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異形の檻  作者: koenig
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水路での任務:3

ルカ・オルテガが怪物たちの中を歩み始めた頃、ボンド・レリス率いる地上班は待機中の時間を持て余していた。


「大丈夫なんですかね……」


そうつぶやくのはエドモンドである。


「なに、率いてるのはエレノアだ…心配いらないよ。」


ボンドは持ってきた水筒に口をつけながら答える。

挿絵(By みてみん)

「僕が心配してるのはあの怪物のほうですよ」


「ルカ・オルテガかい?」


ボンドは面食らった。

エドモンドは心の優しい青年だ。

その彼があの境遇をきいてもなお不信感をぬぐえないものかと…


「あの怪物は聞けばもともと一般人だというじゃないですか。あのヒル型の怪物の群れの中突入できるとは思えません…」


ボンドは納得した。

不信感を抱いてるのは彼女の実力についてのようだ。

”怪物だから”という理由で信用できないというのではないらしい。


「無論、ルカさんが警備隊に加わるのであればそれ相応の訓練をしてもらわないといけないだろうね……でも、彼女はそれなりに素質があると思うよ?」


それはあの姿になってしまっても自暴自棄にならず、この警備隊についてこれていることからも明白に思う。

普通の精神力ならきっと心が壊れていただろう。


「はぁ……やっぱボンドさんってすごいですね。」


エドモンドは感嘆とした顔でボンドを見ている。

ボンドは何のことかわからずにいると…


「ルカさん…ってよくあの怪物を人扱いできますよね…僕には無理っすよ……」


エドモンドの顔は薄いが、不快感を表していた。

思えば、彼女の境遇に同情をするものはいるものの彼女を純粋に人として扱う者はいなかった。

彼女を生かそうと動いているエレノアもそうだ。人としては扱っていない。

たとえそれは自分でもそうだ。


「僕も彼女をちゃんと人だと思えているわけじゃないさ……でも、そういう風に接しなきゃいけないとは務めているよ。」


ルカ・オルテガはあくまで事件の被害者だ。

そして我々警備隊の傲慢のつけでもある。

そのつけが一般人であるルカ・オルテガに向いてしまったのが不幸としか言いようがない。



エレノア率いる地下班はルカ・オルテガの帰還を待ちつつ、水路内の点検を行なっていた。


「確認されるような不備はなし………か。」


ヒル型の怪物がどこから発生したのかわからないために調査をしていたが、進展はなし。


(やはり、あの奥に今回の大量発生の原因があると考えていいわけだな。)


そう考えるエレノアに一人の隊員が近寄ってきた。


「隊長、進言よろしいでしょうか?」


「なんだ?言ってみろ。」


エレノアは何か見つけたかと思い、隊員の言葉を待つ。


「お言葉ですが隊長、あの怪物を待つ必要があるのでしょうか?」


エレノアは最初意味がわからなかったが、すぐに察した。

要するに“もう魔道具は怪物達の群れの中に入って行き、その魔道具を持っているのも怪物……つまり今作動しても被害はゼロなのだからもう発動してしまってもいいのではないか?”ということだ。

実にわかりやすい。

使役した怪物など本来使い捨てだ。

そう思うのも無理はない。


「却下だ…まずアイツが戻ってこない分には設置した場所の把握ができない。設置場所の把握ができないということは極端に奥に設置したりなどして効果範囲が狭まり、一網打尽にできないかもしれないということだぞ?」


怪物との戦闘は極力避けるのがセオリーだ。

ましてや今回のような情報が何もわからないような怪物は特に………


「それに私が使役しているあの怪物は今現在替えが効かないものだ、この先もっと役立つかもしれん。」


苦し紛れにそう付け加える。


「は………隊長はそこまでお考えでしたか……浅慮でした。」


正直これは建前にすぎないのだが、納得したのならそれでいい。

怪物に対する扱いはこの隊員が普通だ。

手持ちの怪物とはいえ、一匹でも多くこの世から消えてもらった方がいい。

しかし、ルカ・オルテガに関してはその限りではない。

頭ではわかっているのだ………()()()()()()()()と………。


(これまでの人生、私は怪物を嫌悪して生きてきた………。急に割り切れというのは難しいものだ。)


そう考えているうちに目の前の怪物の群れに動きがあった。

中から一匹の獣が姿を現したのだ。


「ずいぶん遅かったな。」


エレノアの言葉に出てきた獣は答える。


「だって中すごいギチギチなんですよ!?見てくださいよ!!しかも中間点ってどこだかわからないし!!何往復もしたんです!!!少しは労ってくれたっていいでしょ!!!???」


その獣、ルカ・オルテガは全身ネトネトの粘液で覆われながら詰め寄って来る。

近づく為に鉄臭い臭いを強めながら………。


「わかった、わかったからそれ以上私に近づかないでくれ」


エレノアは鼻をつまみながらルカを静止させる。


「ひどい………私頑張ったのに………」


ルカは足元の水で粘液を取り始める。

水路の水の方が幾分もましだというわけだ。


「それで、ちゃんと設置してこれたのか?」


エレノアの確認にルカはぶつくさと答える。


「ええ、しっかり真ん中あたりに設置してきましたよ……身体中ベトベトにさせながらね…………」


どうやらまだ不貞腐れているようだが、今構っている時間はない。


「そうか」


エレノアは通信魔術具を取り出す。


「こちらエレノア、ボンドきこえるか?」


エレノアの呼びかけに魔術具からすぐさま応答が返って来る。


「こちらボンド、大丈夫ちゃんと聞こえるよエレノア。」


「よし、準備が整った。一旦そちらにルカを帰投させる。先に情報共有を済ませておいてくれ。」


「わかった。」


短い会話を終えると魔術具の通信を終える。


「さてルカ、感電死したくなかったら早く戻ってボンドにあの中で見た水路の様子を報告して来るんだ。」


エレノアは意地悪な顔をしながらルカに放電魔道具の起動スイッチをちらつかせる。


「ちょ……ちょっと待ってくださいよ!」


ルカは慌てた様子で水路を後にする。

四足ではしっていくあたり、かなり焦っているようだ。


「さて、諸君。これから放電魔術を使用する!今一度対電気防具の点検を行うように!感電はしたくないだろう!?」


エレノアの号令と共に隊員達は自身の身体を弄り始める。


「隊長、異常なしです!」


隊員一同、エレノアに報告する。


「よろしい!では放電魔術を起動する!」


エレノアが起動スイッチを入れるのと同時にバチィィィっと大きな音がヒル型の怪物達の方角から聞こえて来る。

それに伴い、肉の焼ける臭い、怪物達の断末魔の叫びが聞こえ、水路に溜まっていた怪物達はボタボタと地面に落ちていった………。


「討ち漏らしがいるかもいるかもしれん。総員突撃するぞ!一匹も漏らすなよ!」


エレノア達は水路の奥へ奥へと進んでいく。

駆除の意味合いもあるのだが、今回はヒル型の怪物が発生した原因究明の意味合いが大きい。

また同じような事態は避けなくてはならないからだ。

焦げ臭い臭いを我慢しながら地下班は水路の中を進んでいく。


「くっさ……」


「おえ……」


と隊員の中から我慢できずに言葉を漏らす者達もいる様子だ。


(ルカはよく、この中を一人で入っていけたな……)


ルカの鼻は怪物化のせいで敏感になっている。

我々の感じているこの臭いの比ではないだろう。

その中を我慢して歩いて行ったのだから本人の言うとおり、褒めてやっても良かったかもしれない。

そう考えながら歩いているとあるものに目が行った。


「これは、ルカに持たせた魔道具だな。」


放電し終え、すっかり使い物にならなくなっているが、間違いなく持たせた魔道具だ。

つまり、ここが中間点ということだろう。


(地図とも位置が合致している。)


ここまでで、異常という異常は見受けられなかった。

つまり、発生源はこの奥にあるのだろう。


「総員、異常はないか!?」


隊員達にも確認する。


「異常、見受けられません!」


特に発見はないようだ。

さらに地下班は奥に歩をすすめる。

進めていくと、水路の最奥に変なものを発見する。

焼け爛れているが、それは卵のように見受けられた。


「これが、ヒル型の怪物が大量発生した要因?」


隊員の一人がつぶやく。


「こんだけ大量の卵があったらそりゃあんだけ増えるわな」


また一人の隊員がつぶやく。

おかしい。

微弱な違和感。

エレノアはその違和感を無視できなかった。


「確かにこの卵から孵化した怪物がここに溜まっていたのだろう………しかし…………」


エレノアはごくりと唾を飲み込む。


「総員、この周辺をくまなく調べろ。」


隊員達は周囲を調べ始めた。


「隊長、卵以外の異常は見受けられません。」


エレノアはまた嫌な予感を覚える。


「総員、ここに至るまでに異常はなかったか?」


隊員達が答える。


「いえ、これといった異常はなにも」


「同じくです」


「ええ、同じく。怪物の死骸をどかしたりして調べましたから調べ漏らしはないかと……」


エレノアの嫌な予感は確信へと変わっていく………


「ではこの卵は何処から入り込んできたんだ?」


隊員達もざわつき始める。


「何処って……あんだけ怪物がいたんですよ?そりゃ産卵ぐらい……」


隊員の言葉をエレノアは信じたかったが、やはり状況に合わない。


「そうか、ではその最初の一匹、ないしは二匹は何処から侵入してきた?ここは城塞都市であり、たとえ飛行してきた怪物でさえもバリスタの射撃により侵入させたものは皆無だぞ?」


加えてこの水路は都市内で完結しており、外から水路を伝って侵入してきたことも考えにくい。

外へつながるような亀裂も発見できなかった。

隊員達は動揺し始める。


「では、壁を乗り越えて入り込んだのではないでしょうか?この怪物達は壁を地面のように這って移動していましたし……」


エレノアはその意見も否定する。


「愚問だな……それだとこの水路に来る前に騒ぎになっていないのがおかしい。コイツらは怪物だぞ?人間を見かけたら真っ先に襲って来るだろう。」


隊員達はごくりと唾を飲み込むが、エレノアは気にせずそのまま言葉を紡いだ。


「この水路の一角に溜まっていたのも不自然だ。普通ここまで増えたのなら生存圏を広げていき、もっと勢力を拡大していたはずだ……」


最悪の場合、都市内の水路全てがこの怪物に埋め尽くされていてもおかしくない。

考えただけでゾッとするが…………


「で……では隊長…………ならばなぜ…………現にこの怪物達はこの中に止まっていたのでしょうか………?」


隊員の一人が耐えきれずにエレノアに答えを求める。


「考えられるのは、何者かが怪物の卵をこの場所に持ち込んだことだ………。怪物そのものは近づけば襲われるが卵ならば襲われることはない。」


エレノアは指を折り曲げる


「もう一つはその何者かが、ここでその怪物達に餌を与えていたということ。でなければ、ここまで巨大化した魔物が大量発生する道理が見つからない。」


隊員達が悍ましい物を見るようにこの水路全体を見回す……。


「お……おかしいですよ!餌を与えるなんてことをすればまずその犯人が餌になってしまいます!第一なんの理由があってそんなこと………!」


隊員達が頷き始める。

そんなことあるはずないとそう思いたいのだろう。

それはエレノアだって同じだ。

だが、この現状がそうだと言っている。


「どのような理由でそんなことをしていたのかはわからない。餌を与えていた手法についてもな……」


犯人を捕まえない限りこればかりはわからないだろう。

しかし、餌を与える手法については検討がつく。

魔道具の痕跡がなかった以上、使役していたとは考えづらいだろう。

しかし、地下班がルカを待っていた際に待機していた地点には上方にマンホールがあった。

あそこから餌を投げ入れていたのだとすれば犯人自身は襲われないだろう。

ヒル型の怪物も自動的に餌が投げ込まれる場所を離れるわけがなく結果、あの密集状態が出来上がったのだろう。

なんにせよ確実なことは………

“この城塞都市内部に怪物を侵入させた者がいる”

考えてみれば【神隠し事件】から妙だった。

アレも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

人間が怪物に変貌させられている異常性に気を取られ、その考えに及ばなかったのがくやまれる。

つまり、この二つの事案には裏で糸を操る黒幕が存在する。


「あの(クレイジーモンキー)を殺してしまったのは不味かったな……」


思えばあの男からは何も聞き出すことが出来なかった。隊員に斬られ、即死だったからだ………


「なんにしても検討することが山ほどある。総員、至急本部に戻るぞ!ここで考えていても埒が明かない!」


エレノアの号令に従い、隊員達は地上班の元へと移動する。

この水路の先のように暗雲が立ち込めているような心情を抱えながら

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