82・迷宮で無双します
学園祭で迷宮探索に参加すると決まった、次の休日――
「問題ないとは思うけど、念のためダンジョンに下見に行ってみましょうか」
「はい。もちろんお供します、ミア様」
「我も行くぞ、ミア」
私はヴォルドレッドとリューを連れて、ダンジョンに行くことにした。
アレンテリア魔法学園は全寮制で、食堂や購買などの施設も充実しており、学園内だけで生活には不自由しないようになっている。けれど休日なら、寮長の許可を得れば外出は自由なのだ。
「寮長。私、外に出たいの。もちろん許可をくれるわよね?」
「え、ええ、もちろんよ」
にっこり笑顔の私と、冷や汗ダラダラな寮長というやりとりを経て、私は学園の外に出る。
そして魔法施設の転移魔法陣を使い、ヴォルドレッドともにダンジョンを訪れた。
(前に浄化のため一度だけ来たことがあるけど、なんだかゲームとかアニメみたいで、テンション上がるのよね)
石造りの地下迷宮、魔獣との戦いに、ドロップアイテム。ファンタジーの象徴とも言えるものが集まっているのだ。ワクワクと胸が躍る。
学園祭の日だけは貸切るそうだけど、普段は別に学園専用じゃないから、他の冒険達もいる。体格のいい剣士に、ローブを纏った魔法使いらしき人、大きな盾を持った人……。
興味深く周囲を観察していると、なんだかガラの悪そうな男性二人組と、バチッと目が合ってしまった。
「あんたら、新顔だな。そんな細っこくて大丈夫かぁ? 随分弱っちそうだ」
「なんだよ、いい服着てんじゃねえか。ダンジョンで稼がなくても、金持ってんじゃねえのかぁ? 金出せよ、金!」
彼らは、そう言ってギャハハと笑う。今の私はフローザの身体だし、ヴォルドレッドも、学園と同じように認識阻害の魔法を使っている。誰も私達が、聖女と騎士だなんて思っていないのだ。
「お断りします。知らない人に金銭を渡さなければいけない理由がありませんので」
「ああ!? なんだ、その生意気な態度は! お前らみたいな奴、ぶっ飛ばしてやってもいいんだぞ!?」
「ま、お前らみたいな奴、俺らがやらなくたって、そこらの魔獣に襲われて泣きべそかくだろうがな!」
すると、そこでちょうど魔獣が出現する。
「はは! 運が悪いなあ、あんたら。この層にしちゃ強い魔獣のお出ましだぜ!」
「こいつぁ初心者向けじゃねえな! 有り金全部出したら、助けてやってもいいんだぜ!?」
男達はゲラゲラ笑う。別にこんな奴らのことどうだっていいんだけど、ここまで言われたら黙っているのも癪だ。
(とはいえ普通に傷を移したら、さすがに聖女だってバレるかもしれないわね。なら……)
リューを倒したときのように、魔獣の「中」に傷を移した。
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
魔獣は断末魔の叫びを上げて崩れ落ち、アイテムをドロップする。
冒険者達から見たら、一瞬にして魔獣が倒れ、何が起きたかわからないだろう。
「は……!? な、なんだ今の!? お前がやったのか!?」
「こんな魔法、初めて見た……!」
間近で見ていた男二人は、さっきまで私を軽んじていたにもかかわらず、目を丸くして後ずさっていた。
「で? あなた達は、お金が欲しいんだったかしら? ならいっそ私達と戦って、勝ったほうが全財産を渡す、とかいう勝負でもする?」
「い、いえ、滅相もございません! 舐めた口利いてすみませんでしたっ!」
「で、では、俺達はこれで失礼しますので!」
「そう。言っておくけど、他の人達にも、カツアゲみたいな真似するんじゃないわよ?」
「は、はい、もちろんです!」
冒険者達は、ぴゅーっと逃げるように去って行く。
「ダンジョンに入って早々あんな奴らに絡まれるなんて、ついていないわね」
「ですが、さすがはミア様です。お見事でした」
周りに他の人の目がないのを確認して魔獣から傷を回収し、ドロップしたアイテムも拾う。それから魔獣そのものも、肉が食料になったり、骨が武器などの素材となったりするので、そのままアイテムボックスに入れた。
「よし。この調子でサクサク進みましょうか。ダンジョンの内部に慣れておいたほうがいいだろうしね」
どうせルディーナ達は、己の実力を過信しているから、事前にダンジョンの下見になんて来ないだろう。私達のほうが、学園祭の競技を有利に進められると思う。
そう考え、魔獣を倒しながらダンジョン内を進んでいった。聖女だとバレるのは避けたいので人目がないところ限定だけど、力を使ってガンガン魔獣を倒してゆく。その結果、アイテムもどんどん溜まっていった。
「ふふ。ちょっとネット小説の冒険ものみたいで楽しいかも」
「ミア様が楽しいなら何よりです。鮮やかなあなたの姿を見ていると、私の心も満たされます」
(うん。この調子ならやっぱり学園祭も大丈夫そうね)
もはや観光気分でダンジョン内を歩いていると、近くから鳴き声が聞こえてきて――
「う、うぇっ……」
(え……? 子ども……?)
ダンジョン内で、一人ぼっちで泣いている男の子を見つけ、小走りで近付く。
「大丈夫? 誰かとはぐれちゃったの?」
男の子は涙を拭いながら、顔を上げる。
十歳くらいの子だろうか、一人でこんなダンジョンを探索するには幼すぎる。
「お父さんを、探してる……」
「お父さんとはぐれちゃったのね。大変……」
「ううん……ここには、一人で来たんだけど」
「え……? 一人でって、どうして」
「僕のお父さん、冒険者で。一昨日、いつも通りダンジョンで稼いでくるって出て行ったんだ。でも、それから帰ってこなくて……。心配で、お父さんを探しに来た。だけど全然見つからなくて……」
一度拭った涙が、またじわりと零れそうになる。不安で、怖かっただろう。
「わかった。じゃあ、一緒にあなたのお父さんを探しましょう」
「いいの!?」
「もちろん。あなた、お名前は?」
「僕、レオ!」
「私はフローザ、よろしくね」
こんな小さい子、さすがに放っておくわけにはいかない。
私の言葉に、レオ君は安心したように微笑みを浮かべて――
そこで、レオ君のお腹がぐーっと鳴る。
「あ……ご、ごめんなさい」
「謝ることないわ。お腹が減っているのね、ちょっと待って」
アイテムボックスの中から、作り置きのおにぎりと、からあげを取り出す。
聖女のアイテムボックスの中では時間が止まった状態になるので、腐ることもないし、できたての温かい状態のままだ。
「はい。これ、あげるわ」
「わ、あったかい……これ何?」
「『おにぎり』と『からあげ』っていうの。食べてみて」
「うん……いただきます」
レオ君は、まずからあげを口にする。そして、ぱあっと目を輝かせた。
「おいしい! サクサクして、中は柔らかくて、こんなの初めて食べた!」
読んでくださってありがとうございます!
次回更新は9月5日(金)の予定です!