84・行方不明になっていた冒険者達を救います
目の前の魔獣と、レオ君のことで頭がいっぱいで気付かなかったけれど、私達を心配してか、それとも興味本位でか、他の冒険者達が後から来ていたようだ。
「ま、まあともかく、魔獣を倒せてよかったです」
そう言いながら、あらためてこのエリアを眺める。魔獣が倒れた後ろには、何体もの石像が並んでいて――
「あ……お父さん!?」
レオ君はその中の一体を見て、そう言った。
「魔獣の、石化のブレスを受けたんだろう。皆、石にされちまったんだ……!」
「う、嘘だ……お父さん……っ!」
「ああ……! 俺の仲間も、石になっちまってる……!」
「そんな……こんなの、酷すぎる……!」
皆さん、石化はもう治らないものだと思って、大切な人が石になった悲しみに暮れている。
だけど、心配したり悲しんだりする必要はない。
だってこれは、「石化の呪い」だ。
呪いを解くのは、聖女の役目である。
「大丈夫ですよ、皆さん」
「はあ!? この状況を見て、よくそんなことが言えるな!」
「いえ、本当に大丈夫ですから。私に任せてください」
石化してしまった人は、結構な数だった。目視で確認しても、石像は十以上ある。
(でも、私の力なら問題ない)
私は聖女の光を放ち……一瞬で、解呪を行った。
すると、石像になり灰色と化していた人々が、生きた色を取り戻す。
「あ、あれ……? 俺、魔獣のブレスをくらったはずで……」
「お父さん! すごい、石化が治ったんだ……! よかった、本当によかったぁ……!」
レオ君は、目に涙を溜めてお父さんに飛びつく。
「レオ!? お前、どうしてここにいるんだ!?」
「お父さんが帰ってこないから、探しにきたんだよ!」
「お前……一人でここまで来られたのか?」
「ううん。あのお姉ちゃんとお兄ちゃんが、一緒にいてくれたんだ。お父さんの石化も、お姉ちゃんが治してくれたんだよ!」
「え……!?」
レオ君のお父さんだけでなく、今の解呪を周りで見ていた他の冒険者達も、大きく目を見開いていた。
「今のお力……も、もしや、あなたは聖女様ですか!?」
「聖女というと、ミア様……? しかし、お姿が違うのでは……」
「ええと、はい。今、わけあって別の身体になっていまして……。いろいろと事情があるので、このことは内密にお願いしたいのですが」
「もちろんです! 事情はわかりませんが、あなたは命の恩人様ですから! 恩人のお願いであれば、なんでも聞きますとも!」
この場にいる人々は、皆一様に感謝の意を表してくれる。
「ああ、ミア様、誠にありがとうございます! おかげで皆が救われました!」
「私達の仲間を助けていただき、本当にどうお礼を申し上げていいか……!」
「いえ。それより皆さん、石化以外にも、怪我とかしているでしょう? 今、治癒しますね」
広域治癒を使い、この場にいる人達全員の治癒を行う。先程のボスランク魔獣や、ダンジョンの魔獣に皆さん結構やられていたようで、なかなかの量の傷が集まった。
「すごい! これこそまさに、聖女様のお力……!」
「こんなふうに一瞬で怪我や呪いが治るなんて……奇跡だ!」
「聖女様……!」
そこで、レオ君のお父さんに、深く頭を下げられる。
「石化の呪いを解いていただき、また、レオをここまで守っていただいて、誠にありがとうございます。このご恩は、何らかの形で、必ずお返しいたします……!」
「お姉ちゃん、本当に本当にありがとう!」
「ああ……魔獣のブレスを受けたとき、俺はもう終わりだと……もう家族には会えないんだと、悔しくて仕方がなかった。またお前と会えて、お前の笑顔が見られて、本当に嬉しいよ、レオ……!」
レオ君のお父さんの瞳には、涙が浮かんでいた。親子の美しい絆を祝福するように、周囲からも笑顔で拍手が起こる。
(……よかった)
もとは学園祭の競技のために訪れたダンジョンだけど、思いがけず温かな光景に出会うことができた――
◇ ◇ ◇
ダンジョンからの帰り道。寮への道を戻りながら、話す。
「それにしても。普段はダンジョンにあんな魔獣はいなくて、最近強い魔獣が出たり凶暴化していたりって話だったけど、一体どういうことなのかしら?」
「魔王の仕業だろうな」
そう答えたのは、リューだ。小さな翼をパタパタと動かしながら語る。
「魔王が、この世界に侵食しようとしているのだ。その影響で、普段は現れるはずのない魔獣が現れたり、瘴気がなくても魔獣が凶暴化したりしてしまう。そんなことが、今後どんどん起きるようになるだろう。それを止めるためには、魔王に生贄を差し出す必要がある」
……その生贄とは、フローザのことだ。
このままだとフローザは魔王に差し出され、他の人々のため、彼女は犠牲になってしまう。
フローザの幸せのためには、ルディーナ達のことだけでなく、そちらの問題も解決する必要があるのだ。
「ねえ、リュー。魔王をぶっ飛ばして解決することって可能だと思う?」
「うむ。お前は我を倒した聖女だ! 魔王にも当然勝てるだろう! さすがは我が認めた聖女!」
「いや、まだ倒せるって決まったわけじゃないし。魔王ともなると、相当強い敵なんだろうしね……」
リューはノリノリだが、ヴォルドレッドはなんだか静かだ。気になって、彼の顔を覗き込む。
「どうかした? ヴォルドレッド」
「……いいえ。ただ、ミア様のことが心配なだけです。別にあなたがそこまですることはないかと」
「心配してくれてありがとう。まあ、魔王がフェンゼルに危害を加えてくるようならぶっ飛ばすってだけよ。せっかく苦労して前国王を王座から引きずり下して、だんだんいい国になっているっていうのに。それをぶち壊しにされるなんて腹立たしいじゃない」
ダンジョンでの戦闘も楽勝だったし、このままなら、学園祭は問題ないはずだ。
あとは魔王の問題さえどうにかできれば、全てがめでたしめでたしで終われるのだけど――
(さて……魔王とやらは、聖女の私を相手に、どう出てくるのかしらね)
読んでくださってありがとうございます!
次回更新は明日です!