻  作者: koenig
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再会

「エレノアしゃぁぁん!!!!」


陣地に戻って早々、ルカはべしょべしょに泣きながらエレノアにしがみつく。


「どうした!?怪我を負ったか!?」


「みんな…………みんな…わわ私のこと怖がっちゃって……脱出出来そうにないですぅ!!!」


エレノアはガクッと肩を落とした。

ルカが村人と接触したところでこうなることは目に見えていた。


「ルカ、だからお前が怪物だとバレかねないと言ったんだ……村民の避難場所さえ確定できれば充分……場所は目星通り教会だったのか?」


「………はい…そのようでした………」


ルカの報告を聞いて頷く。

それさえわかればどうとでも対処できる。


「よし!聞いたか!?村民達は教会の中にいる!先ほどルカを追っていたこともあって現在あの怪物(ポリュペーモス)は教会から離れている状態だ!!このまま狙撃魔術具で攻撃し、村から引き出すぞ!!」


エレノアの号令を受けて隊員達はまた構え始める。

その方角は怪物ポリュペーモス、奴は逃したルカをしばらく探すような素振りを見せていたが、やがて村の中央の広場へと戻ろうとする。


「せっかくここまで出てきたんだ、逃すわけがないだろ。」


エレノアが合図を出す。

その瞬間狙撃魔術が発動され、一斉に破裂音がする。

あまりの音の大きさにルカは頭が痛くなるのを覚える。


「ふぉぉ……ほぉぉ!」


こういう時耳が良すぎるのも考えものだ

ルカは慌てて耳を閉じるように塞ぐ、しかし気休めにしかならず弾丸が発射されるたびにガンガンと頭を揺らすように銃声が響く。

まるで目玉が飛び出してしまいそうだ。


一方ポリュペーモスは的確に急所を狙撃されることでもう虫の息であった。

分厚すぎる己の肉体が災いして弾丸が貫通せず埋め込まれ、魔術具の威力を己の身体だけで受け止める。

巨人(ポリュペーモス)は苦しみ、もがき、周りの建築物を破壊していく。


「異常な耐久力だな。」


ドラドが愚痴る。

それもそのはず、もうすでに狙撃魔術具の残り弾数は少なく、あと三発も撃てば無くなってしまう。


「隊長!弾薬全て使い切りました!」


「私もです!」


他の隊員達も魔術具を使い切った様子だ。

しかしあの巨人(ポリュペーモス)は未だ絶命しない。

普通の怪物なら一発二発おみまいしたら動かなくなるというのに


ポリュペーモスは弾丸の雨の勢いが落ちたことで狙撃場所を特定する。

村門の正面から少し離れた崖の上、影に紛れた人影を発見する。

あれは自分(ポリュペーモス)をここまで追い詰めた者たちだろうか。

関係ない。

ここで力尽きるにしてもただやられるわけにはいかない。

ポリュペーモスは立ち上がると、雄叫びをあげて崖へと突っ込む。



「ま……まずいぞ!こっちにくる!」


隊員の言葉にボンドが指示を出す。


「落ち着け!奴はもう虫の息だ!弾が残っている者はそのまま魔術を展開し狙撃しろ!」


弾薬のない隊員達は後方に下がり、残っている隊員で狙撃していく。

しかし巨人(ポリュペーモス)は雄叫びをあげながらそのまま突っ込んでくる。

とうとう崖下に到達したと思いきや、身体をしがみつかせ、よじ登ろうとしているではないか。


「ちょちょちょ!!登ろうとしてくるんですけど!!!」


ルカが慌てた様子で後方に退く。

怪物がよじ登ろうとするその様はタンスの上のものを取ろうとするような人の動作そのままだった。


「ボンド、他の隊員にボウガンや弓矢、剣を持つように指示しておけ。」


エレノアはそういうと抜剣し、崖側へとすすむ。

己の身体を自らの高い魔力で身体強化し、剣に魔力を纏わせる。


「ちょっと!?エレノアさん!!無茶ですって!!」


ルカの静止もきかず、エレノアはふっと崖から身を投げたかと思うとすぐさま大地を揺るがすような悲鳴が聞こえ、続いて地響きがする。

ルカは慌てて崖下を覗き込むが、そこには巨人(ポリュペーモス)の単眼を貫き、剣で目玉を抉るエレノアの姿があった。


「うそぉ…………」


いくら狙撃魔術具で体力を削っていたとはいえその人間離れした身体能力に唖然としてしまう。

あの日、あの階段で相対したときに襲われなくて良かったと心の底から安堵した。


「全く、どっちが怪物かわからないね………」


ボンドも隣で見ながら呟く。

よかった、これはみんな共通の感想なんだ。


先ほどの地響きで引き寄せられたのか、村の周りに集まっていた怪物達が次々と現れてくる。


「これより掃討戦にはいる!ドラド率いる遠距離隊はこの崖からボウガン、弓矢による射撃!!近距離隊は村門の近くに移動し、怪物達を掃討せよ!!残りのものは破壊された村門に迎撃杭と簡易柵を設けるように!!行動開始!!」


ボンドが剣を手に下へと迂回していく。

それに続いて隊員達は怪物を切り殺しながら進んでいく。

勿論ルカは村門の近くに移動して柵の作成だ。


数時間に及ぶ掃討戦の後、すっかり日が沈む頃には怪物の姿は村から消えていた。


「この度はなんとお礼を申し上げたら良いか………」


リダ村の村長が深々と頭をさげる。


「いえ、お気になさらず……それにしてもこの度は災難でしたね。」


エレノアは改めて辺りを見渡す。

松明のわずかな灯りでもわかるくらい民家は悲惨な状態であった。


「いえ、命あっての物種と申します、いまは村民達が無事であったことをただただ喜びましょう。」


リダ村の村民たちは各々が咄嗟の判断で教会に逃げ込んだおかげで誰一人死者が出ずに済んでいた。

復旧には時間がかかるだろうが、それでもただ物が壊れただけだ、壊れたものは元に戻るが死んだ人間は生き返らない。


「でしたらこの書類に記載をお願いします、今回は怪物の被害……それも未知の怪物でした、あの脅威を鑑みれば相当額の補助金が出るはずです、記載していただければ私が城塞都市の区庁舎に証言とともに提出しておきますので。」


「おお、なんとありがたい!」


ボンドと村長が今後の話に入っていく。

村長は質問をしながら書類に記載を進めていっているようだ。

この様子ならボンドに任せて大丈夫だろうと判断し、改めて村を見て回ることにした。


「すみません!エレノア・ヴァルセルクさんでございましょうか!」


不意に呼び止められる。

振り返ればそこには中肉中背の茶髪の中年男性が立っていた。

後ろには随分ガタイのいい金髪の男と、他二人に比べると少し頼りない眼鏡の男がいる。


「そうですが……どちら様で?」


「はっ!これは失礼しました、わたしはトール・オルテガ……このでかいのがトム、もう一人がジジと申します。」


「トム・アルタスです」


「ジジ・ラドルシャと申します」


エレノアは目を丸くした。

オルテガということはこの人が……


「もしかすると……ルカさんのお父様……?」


「はい!そうでございます!娘がいつもお世話になっております。」


こうなると予想はしていたが、まさかこんなに早く出くわすとは……


「いえいえ、こちらこそご息女様にはいつもお世話になっていて……」


「そんな!とんでもない…警備隊の隊長と知り合ったと手紙で知ってからは迷惑をかけていないか、いつも心配で……娘は元気にしておりますでしょうか……」


「はい!それはもう!!」


エレノアは心の中で叫んだ。


(言えねぇーーーーーーーー!!!!貴方の娘を怪物として飼っております、いつも渡している仕送りも自分の罪悪感を減らすために私が送っているもので、最初の手紙も私名義で届けられてもは騒がられないように私が書いたものだなんて口が裂けても言えねぇーーーー!!!!!!!)


そう、この瞬間エレノア・ヴァルセルクはものすごい罪悪感に襲われていた。

わざわざ筆跡を誤魔化すためにタイプライターで作成した手紙に問題なく区庁舎で働いていると嘘をついているため、この父親たちはまさか娘が怪物に変貌しているとは夢にも思っていないのである。


「そういえば、隊長さん」


そんなことを考えているうちにデカい男、トム・アルタスという人物が声をかけてきた。


「俺、教会に立てこもっていたとき獣にルカの顔を貼り付けたみたいな…へんな怪物を見たんスよ……しかもその怪物、ルカの着てたものにそっくりな服まで着てて………そんなことありえるんスかね……?」


(ありえないよそんなこと!!)


エレノアは思わず言いそうになってしまうが咄嗟に口を紡ぐ。


「それは……私では判断しかねますね………」


判断しかねるわけがない、エレノアは城塞都市の警備隊の隊長なのだから


「やっぱりそうだよ、ルカちゃんの顔と声と口調をしたルカちゃんの服を着た怪物が僕らのためにあのデカい怪物を外に誘導しただなんてそんなことあるわけないでしょう」


ジジ・ラドルシャと言われた男がルカの父親に向かってそう話す。

そこまで察してるんだったら逆になんでわからないんだよとツッコミたくなるが必死に抑える。

しかし、自分の娘が怪物になっているかもとなど普通は考えない。

赤の他人の人間でさえ怪物になることに信憑性が無さすぎる。

それでもこれが貴方の娘(ルカ・オルテガ)に起こった事実なのだ……警備隊の怠慢のツケを貴方の娘(ルカ・オルテガ)が被ってしまった………。

今ここで全てを打ち明け、謝罪してしまいたい気持ちに駆られるが、どう語ればいいかわからない………。


そんな空気を壊したのは他でもないルカ・オルテガだった。


「あ!お父さん!!良かったぁー!!無事だったんだ!!!」


いきなり暗闇からぬっと現れる。

人間の顔、獣の四肢、そして頭に生えた大きな耳と角。

尻尾をゆらめかせた怪物がそこにはいた。


「ル……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


三人は各々驚愕する。

見知った顔、聞き馴染んだ声をした化け物が笑顔で三人を見ているのだ。


「お前!なんでここにっ!!」


「私だってみんなのこと心配なんですよ!………それに…このことはちゃんと話しておかないとって思って………」


ルカ・オルテガはいつになく真剣な表情だ。

一般人であった少女が腹を括って来たというのに警備隊隊長である私は何を躊躇していたのだろう……。

この子を見ているといつも己の不甲斐なさを痛感させられる。


「た………隊長殿…………っ!これは………どういう………………」


ルカの父親、トールは変わり果てた自分の娘を凝視しながらエレノアに問いかける。

あまりに悲痛な声で…………


「申し訳ありません………今まで黙っておりましたが、貴方のご息女は城塞都市にてある事件に巻き込まれてしまい…………怪物に変貌させられてしまったのです…………。」


エレノアは即座に頭を下げる。

トールは変わり果てた娘と警備隊隊長を交互に見ながら絶句している。


「そんな……そんなことってないだろ!!じゃあルカちゃんはこの姿で区庁舎で働いてるってのか!?」


代わりに声を上げたのはトムだった。

彼も今にも泣き出しそうな声をしている。


「いえ、彼女は現在私の使役獣として私の手元に置いております……非人道的な処置でございますが…今現在の彼女を人間の社会に置いておくには他に手立てはなかったのです………しかし、元を正せば彼女の一件は警備隊の傲慢と怠慢によるものでした………重ねてではありますが、今一度謝罪いたします、申し訳ございません。」


エレノアはなおも頭を下げ続ける


「そんな………そんなことってあるかよ!!それじゃルカちゃんがあまりにも可哀想だ!!!!」


とうとうトムは激昂し、エレノアにつかみかかる。

しかしそれを止めたのは他でもないルカだった。


「や…やめてトム!エレノアさんは悪くないの!!エレノアさんは私を助けるために動いてくれて……」


「いや、違うんだルカ…犯人の居場所を突き止めるため泳がせるよう判断したのは私だ………お前が攫われたとき、すぐに救出していればそんな身体にはなってなかったかもしれない……」


エレノアの発言に衝撃を受けるルカ。

てっきり自分は捜索の果てに救出されたのだと思っていた、初めから警備隊は自分がさらわれたことをわかっていた??


「テメェ!やっぱりルカを見捨てたんじゃねぇか!」


トムがエレノアに殴りかかろうとするが、その拳をジジが止める。


「お前!何しやがる!!」


「少し落ち着けって!!!そりゃルカちゃんをすぐに助けなかったのは許せないけど、捜査としてはよくあることだ!!それで隊長さんを責めるのはお門違いだよ!!!その後の面倒を見てくれてるだけマシなほうさ!!!」


「お前!!こいつの肩を持つのかよ!!!!」


「そうじゃなくて!!!!」


トムとジジで喧嘩を始めそうな雰囲気だ


「やめなさい!見苦しい!!」


いきなり聞こえる大声で一気に静まり返る。

一喝を飛ばしてその場を沈めたのはトール・オルテガだった。


「隊長殿………」


トールはエレノアに向き直る。

その目は赤く腫れ上がっており、涙を流したことをうかがい知る。


「まず、父として娘の面倒を見てくれたことに感謝いたします……しかしながらわたし個人としては貴女を許すことなど到底できない………」


トールはエレノアを睨みつける。


「ええ……重々承知しております……」


重苦しい空気が辺りを支配する。

先ほどまで激昂していたトムも空気に飲まれ…ただその様子を見ることしかできない。


「お父さん……でも私はこうして助けてもらったの………本当なら私殺されてたんだよ?それでも使役獣にしてでも助けてくれたのがエレノアさんなの………」


空気に負けずルカがおずおずと喋る。


「わかっている…その点に関してはわたしも感謝しているつもりだ……だが、お前がそんな風になってしまった原因を作り出したのもまた警備隊だ……お前はこの先どうする……?一生怪物の身体のままいきるのか……?それでいいのか………?」


トールはまた涙を流す。

それは純粋に娘を案じた親の顔だった。


「わたしは貴女を許すことはできません…エレノア・ヴァルセルクさん……しかし娘を預けておけるのも貴女一人だけだ………娘を…よろしくお願いします……」


それだけ言うとトールはとぼとぼと歩いて行ってしまう。

エレノアはこれ以上かける言葉が見つからず、立ち尽くすしかできなかった。


「わ………私お父さんのところに行って来ます!!」


ルカはすぐに父親の後を追う、それに続くようにトムとジジも走り出した。


「結局私は………父上と同じだ…………」

ポツリと呟いたその言葉は闇に溶けて消えていった。

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