79・加害者達は、王国騎士団の勧告を受けます
翌朝。生徒達が寮から学園へと登校する時間。教師達は門の前に立ち、生徒達の身だしなみなどが校則に違反していないかなどを確認している。
そんな、よく晴れた青空の下で――
「え……!? あれは……」
生徒達も、教師達もザワッと声を漏らす。
学園に、とある集団が向かってきたのだ。
その集団は、規則正しい足並みで校門前まで歩みを進めると、ヤミルダの前でぴたりと止まった。
「フェンゼル王国騎士団だ。本日は教師陣に話があって来た」
そう。やってきたのは王国騎士団の人々だ。教師に紋章を見せて偽物ではない証明をした後、険しい顔つきで告げる。
「この学園で犯罪行為が横行しているとの報せを受けた。教師陣の見解を聞かせてもらう」
「まあ、犯罪行為!? そんなこと、私どもは全く知りませんでした! そんな野蛮なことをしたのは、一体どの生徒ですか!? 学園の恥です、厳重に罰しなければ!」
「ああ。本当に、フェンゼルの恥だ。何せ、暴力や器物破損などが日常的に行われているようだからな」
「まあ、許しがたい犯罪ですね! そのような生徒、この学園に不要ですわ! 捕らえて牢獄にでも入れてやってくださいな!」
「本当に、許しがたい。魔法攻撃を行ったり、個人の持ち物を破いたり、それ以外にも非常に卑劣な行為が、長い間放置されていたようだな」
「まああ! なんて酷い……」
「魔王の生贄候補だからという理由で、生徒がそのような仕打ちを受けていることを、貴殿は何とも思わないのか?」
騎士さんがそう口にした瞬間、ヤミルダを筆頭に、周囲の空気が凍りついた。
今まで、学園という閉ざされた空間の中で物事が完結していたから、外部に、まして王国騎士団に自分達の行いが暴かれるなんて考えていなかったのだろう。今更になって焦っているのかもしれない。――何もかも、もう、遅いけど。
「ああ、何とも思わないから、自身も生徒を害することに加担しているのだろうな。いや……何も思わないどころか、貴殿は生徒が傷つく姿を見て、愉快だと思っていたのではないか」
「な……何のことでしょうか。何をおっしゃっているのかわかりませんわ! 私が、生徒を害することに加担? そのような事実はございません!」
「王国騎士団に事実を隠蔽し、虚偽の報告をするつもりか? それは、国王陛下を欺く行為でもあると理解してのことか?」
ヤミルダの顔が、ざっと青くなる。その身体はカタカタと震えていた。
「生贄候補というのは、本人が望んでなったわけではない。一人の尊重すべき人間だ。決して軽んじたり嘲ったりしていい存在ではない。まして教師が生徒達の加害行為に加担するなど言語道断」
「お待ちください! 一体何を証拠に!? 言いがかりですわ!」
顔を青ざめさせながらも、ヤミルダはまだ言い逃れしようとしていたので――そこで私は前に出てゆく。
「――証拠なんて、いくらでもあるでしょう?」
私は、制服の袖をまくってみせる。そこには、こういうときのために治癒しないでおいた、傷だらけの腕。お腹とかはもっと酷いけど、皆の前で服を脱ぐのはフローザに失礼なので、さすがにこの場でこれ以上はやめておく。
だけどそれ以外にも、落書きされた教科書や昨日破かれた本などなど、証拠は揃っている。私はそれを、騎士団の前に差し出した。
「この傷、ボロボロにされた教科書や本。全て、この学園の生徒や教師にやられたものです」
魔法の鏡で記録した映像もあるけれど、「今はまだ」そのときじゃない。早く楽にしてやるつもりはないから。……とはいえヤミルダもルディーナも、この段階で既に震えていた。
「フローザ! あなた……なんで喋るのよ!?」
「逆に、先生は何故、私がずっと黙っていると思ったのですか? 毎日、明らかに理不尽な目に遭わされてきたのに?」
「だ、だからってこんな、王国騎士団の方々に、なんて……。あなた、恩師を売る気!?」
「恩師? 誰のことでしょうか? おかしなことをおっしゃるのですね。自分を痛めつけてきた人間に恩などありません」
「なっ……」
「教師とは、生徒を導くものでしょう。年長者であるあなたが、身分の高さなんてものを理由に一部の生徒を贔屓し、犯罪行為を目撃しても注意すらしないなど、問題だと理解できませんか? あなたがそんなだから、ルディーナ達がここまで増長してしまったのですよ。ルディーナ達も悪いですが、加担したあなたの罪も重いです」
ヤミルダは私より年上だ。大人であり教師という立場にありながら、ルディーナ達の行為を止めるどころか加速させていた。同情の余地はない。
「お、お待ちくださいませ、騎士様! フローザは、たかが男爵の娘ですよ!?」
「だから何だ?」
「私は子爵家の出身ですし、主犯のルディーナ嬢は侯爵家の令嬢、しかも公爵子息の婚約者です! どちらが優先されるべきかは明白でしょう!?」
「リースゼルグ国王陛下は、前国王とは違う。身分がどうであれ不当に人を虐げることを、陛下はお許しにならない。貴族が敬われるのは、高貴な者の義務を果たしてこそだ。身分とは、他者を貶めても許される盾ではない」
「う……」
ヤミルダは唇を噛み、わなわなと震える。そんな彼女に、騎士団が「ひとまずの」処分を告げた。
「加害者である生徒・教師共に、今まで被害者の所持品を壊した賠償金と、心身を傷つけた慰謝料を支払うこと。今後は二度とこのようなことはしないと誓約書を提出すること。それから、ヤミルダを始め、今までこのような犯罪行為を看過してきた教師陣の給与は大幅に減給するものとする」
心当たりのある生徒・教師陣はザワッと声を上げるが、はっきり言ってまだ、かなりぬるい罰だと思う。一人の人間の人生を壊したのだから。もっとも、この段階での罰がぬるいのは、わざとだけど。
「今回はこの程度で済ませてやる。……言うなれば、これは勧告だ。フローザ嬢の寛大な心に感謝することだな。また、これで許されたと思わないように。次は陛下が直接視察にいらっしゃる。この注意を受けてなお貴殿らの行いが是正されていなければ、更なる処分を下す。肝に銘じておけ」
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次回更新は8月15日(金)の予定です!
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