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89・加害者達の行いが、陛下達に知られます

 私の「自己紹介」を聞き、ルディーナ達は一瞬凍りついていたが、「信じられない」とばかりに、無理矢理笑おうとする。


「な、何、馬鹿なこと言ってるのよ。あんたって本当に変なんだから……」

「で、ですが、ルディーナ様。今の力は、確かに聖女様の……」

「じゃ、じゃあ……私達……今まで、聖女様に危害をくわえていたわけ……?」


 愚かなルディーナ達も、その重みはわかっているようだ。自分達が私にしてきた悪事を思い出して震え、今にも泡を吹いて倒れそうだった。


(でも、聖女じゃなければ危害をくわえてもいいってわけじゃないでしょうに)


「う、嘘! 嘘よ! 嘘でしょう!? ねえ、フローザ!」


 ルディーナは明らかに取り乱し、泣き叫んでいた。


「嘘じゃないわ。私は聖女ミアよ」

「嘘だってば! 嘘だと言いなさい! フローザ!」

「何故、私があなたの命令に従わなくてはいけないのかしら。嘘じゃない、と言っているでしょう」


 ヤミルダも顔を蒼白にして身体を震わせていたが、今更遅い。私はもう、あなた達がしてきたことを全部知っているのだから。


「説明すると長くなるから、とりあえずこのダンジョンを出ましょう」


 私は他の生徒や教師達と共に、地上に出ることにした。

 これまでのことを全て、明かしてやるために。



 ◇ ◇ ◇



 私達はアレンテリア魔法学園に戻ってきた。その道のりで、ルディーナやヤミルダ、今までフローザに危害をくわえてきた人間達は皆、この世の終わりのような顔をしていた。夢ならどうか覚めてくれ、と言わんばかりに。残念ながら、その祈りが届くことはないけれど。


 学園に着くと、校庭には大勢の人達がいた。アレンテリア魔法学園はほぼ全寮制であるため、普段は外部から閉ざされた空間。けれど学園祭の今日ばかりは解放され、生徒の保護者達も見学に訪れている。――生徒達も保護者達も、今まで魔法の鏡で、ダンジョン内の様子を見ていたのだ。


「ルディーナ……」


 大勢の保護者達の中から、ルディーナのもとへ、彼女と髪色が似た男性が歩み寄る。その男性を見て、ルディーナは目を見開いた。


「お父様!」


 以前聞いた会話によると、彼女の父親は今まで、事業のため隣国ユーガルディアに行っていたらしい。つまり久々の親子の再会のはずだが――


「何をしているんだ、お前は……」


 ルディーナの父の顔には、絶望が滲み出ていた。ルディーナは明らかに狼狽する。今まで、父親からそんな目を向けられたことがないのだろう。


(……それにしても。このルディーナの父親……どこかで見たことがあるような)


「お……お父様? どうして、そんな顔をするの?」


 ルディーナの父だけではない。全校生徒と、その保護者達が皆、ルディーナに冷たい目を向けている。


「な、何よ! どうして皆、そんな目で私を見るのよ!? わ、私、大変だったんだから! ダンジョンの中で、魔獣に襲われて……」

「その魔獣は……お前が召喚したのだろう、ルディーナ」

「な!? ど、どうして、それを……!」


 ルディーナ達としては、魔法の鏡に映らない場所を計算して召喚したし、私を攻撃するときも自分で監視用の魔道具を壊したから、皆には自分達の行いが知られていないと思っていたのだろう。だけど、それで全て隠せたと思っていたなら、浅はかだ。


 私はルディーナに、事実を告げる。


「私が、ダンジョン内に設置されている魔道具とは別に、自分で魔道具を身に着けていたから。あなたが魔獣を召喚したと自白したことも、私を罵倒して攻撃したことも、魔法の鏡を通して、皆見ていたのよ」

「な……!?」


 ルディーナ達は凍りつく。ルディーナの父は、絶望のあまり手で顔を覆っていた。


「ご、誤解です、お父様! 私は別に、フローザを傷つけるつもりなんてなくて! そ、そう、ちょっと魔法の練習というか……!」

「ルディーナ……もう何も言うな。これ以上嘘を重ねても、お前の罪が重くなるだけだ。ここにいる全員、全て、知ってしまったのだ……。お前が魔獣を召喚したこと、その魔獣が、他の生徒達にも多大な被害を出したこと、助けてもらっておいてその相手を攻撃したこと……全てを……」

「そ、そんな……」


 しんと静まり返った人々の前に、私は一歩、踏み出した。


「皆さん。ダンジョン内でのことは、詳しい説明は不要でしょうが……『私』のことについて、お話しなくてはなりませんね」


 人々は息を呑む。私は言葉を続ける。


「あらためまして……私は、ミア。この国に召喚されて以来、『聖女』と呼ばれている者です」


 ザワッと声が上がる。ダンジョン内でも名乗りはしたが、やはり信じられない気持ちがあるのだろう。


「私は少し前から、『フローザ』の夢を見るようになりました。フローザはいつも、ルディーナ達から酷い扱いを受けていました。汚い言葉で罵倒されたり、魔法で攻撃されたり、その他にも、とても卑劣な行為を受け続けてきたのです」


 何も知らなかった保護者達はザワザワしているが、生徒達は気まずそうに俯いていた。この学園の生徒なら、今私が話したことについて、皆知っているからだ。


「そしてある日目が覚めると、私はこの姿になっていたのです。リースゼルグ陛下とも話したのですが、この現象は、聖女である私に、フローザが助けを求めているのだという結論に至りました」

「へ、陛下にも、この話が知られているの……!?」


 ルディーナは、泣き出しそうな顔で尋ねてくる。

 後になって泣くくらいなら、最初からやらなければよかったのに。


「ええ。陛下も王宮の人々も、魔法の鏡によってあなた達の行いを見ていましたし、私も逐一報告していました」


 ザワ、ザワと人々のざわめきが大きくなる。ルディーナ達に至っては、もはや卒倒しそうになっていた。


「ま、待って! じゃあ、ヴィル様は……?」

「ああ。そういえばまだ、認識阻害の魔法を解いていませんでしたね」


 ヴォルドレッドが認識阻害の魔法を解くと、生徒達からザワッと声が上がる。


「聖女様の騎士、ヴォルドレッド様だ……!」

「ヴィルレジードさんは、ヴォルドレッド様だったのか……!」

「私達、聖女様とヴォルドレッド様と学園生活を送っていたの……!?」


 皆が混乱に陥る中で、ルディーナの父親が、真剣な面持ちで私の前に出る。


「聖女様。私はルディーナの父親でございます。このたびは娘がとんでもない犯罪行為をし……一体、どのようにお詫び申し上げればいいか……」


 彼は、まるで泣き崩れるかのように深く頭を下げた。

 その姿は、やはり何か見覚えがある。


「あなた……どこかで見たことがあるわ」

「はい、覚えていただいていて光栄です。私は以前聖女様に、命を救っていただきました」


 その言葉に、私より先に反応したのは、ルディーナだ。


「え!? な、何それ……っ」

「ルディーナ。心配をかけたくないと思ってお前には隠していたが、私は少し前まで、魔獣の呪いによって、もう長くない状態だったんだ。だがそんなときに聖女様が現れて……広域治癒で、私の呪いも治癒してくださった。……聖女様のおかげで、私は今、生きているんだ」

「そんな……! じゃあ私、お父様の命の恩人を、今までいじめていたの……?」


 ルディーナはがくりと膝から崩れ落ち、縋るように私を見上げる。


「ち……違うのです、聖女様、私……聖女様にあんなことをするつもりじゃ……!」

「……『聖女様』でなければ、あんなことをしてもよかったと思っているのかしら?」

「い、いえ、それは……!」


 ルディーナはガタガタと身体を震わせている。何も知らずにこの場面だけ見たら、少し彼女に同情してしまうくらいの追い詰められっぷりだけど。


 でも――

 私の奥で、「フローザ」の心が満ちてゆくのを感じる。

 彼女はずっと、こうなることを望んでいたのだ。

 自分を虐げてきた人間が何の報いも受けず幸せになるなんて、あまりにも、やりきれないから。

 忘れてはいけない。ルディーナは、それだけのことをしてきたのだ。同情には値しない。


 許しの言葉なんて言うはずもなく、黙って彼女を見ていると、別の男性がルディーナに近寄った。


「ルディーナ」

「リヒト様……!?」


 彼はルディーナの婚約者である、公爵令息だ。

 ルディーナは貴族の令嬢としての教養と、人脈作りのためこの学園に通っていたが、卒業したら公爵家に嫁ぎ、公爵夫人として生きる人生が約束されていた。


「君が学園でこんなことをしているなんて知らなかった。心底、失望したよ。君との婚約は破棄させてもらう」

「そ、そんな……! そんなの、あんまりだわっ!」


 髪を振り乱すルディーナへ、更に背後から声がかけられる。


「貴殿への罰は、それだけではない」

「こ、今度は何!?」


 ルディーナが後ろを振り返ると、学園の門から入ってきたのは――


「リ、リースゼルグ陛下!?」

「へ、陛下が直接学園にいらっしゃるなんて……!?」


(リースゼルグ、本当に王様なんだなあ)


 普段、私にはフレンドリーに接してくれるので忘れかけてしまいがちだが、こうしているととても威厳がある。


「以前、騎士団が伝えたはずだ。この学園には犯罪行為が横行している、改善しなければ、更なる処罰を与えると」

「は、犯罪行為なんて、大袈裟です!」

「暴力や器物破損、他者の尊厳を踏みにじる行いは、犯罪行為以外の何物でもない」


 普段は穏やかなリースゼルグも、今日は厳しい顔をしている。

 そして王である彼の口から直接、彼女への罰は告げられた。


「ルディーナ。貴殿への罰は、魔力の没収だ。後日、魔力剥奪の儀式を行う」

「そ、そんなああああああああああああああああ!」


 魔法学園のトップである彼女にとって、魔力は自分の矜持そのものだ。それに、強い魔力は貴族の証のようなものではある。魔力がなければ、今後も貴族との結婚は望めないだろう。


「こんなの、おかしい! 今のフェンゼルは間違っている! おかしな国になってしまったわ!」

「今度は国への責任転嫁か?」

「だ、だって! こんなの、他国……そうよ、例えばユーガルディアの国王陛下なら認めないわよ! ねえ、お父様!?」

「ほう、俺の話か?」

「え!?」


 リースゼルグの隣に、ユーガルディアの国王陛下が並ぶ。

 ルディーナの父親は先日までユーガルディアに滞在していたこともあり、リースゼルグからユーガルディア陛下に連絡してもらっておいたのだ。


「久しぶりだな、聖女殿。といっても、その姿だと実感が湧かないが」

「お久しぶりです、陛下」

「はは、そうかしこまらなくていい。俺は魔竜の件で、聖女殿に本当に感謝しているからな」


 他の生徒達は、全員ガチガチに緊張しているようだった。何せ、フェンゼルの国王とユーガルディアの国王が揃っているのだ。高位貴族だって滅多にお目にかかれない光景である。


「さて……ルディーナとやら。他者を傷つける行為は、我が国ユーガルディアでも立派な犯罪だぞ。俺は別に、フェンゼルがおかしな国だとは思わんな。以前のフェンゼルは問題だったと思うが、今のフェンゼルは素敵な国だと思う」

「そういうことだ。それでもなお、これ以上見苦しく言い訳を並べ立てるか?」


 ルディーナはもはや魂が抜けたような顔をしており、ぱくぱくと何も言えないまま、縋るように父親を見る。しかし彼女の父は、首を横に振るだけだった。


「ルディーナ……お前が悪い。自分の罪を認め、罰を受け入れるのだ……」

「そ、そんな……ひ……ふぇ……!」


 彼女はもはや言葉にならない言葉を呟き、あまりのショックでその場に倒れた。


 こうしてルディーナ達はもちろん、彼女達の行いに加担していた教師陣も、それぞれ罰を受けることが決まった――


読んでくださってありがとうございます!

次回は魔力剥奪の儀式です!

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― 新着の感想 ―
ひゃっはー ようやくざまぁ回だぜ (ゲスな感想)
これにて一件落着……じゃあないんだよなぁ 確かにこれでいじめはおさまるだろうけど、そもそもいじめの発端の一つになった「魔王の生け贄」については何も解決してないからね 魔王をどうにかしない限り、魔王の生…
いい悪あがきだ 罪が増えるのを見てフローザそろそろ目を覚ますかな?
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